見出し画像

虹の橋〜命の意味を知ったわんこの物語



 ぼくはゴンタって名前のワンコ。おじいさんがつけてくれた名前だ。優しいおじいさんと、ぼくと、クロって名前の最近うちにやってきた猫と三人で暮らしている。小さなクロは、雨の日に、ミィミィ鳴いておじいさんの家の庭に入ってきた。優しいおじいさんは、クロを家に入れて、おふろにいれて、ご飯を食べさせた。おじいさんがその時こんなふうに言っていた。
「ゴンタや。おまえに出会ったのも、雨の日だったなぁ。いつも散歩に行くあの公園で、段ボールに入れられて、きゃんきゃん鳴いとったなあ。こいつも、おまえとおんなじで、可哀想な迷い猫だから、仲良くな。」

ぼくがおじいさんのとこに来たのは、十二年前だって。

 ぼくが赤ちゃんの頃、兄弟わんこと一緒に段ボールに入れられて捨てられてたんだ。冷たい雨が降っていて、寒くて凍えてたぼくたちをおじいさんが見つけてくれた。ぼくと他の二匹も一緒におじいさんが連れて帰ってくれて、温かいお風呂に入れてくれて、ご飯をくれた。でもぼくはちっちゃすぎてとても弱々しくって、自分でご飯が食べられなかったんだって。おじいさんは、犬用ミルクと注射器を買ってきてくれて、僕に飲ませてくれたから、だんだん元気になったんだ。

 おじいさんは、ぼくたちを迎えてくれる家族を翌日から一生懸命探してくれた。小学校や幼稚園の前に三匹の仔犬をかかえて立っていると、子どもたちはみんなおじいさんのまわりに集まってきて、ぼくたちのことを「かわいいね。」って撫でてくれた。けど、大人がやって来て、

「そこに立ってるおじいさん、困ります。仔犬は保健所に通報したらどうですか?」

って注意するんだ。おじいさんは、

「保健所だって?なんて事言うんだ!この子達が殺処分になるだけじゃないか?この子達が可哀想だと思わないのか?誰かこの子たちを大切に育ててくれる人は絶対いるから、わしが絶対に見つけてやる!」

と怒鳴り返した。おじいさんは、毎日ぼくたちを連れていろんなところに出かけては、里親探しをしてくれた。張り紙もした。街頭でメガホンを持って

「可愛い子犬たちの里親を募集してます。大事に育ててくれる人にもらって欲しい!」

と演説して、注目を集めた。

 ぼくたちと公園や川べりを散歩したり、ボール遊びをしてくれたり、おじいさんはすごく可愛がってくれた。ぼくたちはおじいさんと暮らせればそれでいいのに、どうしてこんなに一生懸命里親探しをしてくれてるのかな。

「可愛いお前たちと暮らすのはわしにとっても幸せなことだけど、もう歳だからなあ。お前たちより先にあの世に行くことになったらお前たちが生きていけないだろ。だからもっと若い人に飼ってもらったほうがいいんだよ。」

 ある日、幼稚園の前でぼくたちを撫でてくれた可愛い女の子が、お母さんの手を引っ張っておじいさんのところにやってきた。

「ワンちゃんたち可愛いでしょ?私いい子にするから、連れて帰ってあげようよ。これからのお誕生日プレゼントはずっといらないから、ねっ!お願い!」

涙ぐみながら、一生懸命お母さんにお願いする女の子に、お母さんはこんな風に言ったんだ。

「この仔犬たちは捨てられてたのよね。誰かが飼ってたのに、命があるのに、赤ちゃんなのに、公園に捨てたのよ。命をこんなふうに粗末に扱ってはダメよね。あなたは、ちゃんと一生この子達の面倒を見る約束ができる?命を大切に出来るかな?こんなに小さなワンちゃんを見れば、かわいいって誰でも思うわ。でもね、ちゃんとご飯をあげて、散歩にも連れてってあげて、遊んであげて、病気になったら病院に連れてってあげて、大切に育ててあげるってあなたが覚悟をするなら連れて帰ってもいいわ。萌ちゃん、どうなの?」

