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「かみかさ」第12話

いのりは、大学4年生になった。梅雨入りした日、誇らしげに傘を開き、傘をさせる毎日が続く事ににウキウキしていた。
学校の後、予約している美容院に行くのにも軽やかだった。

「こんにちわ。」
「いらしゃいませ。」
入り口まで出迎えてくれたのは燈郎だった。
「今日、店長の皆川が体調を崩し、私が担当させて頂きます。」
「えっ。」と、いのりは思った。
「皆川さんでないと、だめなんです。」とも言えず。
案内されるがまま、椅子に座った。
「せめて女性の方に代わってもらえませんかとか言えないのだろうか。」
そんな勇気はなかった。

燈郎は零宮いのり様が喋らない方なのも、いつも黒髪ストレートで、脇のラインで切られるのは把握していたし、カルテでも確認していた。
「いつも通り、脇のラインでカットすればいいですか?」
「はい。」

いのりは思った。
「母は、私が髪に触られるのが苦手と、皆川さんにお喋りしていてくれてないのか。それとも母自身が、その事を知らないのだろうか。

初めて男性に髪を触られた・・・母と皆川さん以外に触られた。」

身体は震えてるではないかと云うくらい緊張していた。

「母に美容院に行きたくないと、駄々こねたのは10年も前の事だ。」

ロングのストレートのカットは難しいが、燈郎も、もう4年目だ。
緊張している少女のような零宮様に話しかけなかった。
でも、かわいそうにさえ感じてきた。
「だんだん嫌われてる?
嫌われていってる?」
と不安になってきたが、
こちらが不安な表情を見せてはダメだ。

カットとシャンプーが終わり。いのりは店出た。


拒むのは嫌悪感
嫌悪に拒まれる
トキメキ

二人は微かに
触れ
震えていた


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ごめんなさい。詩に夢も憧れもありません。できる事をしよう。書き出すしかない。書き出す努力してる。結構苦しい。でも、一生書き出す覚悟はできた。最期までお付き合いいただけますか?