川村元気 Genki Kawamura

小説家・フィルムメーカー。小説『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』『百花』『神曲』、対話集『仕事。』『理系。』等を上梓。映画『告白』『悪人』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』『怒り』『すずめの戸締まり』『怪物』等を製作。genkikawamura.com

川村元気 Genki Kawamura

小説家・フィルムメーカー。小説『世界から猫が消えたなら』『億男』『四月になれば彼女は』『百花』『神曲』、対話集『仕事。』『理系。』等を上梓。映画『告白』『悪人』『おおかみこどもの雨と雪』『君の名は。』『怒り』『すずめの戸締まり』『怪物』等を製作。genkikawamura.com

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この小さくプライベートな部屋では、僕が日常生活の中で「気づいたこと」を物語だったりエッセイだったり、そのどちらでもない不思議な読みものだったりにして、お届けしたいと考えています。メンバーとコミュニケーションしながら、自分が作ってきた映画や小説の創作裏話、最近作っている映画や小説のメイキング的な読みもの、衝撃を受けた作品の映画評、クリエイティブQ&Aなどもお届けできたらと。Q&Aは、映画やアニメを作りたい人、小説を書きたい人、音楽やアートや芝居などの表現する仕事をしたい人はもちろん、それらを観たり聴いたりすることが好きな方々とも気さくにやれたらと思っています。人数が少ないうちは、ひとり一問は答えたいなと思っています。時には、読書会やサイン会、試写会を兼ねたトークショー、クリエイターゲストとの対談、のようなイベントで、メンバーとクリエイティブについての答え合わせなんかもやれたらと思います。 ●入場料は月2000円です●エッセイや物語を月2〜3回お届けします●クリエイティブQ&A(人数が少ないうちは、ひとり一問は必ず答えます)●年に2〜3回、川村元気が企画するイベントにご参加いただけます。

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小説『私の馬』発売記念号「紙の本をつくるということ」(全文無料公開)

本日9月19日、小説『私の馬』が刊行された。 3年にわたる”あの事件”についての取材。100頭以上の馬や、その乗り手たちとの出会いを経て、ついに読者の皆様にお届けできると思うと感無量だ。 この3年のあいだに、本を取り巻く状況もかなり変化した。 本を読む時間の大半は、スマートフォンに奪われてしまった印象がある。 この物語そのものが、スマホの中の言葉に疲れ果て、それでもそこから離れられない僕自身の実感から生まれたものでもある。 そんな状況の中で、「紙の本」をつくるという行為が

    • 第31話 映画と建築はどこか似ている

      昨日から、あたらしい映画の撮影に入った(発表はもう少し先になる)。 今年の前半はずっとひとりで小説を書いていたから、映画の撮影に入るとこれほどまでに頼もしい仲間たちがいるのかと、心が踊る。 映画の撮影チームは「組」と呼ばれる。たとえば僕の監督作だと「川村組」となる。 昔気質な呼び方だが、いまだに変わらないし、なんだかしっくり来てしまう。 スタッフの各パートは「部」と呼ばれる。 撮影部、照明部、録音部、美術部、装飾部、衣装部、制作部、演出部、そして俳優部。 総勢100人を

      • 第30話 ハブラシ山の底なし沼

        小学生の頃に住んでいた家のそばに、ハブラシ山という小山があった。 それは埋立地にあり、人工的に作られた山だった。 だが年月が経つにつれそこには草木が生い茂り、本物の山のようになっていった。 ハブラシ山にはカマキリやトノサマバッタがたくさん集まり、僕は毎日のようにそこに出かけて、日が暮れるまで虫取りをしていた。 ある日、ハブラシ山の奥に沼を見つけた。 中学生数人が、釣り糸を垂らしていた。 「釣り」という行為を知らなかった小学生の僕は、奇妙な光景に惹かれ茶色く濁った沼の中を覗

        • 第29話 黒い十人の男

          高速バスを降りるとスーツケースを引きずりながら自動ドアを抜け、空港のチェックインカウンターに駆け込む。ロサンゼルス行きの飛行機に乗ります、と制服の女性に伝える。手渡したパスポートの赤が、やけに鮮やかに見えた。 「お客様」 女性が申し訳なさそうに、眉間に皺を寄せる。 「こちら羽田空港です。お客様の便は成田空港からのご出発になります」 そんなバカな? 拍動が上がる。 離発着を告げるアナウンスと旅行客たちが談笑する声が混じり合い、くぐもって聞こえる。 出発時間まで一時間。 どう

