阿川弘之氏の著作は初めてかと思っていたのですが、小さいころ読んだ記憶にある「きかんしゃやえもん」の作者とのことなので、50年以上の年月を隔てた再会となります。
まず、本書の冒頭で阿川氏は、日本人の国民性を言い表すことばとして「軽躁」という単語を挙げています。
「軽躁」とは、「落ち着きがなく、軽々しく騒ぐこと。考えが足りないこと。また、そのさま」といった意味です。
本書で、日本と対称的な位置で語られているのが、大人の国「英国」です。
特に、日本人に欠落しているのが「ユーモア」。他方、ユーモアは「英国紳士」の重要な要件です。
もうひとつ、英国の「大人」の台詞の例として、1920年代、アメリカの教育使節団がオックスフォードを視察に来た席でのオックスフォード大学の総長の挨拶のことばです。
さて、話は変わって、第二次大戦開戦期の日本の世情について。
開戦直後、日本は緒戦の勝利に沸き立ちました。当時の日本指導者層は、開戦すべきか否かの冷静な状況判断を行なったのではなく、「ともかく判断する」ことによる「思考の停止・迷いからの逃避」を選んだのです。
「大人の判断」を可能とする教育、「叡智」を身につけさせる「大人を作るための教育」です。
しかし、このような「叡智」は、古くから東洋においても重んじられていました。「温故知新」。有名な論語の教えです。
本書は、阿川氏86歳のエッセイですが、ご本人も「序に代えて」で、「老文士の個人的懐古談」だと称されています。
今のご時世、老成された一言居士のお考えを聞く機会もめっきり少なくなりました。阿川さんのお話、もちろんすべて首肯できるものばかりではありませんが、なかなか興味深いお話が数多くありました。