お金の流れが変わった! (大前 研一)
(注:本記事は2010年に初投稿したものの再録です)
ホームレス・マネー
R+(レビュープラス)から献本としてお送りいただいたので早速読んでみました。大前研一氏の最新刊です。
大前氏の著作は、いまから30年ほど前の「企業参謀」以来そこそこ読んでいます。大の大前ファンというわけではありませんが、大前氏が示す俯瞰的な視点は大いに刺激的ですし、適否はともかく少なからず参考になりますね。
さて、本書で取り上げられているのは「ホームレス・マネー」。
ホームレス・マネーは「過剰流動性」の一形態といえますが、この現出の原因について大前氏は「世界的に高齢化とモノあまりが進み、需要が低調でお金がモノに転換されなくなった」ためだと捉えています。
現在約4,000兆円にのぼると考えられているホームレス・マネーですが、その出所は大きく3つあります。
これらのホームレス・マネーは、わずかな人数のファンドマネジャーによる機械的な運用(マネー・ゲーム)により動かされています。そこには、サヤ抜きによる利益獲得という目的しかありません。
とはいえ、こういう投機的なファンドばかりではないようです。先進国の年金ファンドに代表される比較的長期志向の過剰流動性は、運用先として新興国インデックスファンドに注目しています。
こういった視点からの投資は、長期的な国際経済の発展や安定に寄与するという意味で、非常に重要かつ有意義なものだと思います。
さて、本書での大前氏の指摘は、まさにタイトルのとおりです。
「21世紀の金の流れ」は、自然発生的なものではありません。主たる要因は、いわゆる先進国における財政・金融政策の誤りから生じたものだというのが、大前氏の主張です。
さらに、大前氏は本書の後半で、この巨額な過剰流動性を活用した自国の税収に頼らない経済発展策を提示しています。
逆転の発想
大前氏が注目している「ホームレス・マネー」のうねりは、旧来のケインズ的な財政政策や旧来の金融政策を無力なものとしています。マクロ政策によって経済を建て直そうとする考えはもはや通用しないとの指摘です。
こういう指摘に代表されるような、新たな視点の提示は、大前氏の真骨頂ですね。
ここ数年の著作では、少々飛びすぎているのではとか、自身のビジネスへのPR色が強すぎるのではと感じられる主張も多かったのですが、本書での指摘は、それらに比較するとかなりモデレートなものだと思います。
たとえば、「新興国での成功モデル」については、日本の得意技であった「昔の芸」で戦えると説いています。
ただし、ここで言う公共事業は「従来の単純ハコモノ」ではありません。最近のJR東日本が推し進めているのような「駅+駅ビルショッピングセンタ+Suica(eコマース)」という新たなビジネスモデルをイメージしています。
そのほかの攻略ポイントをして掲げているのも、「法人需要」と「コンシューマ需要」というノーマルな切り口。細分化したものも「富裕層需要」「中間所得層需要」「貧困層需要」といった層別の攻略法であり、目新しさという点では大前氏らしくはありません。
私として、「視座に転換」という点で改めて刺激になったのは「税制改革」についての大前氏の指摘のくだりでした。
「法人税率の引き下げは今さら意味はない。すでにグローバルビジネスを展開している企業の実効税率は30%を切っている」とうあたりは、すでに常識化しているところではありますが、所得税・資産税・相続税・贈与税あたりについての提言は、興味深いものがありました。
プーチン前大統領によるフラットタックスの導入によりロシアの地下経済が一挙に表出したという実例は、確かに面白いものです。
また、
という指摘も「なるほど」という視点です。さらには、大前氏のこう続けます。
私たちが資産を貯めこもうと考える大きな理由は、将来に対する不安感です。景気浮揚の有効策のひとつが「消費の活性化」だとすると、この不安感を払拭するための具体的方法を見つけ出すのが最重要ポイントとなりますね。
この点について大前氏は、
と語っています。
この税金に代わる財源が4000兆円の「ホームレス・マネー」であり、1400兆円の個人金融資産なのです。