マッチングアプリとわたし ep3相席いいですか?
たまにはtinder以外も、と思ってタップルをしてた時期がある。そこで知り合った男の子の話。
だいたいティン男たちには変なあだ名を付けるんだけど、その子のことは今も名前で呼んでいる。
なんだかいい思い出だから。
仕事が暇な日に秒で返信が来る学生の男の子とやりとりをしていた。タップルで即レスでタメ口なんて、ロクでもないやつだ、と思いながら適当にやりとりをしていたんだけど、ちょっと面白くて会うことに。
わたしも相手のことを舐め切っていたので、お互いにふざけて、面白い待ち合わせをしようということになった。
レストランを決めて、早く着いたほうが先に席に着いておく。そこに後から着いたほうが、相席いいですか?と言って席に着いて、そこで出会う、という待ち合わせ。偶然出会った風に。
わたしの方が後についたので、わたしが相席いいですか?の役だった。
一応写真は見ていたけど、お店に行ってみると思ってたよりもいいとこの子って感じの青年がいて、相席いいですか?って聞くと、嬉しそうに顔をあげてくれた、それが出会い。
ふたつ歳上のわたしのことをよく慕ってくれて、転職したばかりのわたしにお祝いをくれたり、美味しいランチに連れて行ってくれたり、引っ越しをしたときにはわたしの手料理を食べに、ワインを持って遊びに来てくれた。
彼はいつもわたしの好きなものに興味を持ってくれて、お勧めした本は読んでくれたし、理解しようと質問したりもしてくれたりした。
わたしのことはいつも物知りだって褒めてくれた。あたりめえよ、とか若干思いながらも、嬉しかったし、彼のことすごく可愛かった。
チャランポランだと思ってやり取りをしていたのに、本当に手を出してこない紳士だった。
あ、でも一回だけわたしからチューした。そしたらもう一回し返してくれた。ほんとにそれだけ。
いつも綺麗にラルフローレンを着ててお坊ちゃんって感じで、マッチングアプリで適当にタメ口聞いてくるような子には全く見えなかった。こんな子もいるもんだな〜っていつも不思議に思ってたけど。なんでアプリしてたんだろ。
ある日電話してて一瞬きしょって思っちゃって、そこからそっけなくしたら疎遠になってしまった。今思ったらめっちゃ良かったのに、何してたんだわたしは???
結局わたしが捕まえたのといえば色黒の前髪あげたちょっとテカってるやつらばかり、、、でも優しい子たちそれが好きだったんだ、、愚か、、、
で、数年経った夏、ある日突然インスタのDMが来て、一緒に映画を観に行くことになった。
わたしの好きな王家衛の4Kレストアの上映。
わたしの好きなことに今も興味を持ってくれるんだって、素直に嬉しかった。
映画を観たあと、ご飯を食べに行って少し話して帰った。ただの久しぶりだね、じゃなくて、久しぶりに来てくれてありがとうご馳走させてって言ってくれたのがめっちゃよかった。言葉が優しい、彼は。ちゃんと気持ちがこもってる。
観た作品は天使の涙。
エンディングの曲を聴きながら夜道を1人でのんびり帰ったのが、なんかすごく幸せで、忘れられない。
人気のない、車の通らない車道、川のそばの空はひらけていて、街灯で照らされたオレンジと黒の景色と、夏の夜の生ぬるい空気、懐かしさと、ちょっと切なさと、嬉しい気持ちと、自由で身軽な自分、全部がなんだか幸せだった。
彼とはもう会うことはないけど、あの夜、
「今このあたたかさは永遠だった」