たまたま 日常に潜む「偶然」を科学する (レナード・ムロディナウ)
ランダムネスの必然
確率理論・統計理論の歴史と初歩的なコンセプトを解説した興味深い本です。
「偶然」起こったことを、人は結構、「必然」と考えたりその前の行動との「因果関係」でとらえたりしています。「偶然」を、理論以上に「滅多に起こらないこと」と考えているのです。
プロ野球の季節になったので、野球を例にしてみましょう。
ここに、何打席もヒットが出なくて悩んでいる選手がいるとします。コーチがアドバイスをしたら次の打席でヒットを打ちました。これはアドバイスの効果といえるのでしょうか?
著者は、ランダムネスの基本原理のひとつ、「平均回帰」というコンセプトを紹介しています。
「能力か? 偶然か?」。
もちろん、努力により能力が高まり、できないことができるようになることは山ほどあります。しかし、本書の著者によると、どうやら私たちは、ランダムネスの作用を過小評価しているようです。
本書の前半は、主として「確率論」がテーマになっています。
確率論から導き出される結果は、しばしば、多くの人が考える蓋然性の程度と大きく異なることがあります。
たとえば、それは「可用性バイアス」といわれる心理状況が原因となります。
また、「ベイズの理論」の無知から生じることもあります。
この例として、著者は、マンモグラムで陽性になった女性が乳がんを有する確率を取り上げています。
ベイズの法則を正しく適用させると乳がんによってマンモグラムが陽性になる確率は約9%。こういうケースでも、医師の間では、確率理論の無理解により70~90%と評価されているというのです。
多くの人が検査を受ける場合、実際の「罹患率」が小さく、「疑陽性率(乳がんに罹っていないにもかかわらず検査陽性になる人の割合)」が比較的大きいと、こういう直感的な過ちをしやすくなるのです。
統計の効用
本書の後半は、主として「統計」をテーマにして解説が進んでいきます。「正規分布」や「標準偏差」といったお馴染みのコンセプトが登場します。
まず、もっとも基本的なランダムネスの現出パターンとしての「正規分布」の効用についてです。
正規分布は、ある意味とてもシンプルなパターンですから、直観的に理解しやすいものです。理解しやすいと、人は、そこに「何らかの意味」があると考えがちになります。ここに気をつけるべき陥穽があります。「本当は意味がないにもかかわらず、そこに意味があると考えてしまう」という罠です。
先入観は、どんどん強化されていきます。曖昧な証拠でも、それを自分の都合のいい方に引き込んでしまうのです。
こういう心理的なバイアスはなかなか厄介です。第一印象に引きづられて、後々まで判断をミスリードしてしまうことも現実的には少なからず生じているでしょう。
著者はこういう偏見を克服するために、以下のような方法を紹介しています。
ただ、そもそも「バイアス」がかかってるのですから、出発点に立つことすら大変ですね。
さて、最終章で著者はこう語っています。
本書では、この成功が、(努力もひとつの要素であることは認めつつも)多くの場合「ランダムネス」の現出に過ぎないことを明らかにしているのです。
この著者のメッセージをpessimisticに捉えるべきではありません。optimisticにpositiveに受け取りましょう。
「偶然」は、チャレンジする回数を増やせば、いつかは味方してくれるものです。