モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (ダニエル・ピンク)
〈モチベーション2.0〉の弊害
話題の本(注:2011年当時)なので手にとってみました。
著者の主張の基本的な骨格は「動機づけ」の類型化です。それを、コンピュータのOSに準えてヴァージョンで分類しています。
本書の第一部では、主として〈モチベーション2.0〉の問題点を考察しています。
〈モチベーション2.0〉はルーティン業務には適していても、現代のクリエイティブな業務には適応できないというのです。
さらに、著者は、業務不適合にとどまらず、中長期的成果という点においては積極的に悪影響を与えているとも論じています。
この点は行動科学という学問レベルでは確立した考え方であるにもかかわらず、現代の実ビジネスの世界ではこの研究成果を実マネジメントに十分に生かしきれていないのが現状にあります。
すなわち、未だに報酬に代表される〈モチベーション2.0〉アメとムチによる動機づけが主流をなしているという主張です。
「報酬」は、思考を過度に集中させます。目先の利益に囚われてしまい広い視野で柔軟に考えることを妨げるのです。
さて、ここまでの前半は、ダン・アリエリーの「予想どおりに不合理」からの引用等「行動経済学」の紹介部分が多く、少々冗長な感は否めません。
とはいえ、以下のまとめでの指摘は、改めて確認すべき重要なポイントですね。
適切な「動機づけ」の方法を選択するためには、その対象業務の内容をともに、それに携わる人のタイプを見極めることが肝になるようです。
タイプⅠ
第2部では、〈モチベーション3.0〉の3つの要素を解説しています。
「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」の3つです。
著者は、第1部の後半で2つの行動様式を紹介していますが、そのうち〈モチベーション3.0〉における行動様式を「タイプⅠ」と名づけました。
このタイプIの行動の中心には、「自律性」「自主決定性」という人間に本来的に備わっている能力があるといいます。
この「自律性」というコンセプトは、〈モチベーション3.0〉の3つ要素のうちではとりわけ重要です。報酬よりもモチベーションを湧かせる仕組みに必須の要素が「自律性」です。
「何をするのか」「いつするのか」「どのようなやり方でするのか」「誰と一緒にするのか」、これら仕事を進めるにあたっての4つの側面を、自らの意思でコントロールし得たとき、人は報酬に勝る内部からの充実感・満足感を得るとの考え方です。
さて、本書は、人を、〈モチベーション3.0〉すなわちタイプⅠの行動に導くための種々の具体的方法を「ツールキット」として紹介しています。
その中の参考文献から、私の興味を惹いたものを覚えに書き留めておきます。
Mindset : The New Psychology of Success(邦訳『「やればできる!」の研究』草思社)に記されたスタンフォード大学教授ドゥエックのメッセージです。もちろん「発展的マインドセット」で行きようというアドバイスです。
最後に、本書を通読しての私の印象。
本書で示されている著者の処方箋ですが、そのまま旧態の日本企業に適応するにはかなりの調整・工夫が必要だと感じますね。
すぐに処方できるような状況の企業は、すでに、モチベーション2.5ぐらいにOSはバージョンアップしているはずです。多くの企業は、バージョンアップしようにも、CPUパワーやメモリ容量が圧倒的に不足している状態なのです。