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弱者の兵法 野村流 必勝の人材育成論・組織論 (野村 克也)
今シーズン限り(注:最初の投稿は2009年(本投稿は再録))で楽天の監督を辞任することになった野村克也氏の人材育成論・組織論です。
もちろん、材料は「野球」。
何人もの有名な野球選手にまつわるエピソードも数多く紹介されているので、野球に興味のある方はいろいろと楽しめるのではないでしょうか。
その点、本書の大半が「人材育成論・組織論」についての記述で埋められているわけではありませんが、さすがに野村氏の著作ですから、ビジネスの参考になる示唆も数多くありました。
まずは、野村氏の真骨頂、データ野球の実際についての話です。
(p86より引用) キャッチャーとしては「一日三ゲーム」を自分に課していた。
まず球場に入ったらイメージのなかで自軍の先発ピッチャーと相手バッターを対峙させる。・・・二試合目はもちろん、グラウンドでの実際の戦いだ。だが、私はこれだけでは終わらなかった。試合後にもう一度実際の試合を最初から最後まで検討し直すのである。・・・
私は理想を目指して、予測野球、実践野球、反省野球を繰り返し、一日中ガツガツと貪欲に野球に取り組んだ。
これは、まさにデータを活用した “P(予測)、D(実践)、C(反省)サイクル” の実践ですね。この地道でありまた王道の方法の継続で、野村氏は、現状に満足することなく向上心をもち続けたのです。
もうひとつ、「知識経営」に通底する「無形の力」というコンセプトです。
(p162より引用) 無形の力とは、・・・具体的にいえば、「分析」「観察」「洞察」「判断」「決断」「記憶」としてまとめられようか。
・・・この無形の力は有形の力-戦力の多寡や技術力など-に勝るというのが私の信念であり、これまでのプロ野球生活で体得した真理であるといっても過言ではない。
なぜなら、有形の力は「有限」であるからだ。・・・
しかるに無形の力は磨けば磨くほど研ぎ澄まされる。スランプもない。しかも、チームとして共有できる。ということは、選手が代わってもチームの財産となって受け継がれていくのである。
正直なところ、本書で示された人材育成や組織に関する要諦は、これといって目新しいものはありませんでした。しかしながら、野村氏は、自らを高めるため幾重にも重ねた努力を通して、これらの考え方を身につけ実践していったのです。
実体験により創造された主張であるということは、結果としての内容に斬新さがなくとも、本書に、理念先行のビジネス書にない素晴らしい価値を与えるものだと思います。
そして、野村氏は、その実践知を「自らの知恵」のみならず「チームの財産」として残していったのです。
この点は、何より素晴らしいことですね。