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《3》韓国の出版社が運営するブックカフェ「CAFE COMMA 合井店」訪問記

 2月のある日、数年ぶりにソウルの西に位置する望遠洞マンウォンドンを訪れた。望遠洞と言えば望遠市場のほか、おしゃれなカフェや飲食店が集うエリアとして知られているが、私が2012~13年にソウル・新村シンチョンにある延世大学の語学堂で学んでいた頃は、こんなに注目されているエリアではなかったと記憶している。当時は新村の隣、弘大ホンデ合井ハプチョンが若者の遊び場で、弘大や合井の西側に位置する望遠洞や、グルメスポットとして人気の延南洞ヨンナムドンは、まだ栄える前だった。

 マイナス6度(体感温度はマイナス11度!)のなか街を歩いてみると、古くからある建物を活かして開店したと思われる素敵なカフェや飲食店、洋服屋などが点在。小道に入れば昔ながらのビラ(低層アパート)が立ち並び、小さな公園や保育園など、そこで暮らす人たちの日常が広がっている。新しきものと古きものが良いバランスで共存し、新鮮だけど懐かしい。街全体にそんな空気が流れていた。

 そんな望遠洞周辺の書店を調べていた時、隣の街、合井に韓国の出版社「文学トンネ(문학동네)」が運営しているブックカフェがあることを知った。その名も「CAFE COMMA 合井店(카페꼼마 합정점)」。ガラス張りのキューブをいくつも積み上げたような建物は6階建てで、地下1階と1・2・5階がカフェスペース。1階の注文カウンターで飲食物を購入すれば、各階に常設されている本を自由に読むことができる(5階は本なし)。

1階の様子。文学トンネから出版されたベストセラーや、作家が選んだ推薦本が並んでいた。他の階にある本は閲覧用だったが、ここに並んでいる本は購入もできるようだ

 2025年1月14日のソウル経済新聞の記事によると、このCAFE COMMAは2011年に文学トンネ直営のブックカフェブランドとしてスタートし、これまでソウルの汝矣島ヨイド、弘大、合井をはじめ、京畿道の松島ソンド光橋クァンギョなど6つの直営店を運営してきたそうだ。昨年12月にハン・ガン作家がノーベル文学賞を受賞したことを機に、今年1月にはハン・ガン作家の生まれ故郷であり、小説『少年が来る』の舞台となった全羅南道・光州クァンジュに初の地方加盟店をオープン。今後、全国に店舗を増やしていく予定だという。

2024年のK-BOOKフェスティバルにゲスト出演されていた詩人、旅行フォト・エッセイストのイ・ビョンリュルさんによる推薦図書のコーナー。イ・ビョンリュルさんの本は、50か国以上、200を超える年をめぐり、その旅の思い出と詩をつづったエッセイ『いつも心は旅の途中』がマガジンハウスから翻訳出版されている
2階の様子。外国文学、韓国文学、詩などが並んでいた
私の好きな小説家、チェ・ウニョン作家の『明るい夜』(左)と、ペク・スリン作家の『夏のヴィラ』(右)。どちらも原書で読むことに挑戦した思い出深い1冊。2冊とも日本で翻訳本が出版されたので、日本語で読むことができる
2階の様子
2階の海外文学コーナーで村上春樹さんの小説を見つけた。村上さんの本は韓国で大人気
5階の様子。合井の街が見渡せる
地下1階の様子。大きなソファー席のほか、テーブル席がたくさんあった
チェ・ウニョン作家の推薦図書が並んでいた(下段)
2024年のK-BOOKフェスティバルにゲストとして登場されたキム・チョヨプ作家の推薦本も
益田ミリさんの本は10年前のソウル国際図書店でも大人気だったが、今も変わらず翻訳本が出版され続けている様子
近所の歯医者さんの待合室にあり、気になっていた本がここにも!コルドンブルーパリを首席で卒業したフレンチシェフがおすすめする、パリの魅力的なレストランと食べ物が紹介されている。写真を見るだけでもフランスを旅した気分になれた

 建物の中をざっと見学した後、1階のカウンターに座り30分ほど読書をした。手に取ったのは、昨年8月に出版されたキム・エラン作家の最新作であり、2冊目の長編小説となる『이중 하나는 거짓말(この中の一つは嘘)』。今まで読みたかったけれど、その内容が故にどうしても手にとることができなかった短編小説集『外は夏』(キム・エラン著、古川綾子訳)も、最近ようやく読めるようになったので、今年はキム・エラン作家の本にたくさん触れていきたい。

ブックカフェの外観

【ソウル・合井】
CAFE COMMA(카페꼼마 합정점)
서울 마포구 포은로 49
070 - 4179 - 2205
月~日 10~22時
元旦、旧正月当日、秋夕当日は休み


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