著者の小宮山宏氏は元東京大学総長、地球環境工学の第一人者です。
本書は1999年の出版ですからそれほど最近のものではありませんが、その論旨は現時点でも十分な説得力があります。
著者はそのことを本書の主題に据えています。
人間によるエネルギー消費の実態は、結局のところ、化石資源のもっていたエネルギーを宇宙に放射させることです。したがって、人間は、常に新たなエネルギー資源を必要とするのです。しかしながら化石燃料は枯渇性であり、その燃焼は温暖化の原因になります。
ここで、著者は、化石資源の完全な代替として自然エネルギー利用することは21世紀中には困難であること、また、核エネルギーについては安全性において不安があることを指摘します。
これが、著者の現実的な対応策です。そして「現実的」ということは「実現可能性がある」ということです。
最近、多くの地球環境問題を扱った著作が世に出ています。それらの中には根拠なく楽観的なものもあれば、いたずらに悲観論を説くものもあります。
よく見られる指摘は「リサイクル」の有効性に関する議論です。
著者は、短絡的なリサイクル不要論を否定します。
本書を通じて、著者は、エネルギーの基本の解説から説き起こし、エネルギー消費の現実を明らかにしていきます。そして、最終的に、現実的な技術革新を前提とした「地球を持続させる完全循環型社会の具体的な実現シナリオ」を提示しています。
「ビジョン2050」と名付けられたその道すじは、
を前提としています。
そしてこの利用効率の向上は、「エネルギー生産における効率化とエネルギー消費における節減の『積』」により達成可能だといい、循環システムの構築は、「技術と社会の関係の再構築」により実現するのだと主張しています。
著者は、事実を数字で捉え、技術動向や社会情勢の実情を踏まえた論理的な記述で、「ビジョン2050」の実現性を説き起こしていきます。
とはいえ、夢を実現するためにはビジョンに向かう「意思」と実際の「行動」がなくてはならないのです。