全脳思考 (神田 昌典)
TEFCAS
神田昌典氏関連の本は、以前、氏が翻訳した「ザ・マインドマップ」を読んだことがあります。
翻訳に限らず多くの著作を世に出しているようですが、神田氏自身の著作を読むのは、本書が始めてです。
本書では、神田氏のコンサルタントとしての経験から得た独自の「思考方法」が紹介されているのですが、その中で私の関心を惹いたのは以下の二点でした。
ひとつめは、氏が提唱する「全脳思考モデル」の第一歩としての「発想」のヒントです。
従来の延長線上からの発想を避けるための具体的な方法として、「特定人物の将来のHAPPYな状態」をスタートにするのは面白い着手法だと思います。
あと、もうひとつは「TEFCAS」というコンセプトです。
TEFCASとは、マインドマップで有名なトニー・ブザン氏が提唱している「目標を実現するためのプロセス管理サイクル」で、それぞれの頭文字の意味は、「Trials」「Events」「Feedback」「Check」「Adjust」「Success」とのこと。
PDCAは「Plan(計画)」が出発点です。他方、TEFCASは「Trials」、すなわち、仮説を試してみることから始まります。まずは、「やってみる」ことを重視します。
将来が不確定な時代には、精緻な計画を立てることは極めて困難ですし、また、計画通りに物事が進むことも稀です。仮説検証のサイクルを細かく早く回しながら、つねに変化する外部条件にAdjustしながら進めていくことが「Success」(成功)への道となるという考え方です。
知識社会
本書は、「全脳思考」という神田氏の「思考法」を紹介したものですが、私としては、思考法そのものの内容よりも、その思考法の背景認識に関わる考え方のほうに興味を持ちました。
ベースにあるのは、「工業社会→情報社会→知識社会」というよくあるスキームです。
まずは、「情報社会」になって「失ったもの」について。
この弊害は確かに大きいものがありますね。
可能な限り生身のコミュニケーションの場を確保する努力は必要ですが、もうひとつ、現在のコミュニケーション基盤を所与の前提として、その中での多様な情報のやりとりを生起・活性化する工夫も不可避になってきています。
その試みのひとつとして、私も部内のSNS(注:2009年当時)を立ち上げてみていますが、新たな個性の発見やリアル・コミュニケーションの補完に役立ち始めているのと同時に、やはり、アクティブ化の壁は大きいものがあると感じています。
2点目は、「知識社会における新たな競争戦略」についてです。
このことが、適応する「フレームワーク」の変化に結びついていると著者は主張します。「3C」や「4P」といった工業社会における競争戦略のために開発されたフレームワークは、市場創造戦略には適応不全を起こしているとの指摘です。
最後は、「フラット組織の弊害」についての著者の考えです。
(ア) (p58より引用) 現在のフラット化した組織では、戦略の浸透そして実行は、じれったいほど時間がかかる。階層がフラットになったのだから、組織内における戦略の浸透も早くなったような印象がある。たしかにITインフラの社内整備により、同じ情報を共有するのは簡単になった。だが、事業推進に関わる情報・権限が分散した結果、同じヴィジョンを共有するのはひどく難しくなってしまった。
確かに、従来の階層型組織の場合は、上位下達式の命令による統制スタイルでしたから、トップの号令一下によるアクションはスムーズだったことは事実でしょう。
フラット組織は、同列の組織が多数並存します。そのために、「一つの組織横断的な戦略」を実行するうえでは、複数の関係部門の足並みをそろえるのが非常に困難になったというのです。
他組織を「納得させる」努力と、並列組織をベースにしたプロジェクトマネジメントの仕組みがより重要になってくるわけです。
(注:本稿は2009年の投稿をそのまま再録しています。著者の主張もそうですが、私の感想にも歴史を感じますね。)
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