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#小説 記事まとめ

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#物語

メロンソーダの味、あの夏の微笑み【ショートショート】

その夏、僕らはメロンソーダの味を覚えた。思い出すのは、あの青空と君の微笑み。緑色の泡に、冷たい氷の感触。そんな些細なことが、僕らの心に深く刻まれている。 君と出会ったのは、昼下がりのラムネ売りの店。太陽は煌々と輝き、街はまばゆい光で溢れていた。店の棚に並んだ瓶詰めのラムネを見つめていた君の視線は、まるで小鳥が虹色の羽根を眺めるようだった。 そして、君はメロンソーダを選んだ。僕も同じものを選び、君と並んでベンチに座った。 初めて君がその瓶を開けた瞬間、ソーダが泡立つ音が静

【小説】散ることの無い桜をあなたに。 - 無色【現代ファンタジー】

- 序 - 桜は儚い。全く、春は恐ろしい季節です。 - 本篇 - 「なぁ、春原」 「なんですか先輩」 「桜はなぜすぐに散ってしまうんだと思う?」  客と待ち合わせをしている店へ向かっている車内で、新人社員の春原(すのはら)は先輩の菜花(なばな)にそう問いかけられた。  春原は窓の外の、車が過ぎ去るだけのつまらない景色を眺めながら、そんなことわかるわけが無いだろうと内心舌打ちをしていた。  春原にとって自分の教育係になった菜花は不思議な人間だった。どうも理解できないと言う

【小説】満腹の親しみを込めて

忙しい商社マンで独り暮らしの斉木は、夕飯を大抵外食で済ませる。男が独りで入っても違和感がないラーメン屋だとか定食屋が多いのだが、タウン誌でクーポンを探していた時に気になる店があった。「一樹一河の一皿に出逢うレストラン」という一風変わった店名に、独り暮らしの寂しさも相まって目を留めたのだ。そのフレンチレストランは、名前の通り何から何まで常識を覆す店だったが、その裏には本物のフレンチを究めようとする思いがあった。 1 赤坂の高級レストランで、今夜も取引先の接待をするために早めの

このちっぽけな島で -59-

~ご案内~ あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】【㊗連載小説50話突破】 前話はコチラ→【第58話・井戸妖怪】 重要参考話→【第51話・学ぶ人】(まいまい島編開幕)       【第54話・人間を愛したい】(現代のまいまい島民の叫び)            【第56話・ジェイルボックス】(ブルームアーチなど) 物語の始まり→【第1話・スノーボールアース】    ~前回までのあらすじ~ 正義屋養成所襲撃事件からおよそ一年と半年。正義屋養成所の四年生に進級し

【小説】藍色とノクターン - Yayuki【ヒューマンドラマ】

- 序 - フィクションにほんの少しの体験を混ぜて、黎明風味にしてみました。 - 本篇 -  深く長く覆いかぶさっていた闇が明けるころ、空は鈍い藍色を映し出す。藍々はこの空の色が好きだった。何にもなれない自分を唯一受け入れてくれる場所。藍々は、冷たい地面に座り込んで、もう何回見たかも思い出せない藍色を見つめた。はじめのうちはこの藍色を見るたびに心の隅に罪悪感を抱いた。今では後悔していない。ただただ美しい藍色だった。少し肌寒さを覚えだした秋の夜明け、藍々は混沌とした街を見

短編小説【田々井村から】

《あらすじ》 山村の田々井村から都会に出てきた私は、あるとき地図を拾う。都会は美しく、ふるさとは違う。そう思いながらも、自然豊かな情景が書かれた地図に興味をひかれる。地図がきっかけで、田舎の美景を目にした私は、田々井村にもそれがあったと気づきはじめる。        『田々井村から』  大学の門を出ると、秋の虫が鳴いていた。田舎では毎日鳴いていたから、うるさかった。都会だと珍しいからか、新鮮にさえ思えた。ついこの間まで明るかったのに、いつのまに日の入りが早くなったのか、

【物語】風吹く丘の林の中で

小高い丘の真ん中に、かわいいお家が建っていました。赤い屋根に白い壁。そのお家の裏庭の奥に、小さな林がありました。そこでは、動物たちが暮らしています。 朝日がのぼると、一番高い木の上で、モズが鳴きます。 「おはよう、朝がきたよ」 その声を聞いて、みんなが起きてきます。リスは、朝日を見に、細い枝をちょこちょことのぼります。野ウサギは、耳をピンと立てて、風の音を聞いています。ガサゴソと木の穴から出てきたのは、タヌキ。 「おはよう。みんな、早起きだね」 大きなあくびをしなが

