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読書感想文  血液型で読み解く芥川の『トロッコ』 一本のレール

 良平はトロッコが好きな少年でした。レールの上を突っ走って行くのが。たぶんA型なのでしょう。決まったレールの上に時間通りに電車を走らせるのは、日本人の得意とするところです。ある日、土工の手伝いをするという理由で、トロッコに乗ることができた良平は大喜び。しかし、かなりの長距離を走った後に突然、元の場所へは戻らないと告げられて、一人で、薄暗くなりかけたレールを走って、家に帰る羽目になります。レールの上を走っていけば、必ず元の場所に帰れるとは言うものの、レールを信じて、レールに裏切られた悲しさは、良平の心に深く残りました。
 大人になって結婚し、妻子とともに東京に出てきた良平は、雑誌社に就職し、校正の仕事をすることになります。A型の良平にはうってつけの仕事です。しかし、夜遅く一人で校正をしていると、ふとあの時のレールがよみがえってくるのです。この道で本当にいいのか?またどんでん返しを食らうことはないのか?引かれたレールの上を、何の疑いも抱かずに走り続けて行くことに対する不信感、というより恐怖心が湧き上がってくるのです。
 大正14年に、治安維持法が制定されて、言論の自由が失われ始めた時期でした。


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