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芸能界を変える ─ たった一人から始まった働き方改革 (森崎 めぐみ)
いつも利用している図書館の新着本の棚で目についた本です。
人気タレントと大手テレビ局におけるコンプライアンス問題が大いに話題になっていますが、従来から “芸能界の特殊な慣行” についてはその存在は黙認されていたというのが現実の姿でしょう。
本書の著者の森崎めぐみさんは、俳優であり、一般社団法人日本芸能従事者協会代表理事という立場で、不適切な労働慣行や各種ハラスメントが横行する芸能界における法的ルールの確立に尽力してきました。
本書には、芸能界の実態を示す森崎さんたちが実施した調査結果や直接体験した実例が数多く紹介されているとともに、その解決策の提案・改善事例等も随所に記されています。
しばしば “芸能界の特殊性” という言を耳にしますが、その背景には、「芸能関係の労働者」と企業や芸能事務所との多様かつ不可思議な関係の存在があります。
芸能事務所に雇用されたタレントもいますが、業務委託契約やフリーランスといった「個人事業主」との位置づけにある人も多いようです。このために、これらの「個人事業主」は、雇用された労働者を対象にした各種労働法制の “枠外” におかれてしまうのです。
もう一点は、制作側である発注者と受注(受託)側の実行者間の「歪な力関係」やそこに存する「不透明な意思決定プロセス」が挙げられるでしょう。
この正常化は厄介です。弱い立場の受注者が発注者側の理不尽な実態に異を唱えることは、今以降の自らの仕事を失うという大きなリスクを覚悟せざるを得ないからです。
理不尽さの解消、それが “ひとり” では出来ないならば「グループ(集団の力)」で対抗する、さらには「公的なルール(法律・指針・制度制定)」等で強制する、こういった具体的アクションに森崎さんは先陣を切って取り組んでいったのです。
本書を読んで、「そうなのか」と認識を新たにした点がありました。
コロナ禍の最中 “不要不急” の論調の影響で文化・芸能活動は甚大なダメージを受けました。そこで顕かになった諸々の芸能従事者の前近代的労働待遇の改善ステップにおいて、思いの外、厚生労働省・文化庁等の官庁・官僚が、森崎さんらの活動に呼応して機能したようです。
(p113より引用) こうしてコツコツと孤独に勉強しながらひらめいたり絶望したりを繰り返していたある日、厚労省から突然メールが来ました。労災保険を審議している会議で、これまでの事故の概要や今後についての要望を発表してほしいという内容でした。
これがきっかけで、「特別加入労災保険」の制度化が図られましたし、その他にも「契約ガイドライン」の発出(文化庁)や「フリーランス・事業者間取引適正化等法」の制定、メンタルヘルスケアの充実等、数々の対策が展開されました。
もちろん、顕在化したアクションが紹介されたということで、まだまだ動きが鈍く不十分な対応も残っているのが現実だとは思います。
それでも、少しずつでも見直されているという事実は、関係者のみなさんの地道な活動の大きな成果であり、今後の対策の充実・拡大に向けた明るい希望でもありますね。