ルポ 貧困大国アメリカ (堤 未果)
同じようなテーマの本としては、先に小林由美氏の「超・格差社会アメリカの真実」という著作を読んでいます。
その本と比べると、本書はよりジャーナリスティックです。著者は、数々の取材を通して、今日のアメリカの「貧困」の実態を明らかにしていきます。そして、その悲惨な状況は、極端な市場原理主義が引き起こした悪弊だと断じています。
アメリカでは、「貧困」がビジネスの種にすらなっているのです。
このビジネスの世界では、
こういった「貧困ビジネス」の多くは、政府の社会インフラ構築や社会福祉政策の一環として営まれていた事業の「過度の民営化」の結果生まれたものでした。
ハリケーン・カトリーナの被害は、民間委託への行き過ぎたシフトが一因だと考える元FEMA(連邦緊急事態管理庁)職員の言葉です。
こういった叫びがあがっている対岸では、こういう主張も声高に語られています。ハリケーン・カトリーナによる南部都市の潰滅をどう位置づけるのか、米国保守層の典型的思考が現われたコメントです。
過度の市場原理主義がもたらす貧困は、そのほか人々の身近なところで顔を出しています。
例えば、「自由競争が生み出した経済難民」。
メキシコからの移民の子であるマリアの言葉です。まだ高校生のマリアにこう語らせる現実は、やはり歪んでいるとしか言えないでしょう。
その他、すべての人々の生活に密着した「医療」の世界でも非常に深刻な問題になっています。
にもかかわらず、その警鐘はそれを聞くべき人の耳には入りませんでした。一度病気になっただけで、高額の医療費負担に耐え切れず「貧困」」に落ち込んでいく多くの人々がいるのです。
本書でレポートされたアメリカの実態は、日本にとっても「対岸の火事」ではなく「他山の石」とすべき警告です。
「豊かな中流層の崩壊」から「極く少数の富裕層と大多数の貧困層」という「極端な二極化」へ、この市場原理主義がもたらした現実をどう意味づけるか。同じ道を日本が歩んでいるとの肌感覚は、今や多くの人々が抱いているものだと思います。
冒頭の「貧困ビジネス」が、アメリカでは「戦争ビジネス」と結びついているという現実は、非常に重いものがあります。
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