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最近読んだ本の感想(もらい泣き)
冲方 丁(うぶかた とう) 「もらい泣き」
実話を基にした短編集です。
「小説すばる」での連作コラムで掲載されていた作品群をまとめたものだそうです。じんわりくる33の短編のなかで特に心にのこったものをご紹介します。
「指導者は花嫁」
消防士の言葉
「大きな火事に巻き込まれたとき人間は何をすると思う?何もしないんだ。大半はぼんやり待つんだ。誰かが命令してくれるのを」
だそうだ。だがその現場はちがった。結婚式場での火災。被災者に声をかけ誘導していたのは、真っ白いウェディングドレスを着た娘だった。「あなたたちも下がって。そして消防士の方を通して。」
指導者は彼女だけではなく会場の従業員も含まれていたが、亡くなった方は、当初消防士が予測していた数よりずっと少なかった。
「選挙なんてなくても、本当は誰もが指導者になれるし、正しい指導者を選ぶことができるんだ。煤だらけのドレス姿で走る花嫁を見てそうおもったよ。~この国は実際のところ問題ばかりだが、本物のトラブルが起こったときは必ず誰かが立ち上がる。それがアメリカさ。~」
冷静な指導者になれるだろうか。
「ノブレス・オブリージュ」
ドイツ留学していた友人は、下宿先で火事にあい、足に火傷を負って入院。パスポートも学生証も焼かれ、焦げた家具や自転車にいたるまで大家に処分されてしまった。
入院中、隣になった老人と仲良くなった。老人には見舞いに来る親族もなく、人に助けをもとめない性格で、じっと我慢していることが多かった。見かねた友人が看護師を呼んだため病院からは孫と勘違いされた。
退院してからも老人を見舞った。老人を心配すると同時に、その話を聞きたかった。
「貧者救済で有名なマザー・テレサはいったい何に優れていたと思う?」
弱者への愛ですかと答える友人に対して
「経営能力だ。経営者であり、育成者であり、発明家だった。木の実の繊維を枕や蒲団につめて売った。これがヒットし、その商売を貧者に与えた。かれらを働く意欲をもった人間に変えた。」
なかでも友人が感動したのは
「高貴なるものの義務」<ノブレス・オブリージュ>
昔の王族は国家反繁栄と貧者救済を同じものと考えた、どちらも愛ではなく、責務だった。その「魂」を、今の世界は規範とすべきだ。
老人が亡くなったとき、友人に勲章が送られた。老人の弁護士から遺産相続の書類が届けられ、老人が望むならとサインして返送した。そして「ハプスブルク家の末裔たることを証明する品々」が彼のものとなった。のちに友人の口座に巨額の金額が振り込まれた。
資産家になった友人は老人から学んだ「高貴なるものの義務」を果たしていく。
「費用が投資として働けば、復興特需が起こる。~震災で儲けている連中がいる。そいつらが喜んで被災地のために金をだすように仕向けるんだ」
東日本大震災後、友人は復興のための組織を作り始めていた。
思うだけでなく実行力が大切なのですね。
盟友トルコ
1890年 和歌山県串本町沖でのエルトゥールル号の遭難
村人が96名の船員を救助
トルコではこのことが教科書に載っており、後世に伝えられている
1985年 イラン・イラク戦争 サダム・フセイン大統領がイラン領内を飛行する機体を撃墜すると宣言、撃墜開始までの期限は、わずか48時間
このとき、イランにいた邦人救助のため政府はJALに救助要請したが、JALは拒否(自衛隊も検討されていたが憲法問題で派遣できず)
他国は自国民の輸送のため航空機を仕向けるなか、日本人は空港で絶望していた。そこへトルコから日本人救助のため、飛行機を飛ばした。
1999年 トルコの大地震
1985年に助けられた日本人、その関係者がトルコ支援に赴く
(日本からは消防庁の国際消防救助隊と海上保安庁の隊員により編成された国際緊急援助隊救助チームが生存者1名を救出した。 )
2011年 東日本大震災
トルコ政府は100億円を支援、震災からわずか数日でトルコ隊32名が日本に派遣された。
「本来は助け合わないといけない近くの人ほど、怒りの対象にもされやすいんでしょう。~だから純粋に感謝できる相手が遠くにいることが、何より救いになるんじゃないですか。あの人たちととは必ず助け合える。そう信じられることが心の支えになる。だからどんな時代になっても助けるんだなって~」
日本人も忘れちゃいけない。
「先にいきます」
昔、駅に備えられていた、伝言板の機能をになった掲示板(黒板)の話です。
あるとき、掲示板に「先にいきます」とかかれ、その下に、あきらかに飛び降り自殺を示唆する落書きがあった。
駅の職員だった彼は、急いでいたこともあり、あとで消そうとおもった。仕事を終え、消そうともどってきたとき、さきほどの書き込みのそばに
「いかないで!」
「待ってます」
そのほか飛び降りる人を下で受け止める、という書き込みもあった。
その後もその書き込みを消そうとする者はなく
「早まらないで」
「弁護士です」
電話番号まで書かれていた。
終電後、書き込みを消そうと掲示板の前に彼が行くと、背広姿の男が立っていた。男はサラ金地獄にはまっていたらしい。
「先にいきます」を指さして、「これ書いた者です。消さないでください」
そこで、彼は使い捨てカメラをもってきて写真を撮った。
のちに、その男は駅にたちより、彼と話しをしている。ようやく返済を終え、平穏な暮らしを取り戻したという。
ある一人の男の言葉に、多くの言葉を書き加えた、見知らぬ人々の存在のお陰だった。
情けは人のためならず、っていいますよね。すこしでも社会を良くする方に力を注ぎたいものです。そうすればめぐりめぐって自分にもよいことが。