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老後破産: ―長寿という悪夢― (NHKスペシャル取材班)

(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)

 久しぶりに最寄り駅のショッピングモールに入っている書店をのぞいていて、タイトルが目に飛び込んできた本です。

 ここ数年、ほとんどテレビは観なくなりました。ともかく内容の酷さに閉口です。NHKもご他聞に洩れず、バラエティはもちろんニュース番組も劣化が酷いですね。何とかある程度のレベルで踏み止まっているのは数少なくなった「ドキュメンタリー番組」ぐらいでしょう。

 日本の超高齢化社会は避けようもなく、かく言う私も、もうすぐリタイヤという歳になってきました。“老後破産” というワードは決して他人事ではありません。
 ある程度予想はしていましたが、本書で取り上げられた「高齢化社会」の実態はそれを遥かに凌駕するインパクトでした。
 その中からいくつか書き留めておきましょう。

 まずは、「第一章 都市部で急増する独居高齢者の「老後破産」」で紹介された田代孝さん(83歳)のことばから。

(p61より引用) 貧乏の何が辛いってね、それは周りの友だちがみんないなくなっちゃうことなんですよ。どこかに行こう、何かしようといってもお金がかかるでしょ。それがないために、断らなければいけない。そのうちに、誘われないようにしようとする。それが辛いんですよ

 「誘われないようになる」のではなく、自ら「誘われないようにする」というのです。
 結果、「友人」はもとより「社会」とのつながりを失ってしまう。そうなると「生きていること」の意味を問い始め、“生きる気力” までも失い始めるのです。

 もうひとつ、立っているのもやっとの体でひとり暮らしをしている菊池幸子さん(仮名)の取材を通しての記者の思いです。

(p130より引用) 菊池さんに必要なのは、介護サービスの充実だが、その介護費用の負担が生活を追いつめている。しかし、十分に介護を受けるための制度は「生活保護制度」しかないのだ。「老後破産」を未然にくい止めるための制度―たとえば医療や介護の費用の減額や免除など―そういった事前の策をもっと拡充させなければ、「老後破産」の末に生活保護を受ける高齢者が増加し続けることは避けられないと見られている。社会保障費の抑制を前提にしても、「老後破産」に陥らせない制度の構築が待たれるのではないだろうか。

 持ち家や貯蓄がある限り生活保護を受けることができない制度(注:生活保護制度適用にあたっては、例外事項を含む細かな条件が規定されています)。それらを全て手放して「老後破産」にまで至らせないと機能しない今の社会保障の仕組みですが、その手前で救いの手を差し伸べる方がトータルで捉えると「社会的コスト」を抑制することができるはずです。

 家族が支えとなることを前提とした社会保障制度は、家族の形態が大きく変化した今日、機能不全に陥っています。
 この実態と制度のアンマッチが「老後破産」の最も大きな要因です。以前の家族形態に戻ることはない以上、社会保障制度を今の生活実態に合わせる形に再構築し直さなくてはなりません。

 とはいえ今の財源の中でという条件づきなので、日本社会が抱える様々な課題間の優先順位づけという政治判断が必須になります。
 課題解決への道は険しいのですが、超高齢化社会の到来とそれに伴う貧困独居老人の増加は不可避です。待ってはくれません。

 以前に、似たような問題意識に立つ「無縁社会(NHK「無縁社会プロジェクト」取材班)」を読んだことがあります。
 “深刻な社会の課題を掘り起こし、人々の問題意識を励起させ、解決への糸口を見出す”、こういった社会的機能は、劣化しつつあるメディアの最後に残った存在意義です。



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