かけがえのない人間 (上田 紀行)
著者の上田紀行氏は、仏教にも造詣が深い文化人類学者です。
本書の中心に据えている著者の危惧は、人間を「交換可能な『使い捨て』られる存在だ」と見る今の社会風潮にあります。著者が主張するアンチテーゼは、「人間は『かけがえのない存在』だ」という考えです。
2006年、著者はダライ・ラマと面会し5時間にわたり対談をしました。その中で、著者はいくつもの気づきを得ていますが、その中のひとつが「社会的不正に対する怒り」についてです。
社会的不正に対して怒らない、むしろ、みんなが社会的不正を感受している状況に共感?すら覚えている今の日本の(特に若者の)状況に対して、著者は非常な危機感を持っています。
著者が訴える「かけがえのない人間」という覚醒は、次に実際の行動に移らなければ、時間とともに薄れていきます。
逆に、その「かけがえのない人間」だという意識から、自らの行動を律し変えていく、「これからは、こうしよう」とか「もう、こんなことはやめよう」、こんなふうに行動を高めていけば、さらに意識も高まっていきます。プラスのスパイラルが動き始めるのです。
「人の目を気にする」「過度に空気を読む」、そういった姿勢では「自分に価値を認める」ことは到底できません。
どうすれば、人は「かけがえのない人間」だと気づくのか。著者が説くそのためのひとつの方法は「ネガティブな状況」をトリガーにするものです。
ネガティブなものに正面から向かい合うとき、その苦悶と苦闘の経験が、他人にはない自分でしか持ち得ない「かけがえのない」経験となるということです。
そして、その経験は未来へと繋がります。
受動的な人間から能動的な人間へ、「愛される人から愛する人へ」。
自分自身を信頼することから始める、それが著者のメッセージです。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?