同じ年に生まれて-音楽、文学が僕らをつくった (小沢 征爾・大江 健三郎)
本書は、世界的に著名な指揮者である小澤征爾氏とノーベル賞作家の大江健三郎氏との対談録です。
以前、小澤征爾氏の著書「ボクの音楽武者修行」を読んだことがあるのですが、その流れで手に取ったものです。
お二人とも1935年に生まれた同世代で40年来の友人とのこと。若い頃からそれぞれの道をめざし、現在の地位に至っています。
音楽と文学、異なる世界ではありますが、お二人のお話の中には、そういったジャンルの違いを超えた普遍的な示唆がそこここに見られます。
たとえば、大江氏の言う「芸術の『普遍性』の中における『個』の理解」についてです。
(p37より引用) 個というものをちゃんと持った人間が、ある普遍的な流れのなかに入って仕事をすることで、その個性ぐるみ理解されるということだろうと。
芸術が芸術であるゆえに普遍性を持っているのではなく、やはり、そこには特別な個が必要である、ということ。ただ、芸術の普遍性の中では「個まるごと」が理解されるということなのでしょう。
この「個」について、大江氏は、インターネットとの関わりでもコメントしています。
(P67より引用) まず一人立たなきゃなにも始まらない、ということへの認識が弱いということが日本にある。
まず国とか会社とか考えないで、一対一で、この地球の上のあらゆる個と直接交渉ができるような人間になっていかなきゃいけない。僕は、そう思います。インターネットがもし本当に有効だったら、たとえばある個人に障害があって足が動かなくて家から出られなくても、ほかの人間とやすやすと交渉ができるようになるかもしれない。それは僕にとっては、二十一世紀インターネット社会へのいい方向への想像ですね。
個とインターネット社会とのシナジーの発揮です。
最後に、小澤氏、大江氏が共通に志向している「『個』によるディレクション」について、大江氏流のまとめです。
(p46より引用) 自分の中から搾り出すこと、そのように自分の個から出てくるものを、どうやって他の人たちへ方向づけるか。届けるか。それが小説を書く上での僕の原理的な態度です。あなたが音楽を作られる原理と重なっていると思うんですね。それは僕らの生き方の原理でもある。