イルカの恋は涙色 第1話
私は水泳が苦手。
プールに入ると、やけに身体が重い気がするし、クロールや平泳ぎをしても、手足をどう動かしていいか、いまいちわからない。
そんな私の泳ぎを見て、みんなが笑う。
だから、私は水泳が嫌い。
ビート板に捕まって泳ぐのは誰よりも早いのに、先生はすぐ、ビート板なしで泳いでごらん、という。
私は真っ直ぐ前に手を伸ばして、足だけバタバタさせて泳いでみる。
手で水をかいて進むのよ、
先生は一生懸命教えてくれるけど、
やっぱりうまく泳げない。
だけど海は好き。
波の音
潮の香り
海を見ていると、気持ちが和む。
でも私は海水浴をしたことがない。
パパは漁師なのに、ママは、私に
海は怖いのよ、などと言って、絶対に海に連れて行ってくれない。
一体ママは、なぜそんなに海を怖がるんだろう…
ママは若い時に事故に遭い、それ以前の記憶が未だに戻らないというから、もしかしたら海で怖い事故にあったのかもしれない。
それでも、ママは今は明るくて元気で、楽しくて、そんなことがあったなんて、信じられないくらい。
高校生2年の夏休み前のある日、友達が海水浴に行こうと誘ってきた。
そこで友達と一緒に、可愛いビキニを買いに行き、夏休みの初日にママには内緒で行くことにした。
しかし、直前でママに気付かれてしまった。
ママが、本当に恐ろしい顔で、行ってはいけないと言うので、私は泣く泣く諦めた。
しかし少しして、私はどうしてもそのビキニが着たくて、着てみた。
水色で、胸のところにヒラヒラしたフリルがついていて、ちょっと小さ目の私の胸も目立たない。
うん、似合う。
なかなか可愛いじゃん♪
私はその上にワンピースを着て、こっそり1人で海に行ってみることにした。
家から歩いて20分位のその海は、海水浴場から離れた小さな浦で、夏でも人気はない。
ママが小さい私を連れて散歩する時に、よくちょっと休憩ね、
と言って、道から眺めていた海。
岩場が多い上に、急に深くなっているから、遊泳は禁止になっていた。
ちょっと足を水につけるくらいなら、いいよね。
波打ち際に裸足で立つと、波がすーっとやってきて、少し足に触れた。
足が溶けていきそうな、不思議な感覚だった。
私は思い切ってワンピースを脱ぐと、海に入っていった。
初めての海だったのに、怖いとも思わずにどんどん海の中に入っていった。
そんなに先まで進んだつもりもないのに、すぐに足がつかなくなった。
あれ?
そのまま、誘われるように海の中にザブンと入った時に、私は私じゃなくなっていることに気づいた。
私は一頭のイルカになっていた。
イルカの体に、ビキニが食い込んでいる。
コレはやばい。
私は、少し奥の岩場まで泳ぎ、いったん陸に上がった。
すぐに身体は元に戻ったので、私はビキニを脱ぎ捨て再び海に入った。
泳ぎは苦手なはずだったのに、信じられないくらいスイスイと泳げる。
自由自在に気持ちよく泳げた。
泳ぐのってこんなに気持ちがいいんだ。
いつまでも泳いでいたい気持ちだったけど、もう帰らないと、ママが心配するから、その日は帰ることにした。
次の日曜日も私は、岩場でビキニを脱いで、イルカになって海を自由に泳ぐのを楽しんだ。
ところが、辺りを警戒することなく気持ちよく泳いでいた私の目の前に、突然一人のダイバーが現れた。
向こうも、突然目の前に現れたイルカに驚き、テンションが上がっているようだった。
彼が静かに近寄ってくる。
私は怖くなって、必死で逃げて岩場に戻った。
ビキニを着て、海岸に戻ると、先程のダイバーが、上半身のウエットスーツを脱いで休んでいた。
私を見ると、
キミ、今この海にイルカがいたんだよ、見た?
と聞いてきた。
私が首を横に振ると、
彼は、
以前、この浦でイルカを見た人がいるって聞いたんだけど、今日初めて見たんだ。
と言って白い歯を見せて笑った。
日焼けした浅黒い顔に、黒いツンツン立った短髪。
その笑顔の爽やかさ。
もろタイプじゃん!
でもまって、以前ってことは、先週より前ってことよね。
ってことは、私じゃなくて、他のイルカもいるってことなのね。
本物のイルカと泳いでみたいなー
私は、その後も海に行った。
本物のイルカに会いたい。
いやそれだけではなく、
あの青年に又会いたかったから…
第二話につづく
また、付録というか外伝的お話、
「漁師とイルカ」も、ここまで読んでいただいた方には、楽しんでいただけると思います。
宜しかったら、読んでみてください。
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