女の子は、じっと考えて、ぼくたちを見て、こくりとうなづいた。

おじいさんは、このお母さんと少女になら任せられると安心して、里親になってもらうことを決めたんだ。けれど、ぼくは三匹の中で一番小さくって、弱かったから、おじいさんは女の子に渡さなかったんだ。もしすぐに弱って死んじゃったら、少女がショックを受けるだろうからって、他の二匹だけ連れて帰ってもらったんだ。それで、ぼくはおじいさんと暮らすことになった。おじいさんはこんなふうに言ってくれるんだ。

「神さんがわしに宝物をくれたんだな。おばあさんに先立たれて、子どもがなかったわしは、一人寂しく暮らすしかないと思っとった。けど、ゴンタがわしのところに来てくれた。小さくて弱かったお前を死なせないように一生懸命育てることが出来ておじいさんは若返ったんだ。お前もすっかり元気に丈夫になって、こうやって大人になったお前と暮らせてる。毎日嬉しくて楽しくて、人生の最後にこんな幸せな時間を神さんがプレゼントしてくれたんだな。お前のためにも健康に気をつけて長生きしなきゃな。」

ぼくもおじいさんとずっと一緒でとっても幸せだよ。だって、おじいさんが一生懸命ぼくを育ててくれたから、とっても元気になって長生き出来てるんだから。クロも来て、三人で仲良く暮らしてる毎日がぼくにとっても宝物だよ。


 最近、ちょっと心配なのは、おじいさんが、散歩に連れてってくれる時、脚が痛そうで、胸も苦しそうで、何回も止まるんだ。ぼくは、おじいさんが痛いなら、散歩なんて行かなくたっていいんだけど、おじいさんは、こんなふうに言うんだ。
「ゴンタや。おまえもわしも、もう歳だなぁ。だから、毎日歩いて鍛えなきゃな。どっちが長生きするか競争だな。」

 ある朝、いつも早起きのおじいさんは、全然起きて来ない。おじいさんの布団まで行って、吠えてみても起きない。クロがおじいさんの肩のあたりにピッタリくっついて、すりすりしている。ぼくも近寄って顔を舐めてみた。おじいさんの顔は、氷みたいに冷たいんだ。おじいさん寒いんだね。ぼくが温めてあげるよ。ぼくは、いつもおじいさんが着ているちゃんちゃんこをくわえておじいさんの上にかけてあげた。クロも心配そうな顔をして、おじいさんから離れようとしない。ニャー、ニャー、、、

おじいさんは動かない。おじいさん、どうして起きないの?ぼくお腹が空いたよ。喉も乾いたよ。おじいさんもお腹すいたでしょ?、、、、クロもお腹がすいてるから、家の中をウロウロし始めた。猫ってすごいね。高いところにジャンプ出来るからシンクの上に飛び乗ってピチャピチャッて滴る水道の蛇口から水を飲んでいる。自分の餌が置いてあるところを知ってるのかな。戸棚の上までジャンプして、缶の蓋をガリガリしたり頭で押したりして開けようとしている。でも自分じゃ開けられなかったから諦めて、今度はお風呂場の方へ入って行った。僕もクロの後についていった。お風呂の窓が少しだけ空いていて、クロはその隙間からいつもみたいに出かけて行った。

お風呂に水が溜まっていたから、それを飲んだんだ。喉がすごく乾いていたから、クロのおかげで助かった。お腹も空いたけど、どこに食べ物があるのかな?キッチンの方に行くと、ジャガイモとかにんじんがカゴに入っていた。いつもぼくが食べてるのはどこにあるのかわからないけど、おじいさんがお料理して食べてたから食べられるよね。ぼくはガリガリと土の付いたじゃがいもを食べてみた。おいしくないけど、お腹が空きすぎてフラフラするから、これでも食べれるだけいいよね。