虹の橋〜命の意味を知ったわんこの物語

 ぼくはゴンタって名前のワンコ。おじいさんがつけてくれた名前だ。優しいおじいさんと、ぼくと、クロって名前の最近うちにやってきた猫と三人で暮らしている。小さなクロは、雨の日に、ミィミィ鳴いておじいさんの家の庭に入ってきた。優しいおじいさんは、クロを家に入れて、おふろにいれて、ご飯を食べさせた。おじいさんがその時こんなふうに言っていた。 「ゴンタや。おまえに出会ったのも、雨の日だったなぁ。いつも散歩に行くあの公園で、段ボールに入れられて、きゃんきゃん鳴いとったなあ。こいつも、おま

小説 〜人型高校〜

小説を書いてみてはどうかとリクエストを頂きました。なので本日の投稿は初めてなりに頑張って書いたオリジナル小説です。 今日は僕の高校の入学式。新しい仲間に会うことがとても楽しみだ。だって僕は15歳までのあらゆる情報は持っていても、実際にこの目で外の世界を見たことがないからね。だから全てが未知だ。この開けた世界で一体どれだけの情報を手に入れ、僕の思考を進化させられるだろうか。。。! おっと、深部コアの思考が外部に漏れてしまったようだ。こんな失態、学校の中で起こす訳にはいかない

物語の欠片 濡羽色の小夜篇 10

-カリン-  ローゼルの誕生祝いの宴は、迦楼羅の間というカリンが普段立ち入ることのない部屋で行われることになっていた。  この部屋は、大鷲の間や鳳凰の間のように大勢での式典や晩餐会ではなく、王族が少人数の来賓を招いて食事をするための部屋なので、王族か王家に仕える官吏たちでなければ、そうそう立ち入る機会はない。カリンは王になる前のレフアの誕生祝の宴で何度か足を踏み入れたことがあったが、数年前に一度だけ参列したローゼルの誕生祝が随分と久しぶりの機会だった。  レンは当然初めての

映画『四月になれば彼女は』公開直前記念号 (全文無料公開)

※「物語の部屋」メンバーシップ特別試写会の募集は定員に達したため締め切らせていただきました。 映画『四月になれば彼女は』の公開まで、あとひと月と少しになりました。 桜の開花を待つような、そわそわした気分で毎日過ごしています。 小説『四月になれば彼女は』は2016年に発表した小説です。 当時、僕のまわりから恋愛をしている人がどんどんいなくなっていくのを目の当たりにして、その謎を解きたくなり、この小説を書き始めました。 100人を超える男女に取材し、さまざまな恋愛のかたちに

青春小説|『タイムリープ忘年会』

『タイムリープ忘年会』 作:元樹伸 第一話 忘年会の誘い  年の暮れになって、久しぶりに高校時代の友人から電話があった。年末に部活OBの忘年会があるという。平成元年の今年は、成人したばかりの後輩たちも参加してくれるらしい。 「つまりは松田も来るってことだ」  幹事を務める同期の真関くんが、電話口で含みのある言い方をした。 「へぇ」  動揺していることを勘ぐられたくなくて、気に留めないそぶりで相槌を打ってみせた。けれど僕の気持ちはすでに過去へとタイムスリップしてい

春が半分泣いている。

「彼女、美人だけどニコリともしないでしょ。だから”冷子さん”」  西藤さんは紙の左上をホチキスで留めながら言った。何も応えられずに曖昧な笑みを浮かべると、「悪い人ではないんだけどね」と控えめに付け加えてから別の話題に移っていく。  私はほっとしたのを気付かれないように相槌を打ちながら、別のデスクの島で黙々と作業をするその人を横目に見た。  清潔感のある白い壁紙に艶を消した灰色のオフィスデスクがひしめく一室。密やかな話し声と複合機が紙を吐き出す音が満ちる中、その人だけが別

イルカの恋は涙色 第1話

私は水泳が苦手。 プールに入ると、やけに身体が重い気がするし、クロールや平泳ぎをしても、手足をどう動かしていいか、いまいちわからない。 そんな私の泳ぎを見て、みんなが笑う。 だから、私は水泳が嫌い。 ビート板に捕まって泳ぐのは誰よりも早いのに、先生はすぐ、ビート板なしで泳いでごらん、という。 私は真っ直ぐ前に手を伸ばして、足だけバタバタさせて泳いでみる。 手で水をかいて進むのよ、 先生は一生懸命教えてくれるけど、 やっぱりうまく泳げない。 だけど海は好き。 波の音 潮の

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