日本文明の謎を解く ― 21世紀を考えるヒント (竹村 公太郎)
(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)
フェイスブック上で知人が話題にしていたので読んでみました。
竹村公太郎氏の著作は初めてです。竹村氏は建設官僚OBですが、本書で紹介している主張は「公共投資礼賛」といった役人然としたものではなく、多彩な観点から「公共事業」についての新たな視点を拓いてくれるなかなか興味深い内容でした。
たとえば、、塩野七生氏の「ローマ人の物語X-すべての道はローマに通ず-」の内容を導入部に配した「ハードインフラとしての“道路整備”」と「日本人論(民族論)」との関わりを論じたところでは、こういったユニークな説を展開しています。
道路整備は、「車」の進化・普及に伴う要請に基づくものです。世界史的に見ても、古代の車は「牛」や「馬」が動力源でした。
このため、人が「牛」や「馬」を御する「車」は日本においては発達しなかったのです。日本の「道路整備」は大きく遅れた根底に、こういった「日本人の家畜観」があったというのは面白い指摘ですね。
「上部構造としての文化」と「下部構造としてのインフラ」とは相互に影響しあいながら、スパイラル的に進化していくといった文明史観です。
さて、そのほかにも本書面白い話題が盛りだくさんなのですが、ひとつの着目からその背景・原因を遡り辿るという著者の考察の中で、特に印象に残ったのは、「日本の安全な水の原点」をテーマにした「日本の水道」についてのくだりでした。
先の東日本大震災以来、“都市計画家”としての「後藤新平」は、私も特に気になっている人物の一人ですが、彼の“細菌学者”としての側面がこういった背景を経て「衛生的な水道水整備」に生きていたというのはとても興味深い驚きです。
そして、もうひとつは海外の話題。「ピラミッドは堤防だった」との説です。
「エジプトはナイルの賜物」との言葉どおり、ナイル川を計画的にカイロの下流部に導くことはエジプトにとっては死活問題でした。しかし、ナイル川の氾濫は西岸の砂漠地帯に拡散するようになりました。それを防ぐための奇抜な着想です。
そこで登場する建造物が「ピラミッド」です。
事実、ピラミッドは適当な間隔をおいてナイル西岸に屹立しています。
何ともとんでもない壮大な構想にもとづく土木事業ですね。この説の真偽はともかく、想像しただけでもワクワクします。
本書の最初に紹介されている徳川家康の「関東平野創造事業」にも驚きましたが、私にとっては馴染みのない分野で、新鮮かつ刺激的、そして楽しい気づきを数多く与えてくれた著作でした。
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