クロが戻ってきた。口に何か加えている。虫を捕まえたんだね。それをおじいさんの横において泣いている。ニャウン~ニャウン、、、なんて悲しい声なんだろう。クロも心配してるんだね。おじいさんに食べるものを探してきたんだね。

おじいさんは、すっかり夜になっても起きない。おじいさんはずっと起きないのかな?ぼくとクロは、二人一緒に寄り添いながら、おじいさんのそばにいるよ。翌朝、僕はいいことを思いついた。そうだ!クロ管理人さんのところに知らせに行って!助けに来てって。ぼくも大声で吠えて助けを呼んでみるね。

クロはまたお風呂場の窓から抜け出して行った。ぼくは目一杯吠えた。いつもならご近所迷惑だから吠えないようにっておじいさんが躾けてくれたから、吠えないけどね。

ワンワンワン!ワン!

だけど、また夜になってしまった。クロは帰って来てないけど、どこかへ行っちゃったのかな。

早朝に目覚めて、ぼくはまた吠えた。ワンワンワン!!

 ドンドンドン、、、

だれかがドアを叩いている。助けが来た!

 ワンワンワン!

ぼくは、めいっぱい吠えた。おじいさんを助けて!誰か!

大家さんが入ってきておじいさんを見て驚いた。

「黒い猫が管理人室の前のカウンターで眠っとった。いつもは私を見たらすぐにどっかへ行ってしまうのに、珍しくすりすりしてくれたんだ。撫でてやろうとしたら、私の袖を噛んで引っ張ろうとするんだ。そしたら、犬のけたたましい声がおじいさんの部屋から聞こえたんだ。マスターキーを使って入って来たんだ。、、、、、、、おじいさん、まる二日見ないと思ったら、、、、、おじいさんどうしたんだ。大丈夫か?」

大家さんは、おじいさんに近づいて、手を触ってその冷たさに驚いた。耳をおじいさんの顔に近づけた。

「息がない、、、、こんなに冷たくなっちまって、これが老人の孤独死ってやつか、、、。」

えっ、本当に?おじいさん死んじゃったの?嘘でしょ?ぼくはどうしたらいいの?おじいさんとまた散歩に行きたいよ。ううん、、おじいさんが脚が痛いなら、ずっと家の中にいたってかまわない!だから、目を開けて!お願いおじいさん。いつもみたいに優しく微笑んで、「ゴンタや、、お前はいい子だ。」て頭を撫でてよ!おじいさん!!クロと猫じゃらしを使って遊ぼうよ。

クン、クン、クゥーン、、クンクゥーン、、

ニャー、ニャ、、、、、、

大家さんはぼくとクロを憐れんだ顔で見ながら言った。

「おじいさん、一人もんだったから、、誰も最期を見てくれる人がいなかったんだな。悲しい最期だ。お前たちもかわいそうに、、、、、俺はどうしてやることも出来ないから、、、ごめんな。引き取ってもらうしかない、、、」

 大家さんはどこかに電話をして、おじいさんとぼくたちをそれぞれ連れて行く人を呼んだ。まずは、警察官がやってきた。大家さんが色々聞かれている。そしておじいさんは、タンカで運ばれていった。おじいさんの顔には白い布がかけられていた。おじいさんがいなくなった後、気がつくとクロもいなくなっていた。

その後、鉄でできたケージを持った人が二人やって来て、ぼくは車で運んで行かれたんだ。

このおうちにいつか戻れるのかなあ?おじいさんとは本当にあれでお別れなの?クロは大丈夫かな?どこに行ったのかな?