        • 固定された記事

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          第10回 Q&A 書くに足る「違和感」の見つけ方 

          A .GK 作家がどんな「違和感」についてどのように「気づくか」。 その発見のプロセスには以前、下記にも書いたのでぜひ読んでみてください。 あと、最近僕にとって大きな学びとなったのは、映画『怪物』を作った時の脚本家・坂元裕二さんの「気づき」のエピソードです。そちらについては、下記に書いています。 坂元裕二さんの世の中に対する視点(視線)、そしてそれに対する感じ方や拾い上げ方については、本当に大きな刺激を受けました。 「違和感」は「ポストの上のくま」のような、些細なものも

          第10回 Q&A 書くに足る「違和感」の見つけ方 

          第28話  感じる、調べる、書く

          小説『私の馬』が刊行されてから、サイン会や講演会などがいくつかあり、そこで小説家や脚本家志望の方々とお会いすることが多くなった。 「どうやって物語を書き上げるのか?」 それが、最も多い質問だ。 人から問われて、自問する。 果たして、自分はどうやって物語をつくっているのかと。 「この世界にある小説の99%は未完なんです」 かつて文芸編集者から言われた言葉が頭をよぎる。 ほとんどの物語は、書き始められたものの、最後までいきつかない。 小説原稿は最後に「了」の一文字を打つの

          第28話  感じる、調べる、書く

          第27話 目に見えないものを撮る、言葉のない世界を書く

          映画『四月になれば彼女は』のBlu-ray豪華版が手元に届いた。 ポスターやパンフレットも手がけてくれたデザイナー、宮本尚男さんの丁寧な仕事。 箱の紙選びから、繊細な色合いまでこだわり抜かれている。 国内編と海外編に別れたメイキングも見どころたくさんだったが、佐藤健と森七菜がみずからのカメラで撮影したフォトギャラリーが瑞々しくて息を呑む。 そこには撮影中の俳優だけに見えている景色が写っていた 小説にも映画にも登場するフレーズを思い出した。 「目に見えないものを撮る」

          第27話 目に見えないものを撮る、言葉のない世界を書く

        記事

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          第26話 馬と私の、嘘のような本当のはなし

          小説『私の馬』を書くにあたり、100頭以上の馬に会いにいった。 驚くほど、どの馬にも個性があり、それぞれの馬との思い出がある。 そのなかで、不思議な体験がいくつかあった。 ↓お申し込みはこちら↓ ※応募締め切り9月15日(日)24:00 岩手、遠野で馬を引きながら一緒に山道を歩いた。 道の途中で、馬が立ち止まる。 日が暮れ始めていた。 焦れて、行くよ、と綱を引く。 けれども、500キロある巨体はテコでも動かない。 行こうよ! と声を張る。けれども馬は尻尾をのんびりと動

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          【トークイベントのお知らせ】小説『私の馬』発売記念noteトークイベント 川村元気×岸田奈美 日常から物語を生みだす

          9月24日、東京四ツ谷note placeにて、岸田奈美さんとのトークイベントを開催します。 テーマは「日常から物語を生み出す」です。 家族をベースに、身の回りで起こることを独自のユーモアセンスで描き、ノンフィクションという”物語”を紡いできた岸田さん。 僕は小説や映画などフィクションを語ることが仕事ですが、物語を生み出す前には、取材に多くの時間を費やします。 9月19日発売となる新刊小説『私の馬』も、実際に起きた横領事件からインスパイアされ、日本全国の乗馬クラブを巡り、

          【トークイベントのお知らせ】小説『私の馬』発売記念noteトークイベント 川村元気×岸田奈美 日常から物語を生みだす

          🐴緊急告知🐴小説『私の馬』発売記念noteトークイベント【川村元気×岸田奈美 日常から物語を生みだす】開催決定!

