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地球持続の技術 (小宮山 宏)

 著者の小宮山宏氏元東京大学総長地球環境工学の第一人者です。

 本書は1999年の出版ですからそれほど最近のものではありませんが、その論旨は現時点でも十分な説得力があります。

(p33より引用) 石油の枯渇、地球の温暖化、廃棄物の大発生は、20世紀の膨張がもたらした当然の帰結である。われわれはこうした厳しい条件のもとで21世紀を迎えるわけである。
 地球はその薄皮一枚にも足りないバイオスフィアの中で、太陽エネルギーによる安定な循環を営んできた。その循環を攪乱しているのはわれわれ自身の活動なのであるから、地球の持続のために人間の手による循環系を構築することが必要なのである。

 著者はそのことを本書の主題に据えています。

 人間によるエネルギー消費の実態は、結局のところ、化石資源のもっていたエネルギーを宇宙に放射させることです。したがって、人間は、常に新たなエネルギー資源を必要とするのです。しかしながら化石燃料は枯渇性であり、その燃焼は温暖化の原因になります。

(p59より引用) だとすれば、自然エネルギー核エネルギーに将来を委ねることが解として浮かび上がるだろう。

 ここで、著者は、化石資源の完全な代替として自然エネルギー利用することは21世紀中には困難であること、また、核エネルギーについては安全性において不安があることを指摘します。

(p60より引用) では、残された可能な道とは何であろうか。それは、まず中期的には、①エネルギー利用の効率を高めることによってその使用量を抑制して石油資源の延命を図りつつ、同時に、②非枯渇性エネルギーシステムの構築を目指すことであり、長期的には自然エネルギーによる全面代替を達成するということである。

 これが、著者の現実的な対応策です。そして「現実的」ということは「実現可能性がある」ということです。

(p115より引用) 持続性を脅かしているのは、・・・大量生産そのものではない。したがって、持続のために目指すべきは、資源の大量消費、製品の大量廃棄型文明からの脱却であるというべきであろう。資源量と環境容量が有限であることから生産は減少に向かうであるとか、人類の活動はすでに限界を越えつつあるのではないかという警告は貴重である。しかし、悲観する必要はない。解はあるのだ。

 最近、多くの地球環境問題を扱った著作が世に出ています。それらの中には根拠なく楽観的なものもあれば、いたずらに悲観論を説くものもあります。

 よく見られる指摘は「リサイクル」の有効性に関する議論です。

(p123より引用) リサイクルにはエネルギーが無駄になるという批判は多くの場合誤りである。本当にエネルギー消費が大きいとすれば行程が不合理であると考えた方がよいのだ。

 著者は、短絡的なリサイクル不要論を否定します。

(p123より引用) エネルギー的に価値のある天然資源の条件とは、①濃度が高く、②分離しにくい元素が含まれていない物質が、③集中して存在することである。・・・
 廃棄された人工物から素材を再生させることも、同じように考えることができる。・・・したがって、社会に分散した人工物を効率的に収集し輸送するシステムを構築することと、廃棄されたときに分離の困難な物質の混入がおこらないようにすることが、リサイクルの効率を高める鍵となる。人工物の製品設計から、市民による消費や排出までの全体システムをそのように構築することができさえすれば、エネルギー効率に優れた循環システムは可能なのである。

 本書を通じて、著者は、エネルギーの基本の解説から説き起こし、エネルギー消費の現実を明らかにしていきます。そして、最終的に、現実的な技術革新を前提とした「地球を持続させる完全循環型社会の具体的な実現シナリオ」を提示しています。

 「ビジョン2050」と名付けられたその道すじは、

(p165より引用) (1)エネルギーの利用効率を3倍にすること、(2)物質循環のシステムをつくること、(3)自然エネルギーを2倍にすること

を前提としています。
 そしてこの利用効率の向上は、「エネルギー生産における効率化とエネルギー消費における節減の『積』」により達成可能だといい、循環システムの構築は、「技術と社会の関係の再構築」により実現するのだと主張しています。

(p181より引用) 電気自動車がクリーンに走り、家屋は快適な冷暖房システムを有し、大都市のごく近郊に美しい海や森林があり、それらは自然エネルギーによって維持されている。そういう未来イメージは決して夢ではないのである。

 著者は、事実を数字で捉え、技術動向や社会情勢の実情を踏まえた論理的な記述で、「ビジョン2050」の実現性を説き起こしていきます。

 とはいえ、夢を実現するためにはビジョンに向かう「意思」と実際の「行動」がなくてはならないのです。



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