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#小説 記事まとめ

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2020年10月の記事一覧

【祝】はんぺんチーズフライって、とってもエモーショナルな味がするんだね【編集部のおすすめ選出】

 掲示板に「210」の文字はなかった。  つまり僕は、受験に失敗したらしい。  同世代らの麗らかな声が響き渡る県立A高校玄関前。不合格なる酷な現実を前に、しかしそれでいて己が心はまるで鏡よろしく凪いでいた。  何せ十五歳当時の僕ときたら分厚い参考書よりも電撃文庫や富士見ファンタジア文庫などの、いわゆるライトノベルを手に取る頻度の方が遥かに多かったわけであって、当然最悪のシナリオも想定内、いやむしろ合格したら奇跡くらいの心持ちで端から勝負を諦めていたのだ。  幸い、滑り

「マイクロノベル」という提案です。

 ツイッター上でずっと【ほぼ百字小説】というものを書き続けています。  その名の通り「ほぼ百字の小説」ですが、ほぼ、としたのは、句読点とか禁則で数え方によって字数が違ってくるので、そうしただけで、頭に一文字分空白を開けたぴったり百枡に収まるように書いてます。  まあそれは自分なりにそういう縛りをかけたほうがやっていておもしろいし、落語における「座布団の上にいる」くらいのゆるい縛りみたいなもので、それによってかえって自由になれるから、です。  それよりも大事なのは、だいた

ラブホテルに愛なんてないよ

相方は眠ってしまった。コンビニで買った、小さな日本酒の瓶を抱えて。ここら辺の相場よりちょっと高いよ、と言っていたラブホテルの一室。換気扇の音がうるさくて、スイッチを探した。 ラブホテルは、とても素晴らしいと思う。ラブホテル、という響きに、人々はあまりいい顔をしないけれど、今まで彼氏との貧乏旅行で泊まってきたホテルを思い出すと、あれならラブホテルの方がよかったな、と思ってしまうことが多々。ちなみに、彼氏と泊まった部屋のことは全く覚えていないくせに、毎回違うラブホテルの場所も、

惚れる感覚

プロローグ窓の外,新緑の木々が見える。きらきらとあちこちから光が差し込んでくるのはきっと水滴がまだ残っているからだろう。 日が昇ってからだいぶ経ったのだが,人はまだほとんどいない。 いつも通りに早朝に着くと,私は学校の廊下でいつものように楽器を組み立てる。キーが曲がるといけないのでそっと。慎重に。急ぎすぎず組み立てる。 オーボエという楽器。主にメロディーを担当することが多い楽器だ。線の細い音だと自分では思う。周りを圧倒する力なんてなさそうな細くて今にも折れそうな見た目。

サンタクロースは液体である【ショートショート】【#101】

「サンタっていうのはさ。『液体』だと思うんだよ」  唐突にそうシンヤは言いだした。 「あのさ……シンヤがおかしなことを言うのはいつものことだけどさ、今度はなに? サンタってクリスマスにプレゼントを持ってくるサンタクロースのことだよね?」  ベットにもたれかかって漫画雑誌を読んでいた俺は、後ろで寝転がるシンヤの方を振り返ることもなく問いかけた。 「そうそう、そのサンタクロース。だってサンタってさ。太ってるじゃん」 「まあそういうイメージだよね」 「そんな体形でえんと

また会える【週末・恋愛小説】 #リライト金曜トワイライト

こちらのお祭り企画に参加しています。 ------------------------------------------------------------------------------- (カミーノによるリライト版) 旧いビルの長い廊下の端っこだった。資料らしき本を沢山かかえている彼女。 「え?なんでココにいるの....」 彼女は口かずが少なくて、ちいさくて、キレイな瞳をしていた。僕の大スキな子だった。 何度も偶然に再会し、デートもしたけど、なにも始ま