ブータンに魅せられて (今枝 由郎)
ブータンは、第四代国王ジクメ・センゲ・ワンチュックが提唱した「GNH(Gross National Happiness):国民総幸福」という理念を掲げている国として注目されています。が、日本にとっては未知の部分が多く、まだまだ「近く親しい国」とはいえません。
本書の著者の今枝由郎氏は、10年にわたり国立図書館顧問としてブータンに赴任した経験をお持ちの東洋仏教史の専門家です。
その今枝氏が語るブータンの姿は、欧米を中心とした国際的な金融資本主義経済諸国とは際立った差異を示しています。
この差異は、仏教の研究者である著者にしても強く感じられるものでした。
こういった差異は、仏教関係者に限らず一般人の場合にも見受けられます。多くの日本人は、寺院や仏像を信仰の対象としてのみならず、「観光」「鑑賞」の対象としても捉えています。
著者を含む日本人にとって「客体」である仏教が、ブータンの人々にとっては、まさに主体と一体化した自己を取り巻く環境(生態圏)そのものなのです。
本書で紹介されているブータンの日常は、現代の日本の空気と比較するといろいろと考えさせられるものがあります。
その特徴的なものとして「時間」について。
こういったブータンの生活、特に精神文化のありようは、現在の資本主義諸国を対極において、それと比較し「良し悪し」の評価が下せるものではありません。そもそも拠って立つ地盤そのものが全く別物なのです。
さて、最後に、注目を集めている「GNH(Gross National Happiness):国民総幸福」という理念について、第四代国王が語った内容を、少し長い引用になりますが、ご紹介しておきます。
著者は、この言葉を受け、ブータンをして「それが人間が幸福であることとなんの関係があるのか」を問う「仏教ヒューマニズムの国」であると結んでいます。
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