 おじいさんの家にぼくを迎えに来た人たちが、その日ぼくを檻の中に閉じ込めた。ここには檻がたくさんあって、他にもたくさんのワンコがいる。みんなの飼い主もおじいさんみたいに死んじゃったのかな。

 となりの脚の悪い犬に聞いてみた。みんなどこから来たのか?どうしてここに連れて来られたのかって。そしたら、脚の悪い犬はものしりで色んなことを教えてくれた。ここには、ぼくみたいに飼い主が死んじゃったり、引っ越しの時に捨てられた犬、世話をするのが嫌になったからって飼い主がやっぱりどこかに放置して彷徨ってる犬、ペットショップで売れ残っちゃった犬猫が送られてくるんだって。捨て猫もたまに来るけど、すばしっこくて捕まらないからあんまりここへは来ないって。そう言えば、クロはどうしたんだろう。おじいさんが連れて行かれた時からいないんだよな。でも猫は自由にどこへでも行けるから、きっとまた優しい誰かのところに行ったんだよね。けど、ぼくは、、、、、、、、

おじさんたちが迎えに来てくれたから、ここに来るしかなかったんだけどね。ここは、寒くて狭いなあ。それにしても、たくさんワンコがいるなあ。
たまに、人が来て、僕たちを順番に見て、気に入ったワンコを連れて行くこともあるんだね。小さくって可愛い子が連れて行かれるんだ。きっと、可愛いから、連れて帰って一緒に住むんだろうな。僕も誰かが連れて帰ってくれたらいいのにな。
ここにいればご飯はもらえるけど、狭いし息苦しいや。それに寒くて、、、
だけど、僕は、もうおじいちゃんだし、足だって最近痛くてちゃんと歩けない時もあるから、そんな僕を連れてってくれる人っていないのかも、、、、、、

そう言えば、誰にももらわれない年寄りや体の悪いワンコはしばらくここにいて、昨日みたいにどこかへ連れて行かれるんだ、、、、、、そして二度と帰って来ない。毎日、一匹ずつどこかへ連れて行かれて戻ってこないのはどうしてだろう。どこへ行ってしまったのかな、、、


 今日は、朝一番に白衣を着たお医者様がぼくたちを診に来てくれた。若くて優しいお兄さん先生だ。ぼくととなりの脚の悪い犬のところにやってきた時、涙ぐみながらぼくたちの身体を一生懸命撫でてくれた。

「こんにちは。僕は初めてここの仕事に派遣されて来たんだ。本当は、ここには来たくなかった。けど、社会問題を解決するには、目を瞑ってちゃいけない。現状をちゃんと見て、自分には何が出来るのかを見つけて行動に移さなくちゃ。勇気を振り絞ってここに来た。でも、ごめんな、、、お前たちは明日と明後日なんだな、、、先生は、動物が大好きで、動物を助けたくて獣医になったのに、、、こんなシステムってあんまりだ、、、、けど、ぼくにまだ力が無いから、お前たちを助けることが出来ない、、、悔しくてたまらないよ。」

お兄さん先生は、持っていた毛布をぼくと脚の悪い犬の寝床に敷いてくれた。優しい先生、どうして泣いてるの?ぼくと脚の悪い隣のワンコは、明日と明後日どこかに連れて行かれるの?そこは、先生が泣くぐらい酷いところなの?

