ご飯の味がしない。 菓子パンを一口、口に入れた瞬間にそう感じた。いつも香る香ばしいパンの匂いすらしなくて、これが味覚障害というやつなのかと思った。 味のしないパンを口から離して、ベンチの背もたれに重心を預ける。深いため息をつくと、パンをビニール袋にしまった。味がしないと、どうも食欲がわかなかった。 感覚が麻痺しているのか、それとも気持ち的な問題なのか。 秋の風が落ち葉を浮かせる。日差しは暖かいのに、吹くたびに心に刺さるように冷たくて痛かった。 幼少期から食べることが好きで
旅は風にのせてやってくる。 移動の車内で窓を開けた時の気温。現地名物の蓋を開けた時の朗らかに薫る匂い。誰もいない早朝の露天風呂に出る扉を開けた時の湯気。 どれもが風に乗って、旅を運んでくる。 家に着いたとき、現地で体験した経験が体に浸透している。記憶として、すぐに取って思い出せるような、身近なところにある風が旅を感じさせてくれているのだと思う。 そんな旅で私が欠かさずしていることがある。 一つ目は、現地の水族館に必ず一つは行くこと。 私は、地元の水族館の年パスを買って
今日は1日胃が大きくなったような感じだった。 お昼ご飯がいつものお弁当で足りなく感じるような感覚があった。 それも、そのはず。昨日私はホテルのランチビュッフェに行ったのだ。 ホテルのビュッフェは好きな食べ放題ランキング第1位に入る。 現実からそこまでかけ離れている訳では無いのに、色々なスイーツや和洋折衷の料理が楽しめるのだ。朝から夜までどの時間帯のビュッフェも好きだ。朝から普段よりも沢山食べれるような、大きなトレーをもって仕切りの着いたお皿を宝物で埋めていくような感じがあ
今日は久しぶりに高校時代の友人とご飯を食べてきた。 私が忙しく、時間が取れていなかったため、友人たちに会うのは去年の冬にあった以来だった。 そんな中会話も弾み、向かったのは牛タンしゃぶしゃぶのお店だった。 牛タンしゃぶしゃぶ?と思う人もいるかもしれない。実際私もそうだ。 地元名物の牛タンは、厚切りで噛みきれないような見た目ながらも、口に入れた瞬間柔らかですぐなくなってしまうのが特徴だ。 そんな厚切りが特徴の牛タンをしゃぶしゃぶにしてしまうなんて。 臭みや味は果たしてどうな
駅の自販機は給水所のようだ。 私たちは毎日仕事に向かう。暗い息の詰まるようなエスカレーターを降り、近深くに潜って電車に揺られるのだ。 その様はまるで深海に潜る行為と似ている。 エスカレーターを下る時、私は深く深呼吸をする。しっかりと息ができるように。どうか1日生きて帰ってこれますようにと。だんだんと水が足から浸かり、全身を覆う。 改札を通る時、私たちは一つのイワシの群れのような感覚である。仕事に行くという行為に誰も疑問を持たず、スーツーケースを持った人なんかがいたりイヤフォ
今日はスイーツパラダイスに行った。 スイーツパラダイス、略してスイパラはケーキから始まり、カレー、うどんにパスタ、ソフトクリーム、コースによってはハーゲンダッツも食べれてしまうという優れものである。今日はスペシャルコースにしたので、ハーゲンダッツとサラダ、ポテトが通常メニューについてきた。 スイパラといえば何年か前に日本に広まり、一躍人気となった店だが、近年はコラボカフェなどで人気が高い。 食べ放題は80分制で腕にシールをつけたところから始まる。 ケーキは安定のラインナップ
歳を取ると嫌なことが増える。 パスタが食べたくなると通っていた、好きなパスタ屋さんの量が減った。 スキレットに乗せられ、熱々に焼かれたパスタは沢山のソースとチーズが振ってあり、食べるとお腹が苦しくなるほどのものだった。 程よいお腹の苦しさと、美味しいものを食べた満足感でウィンドウショッピングを楽しむのが好きだったのだ。 だけれど、今日はお腹八分目くらいのいや7分目くらいのものだった。 提供された時に見えるスキレットの側面が、普段より多く見えた。 美味しいものは美味しい。どう
私が食べる事が好きと自覚したのは、齢20を超えた辺りである。 好きと自覚するのは難しいもので、それまでは食べることが当たり前だと感じていた。 一日三食食べなければ、と義務教育課程で刷り込まれたのもあるかもしれない。 友人とカフェに行っても、ちょっとしたスイーツと口の中の水分を満たすだけで無くなってしまう飲み物で2千円超えるのかと小馬鹿にしていたくらいである。 付き合いでカフェに行くが、まだ学生のバイト代では食に主を置くというのは、考えられなかったのだ。 20を超えた辺り