大竹文雄氏の本は、「経済学的思考のセンス―お金がない人を助けるには」に続いてこれで2冊目です。
労働経済学が専門で「自由競争」「市場経済」を基本とする立場の著者が、日本人の公平感・格差感覚等をいくつもの切り口から解き明かしていきます。
まずは、「市場経済と国の役割」に関する日本人の特徴的思考スタイルを指摘します。
日本人がこういった思考に傾く理由について、著者は、そのひとつに「日本の学校教育」の影響を挙げています。市場経済のメカニズムを教育の場においてもキチンと教えていないというのです。
市場経済の競争メカニズムにはもちろんメリット・デメリットの両面があります。
このデメリットのうち、日本人が特に敏感に感じている要素が「格差」です。著者によると「所得格差」のかなりの部分は「人口構成の高齢化」で説明できるといいます。
さて、この所得格差ですが、近年のアメリカでは、高所得者・高学歴者の所得の急激な高まりによって拡大傾向にあります。しかしながら、同様に格差が拡大しつつある日本ほどは政治問題化していません。著者は、「日本では、高齢化以外の要因での格差拡大は小さいにもかかわらず、所得格差が政治問題化されているのだ」と指摘しています。
本書を通しての著者の立ち位置は「市場万能主義」ではありません。市場メカニズムを基本に、それがうまく機能するような仕掛けづくりが重要との考えです。
この考え方については私も同意するところです。ただ、本書で示されている現実社会の把握やそれに対する具体的な提案内容については、少々フラストレーションを感じるところがありました。
種々のフィールドワーク的な実証データにもとづく分析も数多く示されているだけに、かえって要所要所で見られるマクロ経済学的なステレオタイプモデルによる立論が際立ってしまうのです。