半分空のキャリーケース
旅は風にのせてやってくる。
移動の車内で窓を開けた時の気温。現地名物の蓋を開けた時の朗らかに薫る匂い。誰もいない早朝の露天風呂に出る扉を開けた時の湯気。
どれもが風に乗って、旅を運んでくる。
家に着いたとき、現地で体験した経験が体に浸透している。記憶として、すぐに取って思い出せるような、身近なところにある風が旅を感じさせてくれているのだと思う。
そんな旅で私が欠かさずしていることがある。
一つ目は、現地の水族館に必ず一つは行くこと。
私は、地元の水族館の年パスを買ってよく通うくらいは好きだ。
地元から三時間、バスを乗り継いで、日本海の端っこ。山奥にある加茂水族館までクラゲを見にいったこともある。1日に都内の水族館を梯子して帰る事もある。
普通の女子だと、インスタ映えするおしゃれカフェや綺麗なお花畑を優先するのかもしれない。水族館もインスタ映えのひとつかもしれないが、最優先で行こうなんて人は少ないのではないだろうか。
だけれど、私は必ず水族館に行くことにしている。
例として、北海道札幌にあるAOAO SAPPORO をあげてみる。
北海道という広大な土地の中心札幌にある水族館は、都市型水族館としてビルの中に存在している。エレベーターを登ると、コンクリートが感じられる店内に、研究所のような内装が見えてくる。
縦にフロアが分かれており、広々とした作りではなく、展示の工夫で見せている水族館である。
都市型ではあるものの、ペンギンが多かったり、北海道の夜パフェ文化があったり。展示スペースの大きさよりも、鑑賞スペースに椅子があったり、スペースが多く取られていたりと、北海道の広大さやゆとりのある性格をところどころで感じられる。思い思いの時間を過ごすことができる水族館だ。
そして、お土産コーナーではその土地ならではのものが水族館で売っていることが多いのだ。
昔は水族館や動物園なんかはプリントクッキーがあるというイメージが大きかったかもしれないが、今の水族館のお土産は進化している。
AOAO SAPPOROでは、スープカレーが有名な北海道ならでは、海の幸カレーが豊富であった。また、これは謎であったが、熊のグッズも販売されていた。
地元の水族館では、藻塩を使ったカステラが販売されている。
プリントクッキーも販売さえているが、現在はその土地の名産や有名なもの、変わったものも取り揃えられている。
水族館がその土地を感じられる大きな場所の一つなのではないかと考える時がある。
その水族館によって、飼育員さんの愛情の違いや展示の違いがはっきりと現れていて面白いのだ。
二つ目に欠かさずしていることは、
キャリーケースの半分を空にして旅に出ることである。
旅は帰ってきて、荷解きが終わり、お土産を食べるその瞬間まで旅だと思っている。
購入するとき、相手の顔を思い浮かべたり。自分用に気になったものを買ったり。そこでしか買えないものもたくさんある。
それを帰ってきてから食べたり、見たりしていると、旅の終わりを感じて悲しくもなるが、いろんな思い出が胸の中でじんわりと温かく灯る。
そんな瞬間が愛おしく感じられる。
旅に出る前は半分が空だったキャリーケースも帰る頃にはいっぱいになっている。
その重みも、旅の楽しかった思い出が宝箱に仕舞われているようだ。
また旅に行くときは、キャリーケースを半分空にして、水族館に向かいたい。
キャリーケースを引く足取りが、風に押されて早くなる。
私たちの旅は今も続いている。