10月14日の日記
駅の自販機は給水所のようだ。
私たちは毎日仕事に向かう。暗い息の詰まるようなエスカレーターを降り、近深くに潜って電車に揺られるのだ。
その様はまるで深海に潜る行為と似ている。
エスカレーターを下る時、私は深く深呼吸をする。しっかりと息ができるように。どうか1日生きて帰ってこれますようにと。だんだんと水が足から浸かり、全身を覆う。
改札を通る時、私たちは一つのイワシの群れのような感覚である。仕事に行くという行為に誰も疑問を持たず、スーツーケースを持った人なんかがいたりイヤフォンから音漏れしている人なんかがいると、白い目で見るのだ。
「みんな赤いのに、一匹だけ真っ黒。」
小学校の教科書で習ったスイミーの言葉を思い出させる。
私たちは魚なのだと思い、満員電車に揺られる。長い長い海の旅である。
仕事をしている時も深海の中だ。暗い狭い空間で、社会は広いはずなのに私はうまく呼吸ができているだろうか。魚のようにうまく、擬態して泳げているだろうか。
帰りの電車を降り、陸に上がる。だんだんと上昇するエスカレーターが、冷たい空気に当てられ口の中に酸素が戻ってくる。
そんな駅にある自販機はまるで給水所のようだなと思う時がある。
深海で唯一酸素が吸える場所。フルマラソンを走った時にある、途中の給水所のような、少しだけ息ができる場所だと思う。
体調が悪い時や出勤前にそこで飲み物を買い、呼吸ができるように私たちは給水をする。飲み物を飲みながら、少し顔をあげ、水分と同時に息を吸い込む。まだ大丈夫だと。
でも帰る時に利用することはほとんどないのだ。
明日も私は深海に潜るのだ。いつか陸で暮らせる日を信じて。イワシの群れに混ざっていく。