クン、クンクゥーン、、、

 次の日、またお兄さん先生がやってきた。そしてぼくの檻を開けて撫でてくれる。

「今日は、お前に注射をする日なんだよ。本当にごめん、、、、、」

ぼくの体はどこか悪いのかな?どこも痛くないけど、何の注射なんだろう。あれ、先生また泣いてるの?ぼくは、先生の涙を舐めてあげた。

「ありがとう、、、、。楽に眠らせてやるからな。昼飯は美味しいものをたくさん食えよ。ほら毛布だ。暖かくして、、、じゃあ後で迎えに来るから、、、」

先生は、本当に悲しそうだ。

 施設管理のおじさんが、興奮しながらぼくたちの檻の前に来た。

「お前たち奇跡だぞ!あっ先生!この子達助かるんです!すごい人がお前たちを貰ってくれるんだ。良かったな。」

おじさんも涙ぐみながら笑顔で叫んでいる。先生も驚きながら、笑顔になった。

「譲渡先が決まったんですね。シェルターに空きが出来たんですか?」

「そうなんですよ。プロテクト犬猫シェルターさんに先生がメール送ってくれてたでしょ?そしたら、3頭なら引き受けられますって、さっき電話が入ったんです。」

「それは、助かった!お前たち、なんてラッキーなんだ。プロテクトさんとこなら、本当に安心だ。ああ、良かった。」


「こんにちは~。さあ、母ちゃんのところにおいで!」
この日、母ちゃんって人が、僕を迎えに来てくれたんだ。となりにいた脚の悪いワンコと僕とおんなじくらいのおじいさんワンコも一緒に、母ちゃんの家に連れて帰ってもらったんだ。そこは広い庭のある大きな家だった。たくさん部屋があって、人も犬もたくさんいた。
「いらっしゃい。よく来たね。母ちゃんもみんなもおるから、もう大丈夫やで!ちょっと賑やかやけどな。おっちゃんみたいな母ちゃんやけど(笑)スタッフさんたちは、みんな逞しくて優しくって、とにかく愛情たっぷりやで!」

 母ちゃんのところには、三十頭もワンコがいた。猫もいた。あれ?あの黒猫って?!クロじゃないか?クロもここに来てたの?

 クロは、おじいさんが運ばれた後家から出て行って、よく僕たちが散歩に行っていた公園に行ったんだって。そこには、野良猫たちがいて、時々おじいさんの家を抜け出して遊びに行ってたから、その野良猫たちのところを頼って行ったんだ。そこには、たまに餌をくれるおばさんが来るから自分で餌を取らなくても食べられてラッキーだと思ったんだけど、クロだけが飼い猫だったから、野良猫たちはクロに意地悪して、クロのエサを横取りしてクロは餌にありつけなかった。そしていつもポツンと一人になった。おじいさんの家に帰ってみても、誰もいないから途方に暮れていたら、公園で餌をくれるおばさんが、気づいてくれたんだ。

「あらー、あんたはよくみたら首輪をしてるね。誰かに飼われてるんだね。どうして迷い猫になったんだろね。おばさんが飼い主を見つけてあげよう。」

おばさんは、あちこちに張り紙をしたり、街頭に立って呼びかけてくれたんだって。誰かこの黒猫を知りませんか?って、、

けれど名乗りをあげる人が誰もいなかった。そりゃそうだよ。おじいさんはもういないんだから。おばさんは保護猫活動っていうのをしていた人でとっても優しいだけじゃなくって、いろんなことをわかってる人だったんだ。

「黒ちゃん、あんたは、飼い猫だったから、今更野良猫にはなれないし、かといって、もう大人だから、ペットとして貰われるのも難しいね。うちにいる子は、小さい頃に虐待に遭った猫だから、気性が激しくって凶暴なのよ。一緒に住んでるおばさんもほらっ傷だらけでしょ。だから、一緒に住むのが難しいのよ。でも大丈夫。おばさんが絶対にいい譲渡先を見つけてあげるからね。」

おばさんはまず犬猫病院の先生に相談した。そしたら、そこの院長先生が母ちゃんのところを紹介してくれたんだって。そこの院長先生は休みの日にボランティアで、母ちゃんのところにいる病気や年寄りの犬を診に来てくれてるやさしい先生なんだ。本当に動物が好きな優しい人がたくさんいるんだね。そんなわけで、クロは母ちゃんのところに三日前に来たんだって。クロと再会できるなんて、本当に嬉しいよ。