          このたび小説『私の馬』発売を記念して、9月24日、東京四ツ谷のnote placeにて岸田奈美さんをお招きしてトークショーを開催することになりました。 岸田さんは河合優実さん主演でNHKドラマにもなった『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』を皮切りに、次々と素晴らしいエッセイを送り出しており、そのユーモアセンスを通じてコミュニケーションについて考え続けてきた方です。 noteでも大人気の作家、岸田奈美さんが『私の馬』をどう読んでくれたのか伺いつつ、「日常か

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          小説『私の馬』予約開始記念号「言葉のない世界を、言葉で描く」(全文無料公開)

          四年半前。 仕事場に向かいながらスマートフォンを眺めていた僕は、流れてきたひとつの記事に釘付けになった。 とある女性事務員が十億円にも及ぶお金を着服し、業務上横領の罪で逮捕された。 数年間にわたり横領は続いていたのだが、誰も気付くことがなかった。 彼女は職場では影の薄い存在で、ギャンブルもやらず、男にのめり込むこともせず、粗末なアパートに住んで質素に暮らしていたからだ。 けれども捕まった時に、お金はまったく残っていなかった。 いったい彼女は、何にお金を使ったのか? 調べ

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          第 25話 窓の灯り

          これは半年前の真冬、深夜四時の出来事。 僕はパソコンに向かい、小説『私の馬』を書いていた。 自分の馬のために、億単位の金を横領する女の物語。 ラスト直前で筆が止まり、椅子から立ち上がって大きく伸びをした。 右を向くと窓。 その先には、僕の住むマンションと同じくらいの高さのマンションがある。 その中で、ひとつだけ灯りがついている窓があった。 六階の角。ちょうど僕の部屋と真向かいにある部屋。漆黒のレゴブロックの塊の中に、ひとつだけ黄色のブロックが組み込まれたかのように、その窓

          第9回 Q&A 作品における有料と無料の壁

          A. GK 賛否両論ある作品をつくりたいと、いつも思っています。 映画でも小説でもアートでも、長い目で見ると歴史に残っているのはそういう作品だからです。 映画『告白』あたりから僕のつくる作品は、常に賛否両論に晒されてきました(苦笑)。 「皆が絶賛」するというのは「その時代に見事にハマった」作品だと思います。 もちろんそのような作品に対する憧れもありますが、せっかく映画や小説をつくっているのだから、10年後、100年後にもどこかで語り継がれ、誰かに読み継がれていくものを作り

          第9回 Q&A 作品における有料と無料の壁

          第24話 背中を見て

          映画『ルックバック』に胸を貫かれた。 夕方にひとりで訪れた映画館の片隅で、なにかを創ることの尊さと残酷さを存分に味わいながら涙した。 漫画の才能に自信を持つ小学生の藤野と、家に引きこもりながら彼女の漫画を楽しみに待つ京本。実は高い絵の才能を持つ京本と藤野は、卒業を機にコンビを組み漫画家になっていくが……。 3年前、藤本タツキによる原作漫画を読んだ時、その天才ぶりに打ち震えた。 それは創ることの真実に迫った文学であり、完璧なカット割で構築された映画であり、緻密に描かれたア

          第24話 背中を見て

          第23話 罪といちごミルク

          これは、僕が小学校に入ったばかりの頃の記憶。 土曜日、学校が早く終わり同級生Kの家で遊んでいた。 彼の両親は共働きで、家にはKと僕以外には誰もいなかった。 ミニ四駆を走らせ、テレビを見て、ファミコンで遊んでいるうちに西陽が窓から差し込んできた。 「はらへったな……」 Kは窓外のオレンジ色を見ながら呟いた。 その顔が、妙に寂しげだったことをよく覚えている。 「そうだね」 それほどお腹は空いていなかったが、同意した。 そうしないといけないような気がしていた。すると彼は、

          第23話 罪といちごミルク

          第22話 岩井俊二の魔法と、上海映画祭

          山田尚子監督と時間をかけて丁寧に作ってきた映画『きみの色』がいよいよ2カ月後、8月30日に公開となる。 先がけて上海映画祭にてアジアプレミアを果たし、アニメーション部門の最優秀作品賞を受賞することができた(めでたい)。 上海映画祭を訪れるのは映画『世界から猫が消えたなら』の中国プレミア以来、8年ぶりだったが、その規模も熱気もさらに増していて中国映画界の勢いを感じた。 受賞以外にも、幸運なことがあった。 映画『空の青さを知る人よ』で仕事をした吉沢亮くんに久しぶりに会えたこと

          第22話 岩井俊二の魔法と、上海映画祭