検証 政治改革 なぜ劣化を招いたのか (川上 高志)
(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)
いつもの図書館の新着本リストの中で見つけた本です。
興味を惹いたタイトルではありましたが、何より、著者の川上高志くんが大学時代の友人だったというのが手に取った最大の要因です。
大いに期待して読んでみたのですが、予想どおり重要な論点を押さえつつ、しっかりした立論が展開されていました。
まず、著者は、本書で検証を試みた対象である「平成の政治改革」のエッセンスをこう概括しています。
こうやって “文字” で示されると、目指すべき方向性という点ではこういうやり方もありうるだろうと思いますが、しかしながら、この政治体制は、現実的には「強すぎる首相官邸」と「責任を取らない政権トップ」という “悪しき官邸独裁” を産み出してしまいました。
こういった「強すぎる首相官邸」に代表される行政の機能不全という状況を監視し必要な歯止めをかける機能としては、国会の国政調査権がありますが、内閣を構成する与党がその権限を発動することは期待できません。
そこで「メディア」の存在がスポットライトを浴びるわけですが、ここにも「大いなる劣化」が見られます。
政治家や官僚が自らの「利己的な動機」で権力に迎合する性向は、“人間の弱さ” の発露として全く理解できないとは言いませんが、“メディア人” が批判精神を失うのは、まさに自らのレーゾンデートルを否定するものでしょう。せめて、ここは気概をもって踏ん張って欲しいものです。
さて、“悪しき官邸独裁” は「責任を取らない政権トップ」の存在を黙認しました。
そもそも、平成の政治改革において想定していた「責任の取り方」は「政権交代」でした。それを可能とする前提条件は「政権交代の受け皿としての野党の存在」ですが、その点について、著者は「現行選挙制度の問題」という観点からこう語っています。
こういった説明は、事実に即して無駄がなくとても分かりやすいですね。
本書では、この現行選挙制度をはじめとして、国会、政党、政官関係等多岐にわたる観点から現状の政治の課題を次々に明らかにしていきます。
いくつもの改善すべき問題があって、その対応策がある程度具体的に見えている。にもかかわらず、その問題は長年にわたり放置され実際の改善アクションがとられない・・・。
その根本原因はとても単純だと思います。“今の環境で快適な立場にいる人は敢えてその環境を変えようとはしない” という当然の姿勢の故です。
それを打破するための強力な方策は、(本書でも指摘していますが、)国民一人ひとりはもちろん、政治に係るありとあらゆるステークホルダーが “本来の理想” を実現しようとする強い意志を持つこと、そして、そのための広汎な「主権者教育」なのですが、その教育内容を決めるのも今の環境に安穏としている人間ですから、なんとも道は遠いです・・・。
ただ、そういう状況だからこそ、本書で整理され論じられている著者からのメッセージを、少しでも多くの人が受け取ってくれるよう期待したいですね。
“自らの頭” で今の政治状況について考えてみようとする読者にとっては、本書が示した論点の整理と議論のスタートとしての改善案の提示は、とても有用な「ガイド」になると思います。
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