ドラッカー 時代を超える言葉 洞察力を鍛える160の英知 (上田 惇生)
基本的な姿勢
「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」を読んで、久しぶりにドラッカー関係の本を手に取りました。
ドラッカー氏の著作の翻訳で有名な上田惇生氏が、「週刊ダイヤモンド」に「経営学の巨人の名言・至言-3分間ドラッカー」とのタイトルで連載しているものの編纂・再録です。
構成は、「Ⅰ 成果をあげる」「Ⅱ 強みを引き出す」「Ⅲ 組織を動かす」「Ⅳ 人を動かす」「Ⅴ 変化を捉える」との5章から成っています。
前半部分から私が関心をもったフレーズを覚えに書き記しておきます。
まずは、仕事を進めていくうえでの基本動作である「優先順位」についてのドラッカーの考えです。
優先順位付けのメルクマールが「将来の可能性へのチャレンジ」であることが、正にドラッカー的です。
さて、将来へのチャレンジにはリスクが付き物です。この「リスク」に関して、ドラッカーはこう語っています。
この指摘ですが、理論的(MECE的)には、第四は「負うべきでないリスク」となります。が、ここでは、「リスクを負わない」という消極的態度に対する重要な気づきとして、敢えて「第四のリスク」を強調して指摘しているのでしょう。
「変化」している経営環境下においては、「リスクをとらないことが大きなリスクになる」ということを改めて伝えているのです。
さて、これらのほかに基本的な姿勢として、本書の中で何度も登場するのが「貢献」というコンセプトです。
「貢献」について深く考えることは、目標に向かう高い視線とそれを実現するための基礎的な営みへの目配りとを求めます。成果は、個人プレーで成し遂げうるものではないという考え方です。
もうひとつは「正しい問いの立て方」。
いきなり答えを求めるのではなく、何を求めているのか、解決したいのかを改めて考え直すことの必要性を説いています。
まずは「問い」から始まる。物事の本質に立ち戻ること、そこからすべてが出発するということです。
組織の目的
ドラッカーは「組織社会」の到来を指摘し、その組織の運営方法として「マネジメント」を提唱しました。
「組織」についてのドラッカーの名言・至言は数多くありますが、今回本書を読んで、改めて再認識させられたのが、「組織の目的」に関する以下のフレーズです。
「組織の存在」自体を自己目的化させないために、折に触れて思い出さなくてはならない言葉だと思います。
さて、以下、組織やマネジメントの周辺的な事項に目を向けたドラッカーの指摘を記してみます。
まずは、逆説的な言い方でマネジメントの本質を語ったくだりです。
「退屈」とはいえ、その中では、マネジメントサイクルが自律的に動き続けているわけです。いわゆる「水面を進む水鳥」の図なのでしょう。
もうひとつ、興味深い逆説的な指摘をご紹介しておきます。理想的な「マーケティング」について語った言葉です。
顧客に寄り添う行動が実践されていれば、こちらから顧客に働き掛ける「販売行動」は不要のはずとの考えなのでしょう。
さて、そのほか、本書で紹介されているドラッカーらしさが感じられるくだりです。
ひとつめは、ドラッカーが採る「会社」の位置づけについてです。
ドラッカーは、株主のために働く会社は否定します。会社組織は「多様な当事者間における均衡ある利益の実現」を図るものだと考えています。
近年声高に唱えられている株主重視の「シェアホルダー説」ではなく、ひろく利害関係者のバランスを考慮した会社経営を目指す「ステークホルダー説」を支持しているのです。
ふたつめは、「変化を当然のこととする」考え方をイノベーションに敷衍させた指摘です。
この「変化」は、まさに社会の潮流の変化です。
ドラッカーは独立した経済を否定します。それは社会の制約要因のひとつに過ぎないとの考え方です。この点を象徴的に示すのが、1934年、ケインズのセミナーを聴講していた際のドラッカーのエピソードです。
自らを「社会生態学者」として位置づけるドラッカーの原点でもありますし、近年、脚光を浴びている「行動経済学」の考え方に通じる瞬間でもあります。
すでに起こった未来
優れた企業も、その成長が永続するとは限りません。業績悪化に転ずることはむしろ珍しいことではありません。
好調だった企業が低迷期に入る原因として、ドラッカーは「五つの大罪」を示しています。
第一から第三までの大罪は「価格(値付け)」についてのものですが、第四と第五は、「明日」や「機会」すなわち「未来」にポイントをおいた指摘です。
ドラッカーは、1993年、「すでに起こった未来」という論文集を世に出していますが、「未来」についてのドラッカーの思想や提言はそれ以前にも数多く発表されています。
たとえば、既に1964年の「創造する経営者」という著作では、ドラッカー流の「未来を知る二つの方法」が語られています。
誰でも等しく見ることができる「社会」の観察からドラッカー氏は未来を予見します。変化の兆しを鋭く掬い取るのです。
まさに、そういう社会変化を自らの学問対象に据えるドラッカー氏は、自らを社会生態学者と位置づけています。
社会の変化の兆しを捉えるためには、何に着目すればいいのか、どういう視点で、どういう視座から社会を見ればいいのか・・・。いくつかのヒントをドラッカー氏は示していますが、その具体的なひとつが「ノンカスタマー」という存在です。
以前紹介したドラッカー氏の至言に、「組織の目的は組織の外にしかない。顧客と市場である。」というフレーズがありますが、ドラッカー氏は「外からの視点」を非常に大事にしています。
「なぜ『ノンカスタマー』なのか?」、この問いを突き詰めて考え抜くことで、未来に対応した次なるアクションのヒントが導き出されるのでしょう。それは、既存製品・サービスの改善レベルのものもあれば、既存市場の限界・転換を示唆するものもあるはずです。
「ノンカスタマー」を追究することは、ドラッカーの言う「事業の目的」である「顧客の創造」に繋がっていくのです。
1999年の「明日を支配するもの」では、ドラッカー氏はこう指摘しています。
蓋し至言です。