不当逮捕 (本田 靖春)
(注:本稿は、2020年に初投稿したものの再録です。)
ちょっと前に、後藤正治さんの「拗ね者たらん」を読んで、ともかく本田靖春さんの著作を読んでみたくなりました。
で、まず手に取ったのが、代表作のひとつを言われている本書です。
確かに緻密な事実の堆積に加え、それを描き切る本田氏の並々ならぬ筆力を感じます。
評判どおりの骨太で高密度のノンフィクション作品ですね。
ただ、私の好みかといえば、どうもちょっとしっくりこないところがありました。
私がよく読んでいたのは吉村昭さんや柳田邦男さんたちの作品群だったのですが、「どうしてかな?」と考えてみたところ、ひとつ気づくところがありました。
この「不当逮捕」には、著者の本田氏本人も主人公と深い因縁をもつ関係者のひとりとして登場するんですね。ここにおいて、著者は第三者ではなく、作品も「完全なる客観性」に徹した記述ではなくなっているわけです。
もちろん吉村作品や柳田作品に主観的記述がないかといえば、そうではないでしょう。ただ、主人公への思い入れの浸潤度合いは、質的にも量的にも異なっています。
ノンフィクションとしての是非ではなく、私が抱いた(私が思うノンフィクション作品との)“違和感の源” はここだと思いました。