 母ちゃんの家は、広い庭があって、暖かい部屋があって、優しい母ちゃんや他にも優しいスタッフさんがいて、天国みたいなところなんだ。たくさんご飯もくれるし、清潔なシーツや毛布の上で眠ることも出来る。動けるワンコは散歩に連れてってくれたり、かけっこ大会もあるんだ。足が悪かったり、病気で動けないワンコは、母ちゃんやスタッフさんたちが抱っこして散歩に出掛けてくれるんだ。ここには本当に優しい人ばかりがいるんだ。
年寄りのワンコや動けない病気や怪我をしたワンコも身体はキツそうだけど、みんな幸せな顔をしてる。みんな母ちゃんが大好きで幸せなんだ。母ちゃんの膝は毎日取り合いになるんだから。
母ちゃんは、毎日、笑顔でずっと僕たちの世話をしてくれる。体を拭いてくれたり、美味しいご飯をくれたり、添い寝してくれる。お風呂にも入れてくれる。母ちゃんは僕らの世話で忙しすぎて自分はお風呂にもあんまり入れないのに、、、、寝ずに病気のワンコをずっと撫でてくれるんだ。母ちゃんは、おっちゃんみたいだって自分のこと言ってるけど、こんなに心の綺麗な女神様みたいな人はいないよ。母ちゃんの笑顔はお日様みたいに暖かくって、ぼくたちを暖めてくれるんだ。
 でも母ちゃんは、時々、悲しい顔で泣いてるんだ。年寄りのワンコや病気のワンコが、眠ったまま起きなくなる日だ。天国ってとこに行く日なんだって。誰かが天国に行く日は、
「虹の橋を渡っていったね。」

と他のスタッフさんたちと一緒に涙を流して見送ってるんだ。だけど、涙をすぐに拭いて、また笑顔で僕たちの世話に戻ってくる母ちゃん。
そしてまた新しい年寄りのワンコを連れて帰ってくる母ちゃん。


 ある時、母ちゃんはちゃんとお風呂に入って綺麗にして、みんなに待っててねと言って出掛けて行った。パーティーに招待されたんだって。ぼくたちの家に寄付をしてくれる人たちが母ちゃんを招待してくれたんだ。みんな母ちゃんがいなくて寂しいから、クンクンと文句を言ってたら、スタッフさんが、なんで母ちゃんがパーティーに出掛けていったのかを話してくれた。

「あのな。母ちゃんは本当にすごいんだぞ。この日本って国ではな、一年間に約十万頭の犬や猫が殺処分されているんだ。飼い主が捨てたり、飼い主が孤独死してしまったりして、面倒を見る人がいなくなった犬や野良猫を処分する施設があるんだ。行き場のない犬や猫が毎日処分される。殺されるんだよ。お前たちもそこから来ただろ?母ちゃんはな、何年も前にその現状に涙して、何かできることはないかと老犬を迎え入れたことから始めて、その後どんどん犬や猫を引き受けてこんな大きな犬猫シェルターを作ったんだ。みんなが快適に過ごせるように広い場所を安く借りるために、田舎に引っ越しまでしたんだぞ。年老いた犬、病気の犬や猫、障害のある犬、気性の激しい犬は、譲渡会でも貰われていかない。そんな殺処分される寸前だったお前たちを保護して、快適に暮らさせてやりたいって一心で一生懸命世話してくれてる。そんなすごいことをやってのけるには、人もいれば金もかかる。俺たちのように動物が好きで、母ちゃんの活動に感動したボランティアのスタッフが母ちゃんの呼びかけで集まった。お前たちが快適に過ごすためにエアコン代だってかかるし、餌もたっぷり食べれるように用意したり、おむつやトイレのシートだって大量にいるからものすごく金がかかる。でもこの世の中捨てたもんじゃなくって、母ちゃんの活動を応援してくれる人たちが出てきたんだ。チャリティパーティーを企画して、お金を集めて寄付してくれたり、物資をおくってくれたりする人がいる。今日はな、そんな素晴らしい応援団たちが母ちゃんの活動を讃えて、頑張ってる母ちゃんを労うためのチャリティーパーティーを企画してくれたんだぞ。だから母ちゃんは、珍しく、綺麗にして出掛けていったんだ。今日ぐらいは、母ちゃんにもゆっくり楽しんで来てもらおう。」

 ああ、、そうか、、。ぼくたちは、あの冷たい檻にずっといたら殺されてたんだね。

あの冷たい檻から毎日一頭ずつどこかに連れて行かれたワンコって、殺されたんだね。どうして殺されるの?ぼくたちは生きてちゃいけないの?おじいさんがいなくなって、僕が一人じゃ生きられないから、生きてちゃいけなかったの?じゃあどうして?何のためにぼくたちは生まれたんだろう。ぼくは赤ちゃんの時に捨てられてた。おじいさんが見つけてくれて、ミルクを飲ませてくれて、世話してくれたから生きられた。でも今度はおじいさんが死んじゃって、ぼくは一人じゃ生きられなかったから、あの檻に連れて行かれたんだね。もうおじいちゃんワンコだから、誰かに連れて帰ってもらうこともないと思ってたら、あの日突然母ちゃんが迎えに来てくれたんだ。母ちゃんは本当の女神様だ。

