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モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (ダニエル・ピンク)

〈モチベーション2.0〉の弊害

 話題の本(注:2011年当時)なので手にとってみました。

 著者の主張の基本的な骨格は「動機づけ」の類型化です。それを、コンピュータのOSに準えてヴァージョンで分類しています。

〈モチベーション1.0〉…生存(サバイバル)を目的としていた人類最初のOS
〈モチベーション2.0〉…アメとムチ=信賞必罰に基づく与えられた動機づけによるOS
〈モチベーション3.0〉…自分の内面から湧き出る「やる気!=ドライブ!」に基づくOS

 本書の第一部では、主として〈モチベーション2.0〉の問題点を考察しています。

(p60より引用) 〈モチベーション2.0〉は三点の互換性の問題を抱えている。第一に、新たなビジネスモデルの多くが、現在の事業形態とは一致していない。なぜなら今日、わたしたちは外発的に動機づけられた利益を最大化しようとしているだけではない。内発的に動機づけられた目的も最大化しようとしているからだ。次に、〈モチベーション2.0〉は、21世紀の経済学が考える人間の行動と一致しない。・・・最後に、おそらくもっとも重要な点は、〈モチベーション2.0〉は現代の仕事の大半と相容れない。

 〈モチベーション2.0〉はルーティン業務には適していても、現代のクリエイティブな業務には適応できないというのです。

 さらに、著者は、業務不適合にとどまらず、中長期的成果という点においては積極的に悪影響を与えているとも論じています。

(p68より引用) 行動科学の有力な教科書にあるように、「人は、他人の意欲をかき立てて行動を促し、そこから利益を得ようとして報酬を用いるが、かえって活動に対する内発的動機づけを失わせるという、意図せぬ隠された代償を払う場合が多い」
 これは、社会科学の分野において、もっとも揺るぎない発見であり、同時に、もっともないがしろにされている発見でもある。

 この点は行動科学という学問レベルでは確立した考え方であるにもかかわらず、現代の実ビジネスの世界ではこの研究成果を実マネジメントに十分に生かしきれていないのが現状にあります。
 すなわち、未だに報酬に代表される〈モチベーション2.0〉アメとムチによる動機づけが主流をなしているという主張です。

(p75より引用) 思考の明晰化と創造性の向上を意図したはずのインセンティブが、かえって思考を混乱させ、創造性を鈍らせたのだ。・・・報酬には本来、焦点を狭める性質が備わっている。解決への道筋がはっきりしている場合には、この性質は役立つ。・・・だが、「交換条件つき」の動機づけは、・・・発想が問われる課題には、まったく向いていない。

 「報酬」は、思考を過度に集中させます。目先の利益に囚われてしまい広い視野で柔軟に考えることを妨げるのです。

 さて、ここまでの前半は、ダン・アリエリーの「予想どおりに不合理」からの引用等「行動経済学」の紹介部分が多く、少々冗長な感は否めません。
 とはいえ、以下のまとめでの指摘は、改めて確認すべき重要なポイントですね。

(p93より引用) 【アメとムチの致命的な7つの欠陥】
1.内発的動機づけを失わせる。
2.かえって成果が上がらなくなる。
3.創造性を蝕む。
4.好ましい言動への意欲を失わせる。
5.ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する。
6.依存性がある。
7.短絡的思考を助長する。

 適切な「動機づけ」の方法を選択するためには、その対象業務の内容をともに、それに携わる人のタイプを見極めることが肝になるようです。

タイプⅠ

 第2部では、〈モチベーション3.0〉の3つの要素を解説しています。
 「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」の3つです。

 著者は、第1部の後半で2つの行動様式を紹介していますが、そのうち〈モチベーション3.0〉における行動様式を「タイプⅠ」と名づけました。

(p116より引用) タイプⅠの行動は、外部からの欲求よりも内部からの欲求をエネルギー源とする。活動によって得られる外的な報酬よりも、むしろ活動そのものから生じる満足感と結びついている。

 このタイプIの行動の中心には、「自律性」「自主決定性」という人間に本来的に備わっている能力があるといいます。
 この「自律性」というコンセプトは、〈モチベーション3.0〉の3つ要素のうちではとりわけ重要です。報酬よりもモチベーションを湧かせる仕組みに必須の要素が「自律性」です。

(p136より引用)タイプⅠの行動は、この四つのT-課題(Task)、時間(Time)、手法(Technique)、チーム(Team)-に関して自律性を得たときに現れる。

 「何をするのか」「いつするのか」「どのようなやり方でするのか」「誰と一緒にするのか」、これら仕事を進めるにあたっての4つの側面を、自らの意思でコントロールし得たとき、人は報酬に勝る内部からの充実感・満足感を得るとの考え方です。

 さて、本書は、人を、〈モチベーション3.0〉すなわちタイプⅠの行動に導くための種々の具体的方法を「ツールキット」として紹介しています。
 その中の参考文献から、私の興味を惹いたものを覚えに書き留めておきます。

(p255より引用) 「固定的なマインドセット」の人は、自分の才能は石に刻まれたかのごとく変わることがない、と考える。「発展的なマインドセット」の人は、自分の才能は開発できると考える。固定的なマインドセットは、あらゆる経験を「自らの能力を試す試練」とみなす。一方、発展的マインドセットは同じ経験を「向上する機会」とみなす。

 Mindset : The New Psychology of Success(邦訳『「やればできる!」の研究』草思社)に記されたスタンフォード大学教授ドゥエックのメッセージです。もちろん「発展的マインドセット」で行きようというアドバイスです。

 最後に、本書を通読しての私の印象。
 本書で示されている著者の処方箋ですが、そのまま旧態の日本企業に適応するにはかなりの調整・工夫が必要だと感じますね。
 すぐに処方できるような状況の企業は、すでに、モチベーション2.5ぐらいにOSはバージョンアップしているはずです。多くの企業は、バージョンアップしようにも、CPUパワーやメモリ容量が圧倒的に不足している状態なのです。



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