(注:本稿は、2024年に初投稿したものの再録です。)
少し前に本書の前作(絶望名言)を読んだのですが、選者の頭木弘樹さんの一味違った視点に感化されました。
前作出版後も「NHKラジオ深夜便」の名物コーナーは継続していて、本書は、その内容を第2作目として採録したものです。
先の投稿と同様、その中から特に印象に残った部分をいくつか書き留めておきます。
まずは、「中島敦ー自分にふさわしくないことが起きるという絶望に」の章から、小説「李陵」の一節を引用した頭木さんの言葉です。
よく「人には、耐えられない試練は与えられない」といわれますが、現実を直視するとやはりそうではないこともあるのです。
2つめは、「ベートーヴェンー最も失いたくないものを失うという絶望に」の章から。
難聴に苦しむベートーヴェンは「ハイリゲンシュタットの遺書」のなかで「希望よ、悲しい気持ちで、おまえに別れを告げよう。」と記しました。
“希望を捨てて絶望へ”、頭木さんはこう語ります。
いつまでも一縷の希望に縋るよりは、ということですが、この心境に至るのもまた大変辛いことでしょう。
やはり “絶望” は避けられるものなら避けたいものですが、もしそういう立場になったら、頭木さんの指摘を思い起こして、気持ちを切り替えてセカンドベストに向かうということですね。
ベートーヴェンについての頭木さんのコメントをもうひとつ。
“そうなっていないが故の発露” の実例とそこに感じる現実感です。
これもまた滋味のある解説ですね。
そして、3つめ。「川端康成ー矛盾を抱えて生きるしかないという絶望に」の章から。
自殺を否定しながら自らその道を辿った川端康成の魅力を頭木さんは “人間らしい一貫性のなさ” にあると話します。
ここでいう “一貫性の有無” ですが、私のように “個としての精神性” を真剣に顧みたことのない人間が示す姿とは全く別物なのでしょうね。
「人を見つめ、自分もすごく見つめていた人だからこそ」というくだりの重さを痛感します。
さて、本書、前作に劣らず、とても考えさせられる刺激的な内容の著作でしたが、こういう視点からの頭木さんの本をもう一冊見つけました。またいつか読んでみたいと思います。