リクルートのDNA―起業家精神とは何か (江副 浩正)
ある程度の年齢以上の方は、著者の江副浩正氏の名前は鮮明に記憶に残っているでしょう。私もその年代ですし、実は、個人的にもいろいろな思いがあります。
江副氏は、情報サービス業の大手企業「リクルート」(当初の社名は「大学新聞広告社」)の創業者です。
リクルート社は自由闊達な社風で急成長した企業で、若く有能な人材を多く社会に輩出しました。一時、業績不調の時期がありましたが、近年はまた好調な業績を残しているようです。
本書は、一世代前?のベンチャー企業の創業者が、その企業の立上げから発展に至る軌跡(その中には失敗や反省もありますが)を自ら綴ったものです。
本書を読んで、ともかく最も知りたいことは、やはりタイトルでもある「リクルートのDNA」とは何かということでした。
江副氏は、「社員皆経営者主義」をはじめとしていくつものDNAを紹介しています。
たとえば、仕事のスタイルにも、脈々とDNAが受け継がれているようです。
(p93より引用) こうして創業時から、社員と社外の人が一つの目的に向かって仕事をする仕組みができていき、社員が外の人と一緒に仕事をすることがリクルートのDNAとなった。
そのほか、体内(社内)に埋め込まれた「フィードバック回路」もDNAによるもののひとつでしょう。
(p110より引用) 書物に、万物のなかで人間が最も優れた存在であるのは、人の身体の中に無数のフィードバックの回路が組み込まれているからであるとあった。私はリクルートの組織にもフィードバックの回路を極力組み込みたいと考えた。
顧客や読者から編集部へのフィードバックはがきは、『リクルートブック』創刊号以来、リクルートの情報誌にはずっとつけている。社員評価の本人へのフィードバック、研修などの後のアンケートなど、リクルートに数多くフィードバックの回路をつくり、それらが組織に有効に機能するようにしていった。それがリクルートの強みとなっていった。
「やりっぱなし」が世の常です。“PDCA”とかよく言われますが、大雑把な「P」はあっても「D」は中途半端、「C・A」に至ってはまずしっかり実践している例を見たことがありませんね。
あと、興味深く印象に残ったのは、「エントロピーの増大と検索の関連」という観点でした。
(p111より引用) 情報理論では物理学のエントロピーの法則という言葉が使われていた。
「情報量が増加すると、自由な選択の余地も広がるが、同時にエントロピーの法則が働いて、必要な情報と不要な情報が混在し、無秩序になる。欲しい情報を取り出すためのインフォメーション・リトリーバル(情報検索)をどうするかが重要」とあった。そこで、情報誌に必要な情報検索方法についても、工夫を重ねていった。
このあたりは「週刊住宅情報」のさまざまな検索(索引)ページや、「企業への招待(後の「リクルートブック」)」巻末の「掲載企業が採用したい学科別一覧」のマトリックス等に具現化されています。
当時から「情報を活かすポイントは『検索』にある」ということに気づいていたのは、慧眼と言わざるを得ません。(もちろん、これは今ではインターネット上の「検索エンジン」が担っているわけですが)
最後に、本書を読んで私が「これこそ『リクルートのDNA』だ」と感じたフレーズを書き留めておきます。それは、創業時、江副氏が掲げた社訓でした。
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」
この精神は、(素直に)素晴らしいと思います。このDNAは企業に限らず、私たちの活動のあらゆる面で受け継ぐ価値のあるものです。
残念なことに、この社訓は、現在、公式には姿を消しています。「表面上」は、受け継がれていないDNAなのです。