(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)
著者の半藤一利さんの著作は、今までも「聯合艦隊司令長官山本五十六」「昭和・戦争・失敗の本質」「ぶらり日本史散策」「幕末史」「日本史はこんなに面白い」等々を読んでみていますが、今回の著作は、それらとはちょっと毛色が異なったテーマを扱っていたので気になって手に取ってみました。
ご存じのとおり「墨子」は、古代中国戦国時代、諸子百家の墨家の開祖で平和主義・博愛主義を説いたと言われています。
まずは、墨子のいう “愛(兼愛)” について説明しているくだりです。
墨子の “愛(兼愛)” は、いわゆる “愛情” とは異なり、キリスト教の「汝の敵を愛せよ」というニュアンスに近いようです。
続いての覚えは、この墨子の説く「愛」と神風特別攻撃隊、回天特別攻撃隊などに向かった覚悟とを対置させての、半藤さんの “非戦” への強い想いが吐露されたくだりです。
さらに、半藤さんは、墨子が “非戦”論 の根本を説いた「非攻」篇〔上〕の一節を紹介しています。
“One murder makes a villain; millions a hero.”
チャップリンの「殺人狂時代」での有名な台詞です。
墨子は侵略目的の戦争のみならず「戦争そのもの」を心底嫌ったと半藤氏は語っています。
そして、この墨子の「非戦」の想いと同じ熱さをもって、半藤さんも「非戦への弛まぬ努力」を誓っているのです。
半藤さん亡き後、この非戦の想いは、すべての人々が引き継いで求め続けなくてはならないものだと強く思います。
最後に蛇足ですが、本書で紹介された墨子と同じく「非戦」を信念とした人物について書き留めておきます。
日本を代表する映画監督黒澤明氏の言葉です。
もうおひとり、半藤さんが “現代の墨子” と名付けた中村哲さん。
2012年、半藤さんとの対話の中での言葉です。
墨子の “兼愛” を体現した素晴らしい方ですね。
志半ばでの現地での悲劇、本当に心が痛みます。