母ちゃんが迎えに来てくれたから、こうやってみんなと楽しく暮らせてる。そんな母ちゃんを讃えてパーティーだって!本当に素敵なことだね。母ちゃん、今日は、美味しいものを食べて、ゆっくりパーティーを楽しんできてね。

「ただいまー!ごめんな!おそくなって。みんな置いてって母ちゃんだけパーティー行ってごめんな。スタッフさんたちも!ごめんなさい!長い時間任せっぱなしで、、」

母ちゃんは、さっき出かけたところなのに、あっという間に帰ってきた。

「早いお帰りですね。もっとゆっくりしてくればよかったのに。」

スタッフさんも驚いている。

「いやあ、パーティー中も、この子達のことが気になりすぎて、そわそわしてしまって、、、、そしたら、主催者の方が配慮してくださって、寄付金や物資を先に贈呈してくださったんです。無理せずあなたを待っている子たちのところに好きな時に帰ってあげてくださいねって言ってくださってね。だから、早めに切り上げたんです。

ほら、みんな、たくさんご飯やおやつをもらって来たぞ!綺麗で清潔なタオルもだ。よかったな。さあ、今からおやつタイムだ!」

母ちゃんは本当にすごいや。ずっと母ちゃんと一緒にいたいよ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 僕ももうだいぶ年だから、最近は、起き上がれないんだ。ご飯もあんまり食べられない。
母ちゃんが心配そうに僕の背中をさすりながら、一生懸命話しかけてくれる。
「しんどいか?しんどいよな。頑張れ。母ちゃんがそばにいるから。寒くないかい?さあ毛布にくるまって、、、」
母ちゃんに抱っこされて、背中を摩ってもらってるからちっともしんどくない。ただ眠いんだ。疲れてるんだよ。眠ればきっと元気になるから、、、、母ちゃん心配しないで。


 気がついた時、僕は少し高いところに浮いて、母ちゃんが下に見えた。僕の眠った体を抱いて、母ちゃんは、号泣している。あんなに悲しそうな母ちゃんを見ると僕も悲しい。母ちゃん、僕はここにいるよ!こっちを見て!
 目の前に、キラキラした虹の橋が現れた。虹の橋はキラキラ光って綿菓子でできたみたいにふわふわしてるんだ。橋の向こう側には光の束で出来たような島が見える。なんて綺麗なんだ。
あっ!!おじいさんだ! 先にあっちに行ってたおじいさんが迎えに来てくたんだ。

「ゴンタや、久しぶりだな。また会えたなあ。おじいさんは先に天国に行ってしまって、お前やクロのことが気になって気になって、ずっと見とったんだ。そしたらお前もクロも、やっぱり運がいいな。母ちゃんていう女神様が迎えにきてくれたんだな。楽しく過ごせたか?幸せだったか?」
うん!おじいさん。本当に幸せだったよ。おじいさんと一緒に暮らしてた時も、それから、母ちゃんが迎えにきてくれた後も楽しく暮らしたよ。クロも毎日楽しそうだ。

「そうか。ゴンタや、お前は幸せになるために生まれたんだ。クロもだ。みんなそうだ。生きとし生けるものには、その親がいるからこの世に生をさずかる。お父さんとお母さんがいたからお前もこの世に生まれた。お前は、お父さんのこともお母さんのことも覚えてないだろう。けど、両親がいなければ生まれてくることは出来ないし、生きてこれたということは、誰かが育ててくれたんだ。ご飯を食べさせてもらったから大きくなれたんだ。お前とクロの場合は、わしだな。毎日ご飯を一緒に食べたな。けれどわしが歳をとっとっから、お前たちに餌をやることが出来ない。本当に悪かったな。けれど、お前たちの命を繋いでくれた人がいたな。わしが死んだ後、一度はあの檻に入れられて、もう少しで安楽死させられるとこだったのをあのやさしい獣医が、何とかならないかと諦めずにお前の行き場を探してくれた。そしたら、あのシェルターから女神さんみたいな母ちゃんが迎えにきてくれた。クロだって、優しいおばさんが保護してくれて、クロが幸せに生きれる場所を見つけてくれた。お前たちが幸せを感じれたのは、周りにいてくれた人たちのおかげだと分かるな。あの母ちゃんや他のスタッフさんのおかげで何不自由ななく過ごせた。お前が一緒に散歩に行った仲間のわんこたちがいたから楽しかっただろう。幸せだっただろう。わしも、お前やクロがいてくれたから、最後まで寂しくない幸せな人生だった。みんな幸せを分かち合うためにこの世に生まれて共に生きとるんだ。たまに修行のように辛い時もあるさ。でもだからこそ幸せってのがどんなものなのかが分かるようになるんだ。さあ、ゴンタもひと人生を終えたな。今からあのキラキラした天国っていう島におじいさんと行こう。」

 ああ、あっちに渡ればいいんだね。僕が虹の橋を渡る時が来たんだ。

母ちゃんを見下ろすと、涙を拭いて空を見上げていた。母ちゃん、僕も虹の橋を渡るよ。ぼくもついにあの光り輝く綺麗な世界に行くからね。天国っていうところだよ。
おじいさんにもまた会えたんだよ。ぼくは生まれて、おじいさんが大切に育ててくれて、大きくなった。クロっていう可愛い猫もうちにやって来て、楽しく暮らせた。そして、最後にお兄さん先生のおかげで母ちゃんのところに来れたんだ。
ぼくみたいに、たくさんのワンコが母ちゃんのところで、最期まで幸せに過ごして、こうやって虹の橋を渡って、素敵なところに行ったんだね。天国って素敵なところなんだって。
でもね、僕にとっっては母ちゃんのところが最高の天国だったよ。大好きな人と一緒にいることが天国なんだよ。。母ちゃんに会えて、本当に幸せだったよ。
だからこの虹の橋は、母ちゃん天国から光の天国につながる橋だったんだ。
母ちゃん、本当にありがとう。






~あとがき~
この物語は 『Protect you 』という、奈良県にある犬猫の保護シェルターを運営されている岸田真紀さんの活動のお話を、筆者がチャリティパーティーに参加した際に聞いた時、あまりに感動したので帰ったその日に一気に書いた物語です。

年間約十万頭の犬猫が殺処分されている現状に、何かできることはないかと老犬を迎え入れたことが活動のきっかけだったと言われる代表の岸田真紀さんは、殺処分される寸前の老犬、病気の犬猫、障がいのある犬、気性の激しい犬など、特に譲渡の難しい子たちを中心に保護活動を十年続けられています。

 愛情たっぷりでも、実際、運営にはたくさんの問題を抱えられてます。シェルターの維持、運営にはかなりの資金が必要です。また、たくさんの犬猫を受け入れるためには人手も必要です。

このような社会問題について知る機会を得、自身ができることはないかを模索した時に、まずは、たくさんの人にこの現状を知らせたいという思いから物語を執筆しました。この物語のショート絵本バージョンも作り、チャリティーパーティーに展示していただき、そこで集まった寄付金で支援物資を届けていただきました。

 私は性善説を信じています。だからきっと多くの人がこのような問題を知ったなら、必ず良い方向に現状が動くと信じています。生体販売が日本から無くなり、ペットの需要と供給のバランスが整い、命が大切に扱われる世の中になるよう願って、物語を次世代をになう子どもたちに贈ります。

よろしくお願いします。いただいたサポート費用はクリエイターとして、レベルアップするための活動に役立てるようにいたします。ありがとうございます🥰