ロイヤルホストのパンケーキ
私が食べる事が好きと自覚したのは、齢20を超えた辺りである。
好きと自覚するのは難しいもので、それまでは食べることが当たり前だと感じていた。
一日三食食べなければ、と義務教育課程で刷り込まれたのもあるかもしれない。
友人とカフェに行っても、ちょっとしたスイーツと口の中の水分を満たすだけで無くなってしまう飲み物で2千円超えるのかと小馬鹿にしていたくらいである。
付き合いでカフェに行くが、まだ学生のバイト代では食に主を置くというのは、考えられなかったのだ。
20を超えた辺りで、社会に出て金銭的にも余裕が出始め、ふとご飯をメインに出かける日が増えてきた。
インスタグラムでお店の紹介アカウントを見ては、ブックマークをして。今日は何を食べようとか、予約をして食べに行こうという日が増えていった。
社会に出てたくさんの人と関わる機会も増えるたび、食に関心がない人がいることも知った。食べれてお腹を満たせたらなんでもいい、美味しさを求めない人もいた。
そんな日々が重なる度に自分は食べる事が好きなのだと自覚したのである。
食べる事が好きと自覚し始めたあたりから、飼い始めた愛猫もいつしか食べる事が好きですくすくと育っていった。
今日は、そんな食べる事が好きな私がロイヤルホストでパンケーキを食べた話をしたい。初投稿がロイヤルホストなんて、と思う人もいるかもしれないが、ロイヤルホストは無理に背伸びをしなくても気軽に行ける(ファミリー)レストランなのだ。私の中では一番好きなファミレスと言っても過言ではない。当たり前に他も大好きなのだけれど、ロイヤルホストに初めていった日のことを今でも忘れられないくらい大好きだ。
そんなロイヤルホストのパンケーキを食べに行こうと思ったのは、現Xでパンケーキが話題になった時のことである。
パンケーキ論争として話題になった事が懐かしい。
ロイヤルホストは何度も行っていたのに、パンケーキを食べたことは一度もなかった。いつもロイヤルホストに行くと、子供心がくすぐられる沢山のメニュー。周りのお客さんがステーキやハンバーグを食べている香ばしい匂いと見た目に惹かれ、お肉を頼んでしまう。そして、テーブルの上に置かれた期間限定のパフェのポップに目が離せなくなり、お店を出てお腹をさする時までパンケーキの存在を忘れてしまうのだ。
毎回食べ終わった後に、今回も食べれなかったと、後悔より幸福感で一杯になり次回食べようと先延ばしにしてしまう。
そんな日々が続き、パンケーキを食べずに一年以上が経過してしまった。1年間の中でパフェが変わるたびに訪れていたのに、、、。メロンの丸ごとボウルになったパフェは最高の贅沢なので食べてみてほしい。メロンだけでも美味しいのだけれど、アイスとホイップを一緒に食べると、程よい甘さが広がり、仕事をサボって帰宅し早めにお風呂に入ってご飯を食べ終えた後の背徳感のようなものがある。
そうやって私が他のメニューに寄り道をしている間に一年もの時間が経過してしまった。
このままではダメだと、ホームページを見ているとよく行く店舗が休業になるというお知らせが更新されていた。
いい機会だと思った。ここを逃したら一生パンケーキを食べないような気がした。
そしてとうとう先日、一念発起し、パンケーキを食べに行った。
お店に着くと、店員さんが席まで案内をしてくれる。三連休の中日、日曜日なのにあまり混んでいない店内に、落ち着いた雰囲気と安心感を覚えながら席に座る。一人一冊ずつのメニューを眺め、今日はパンケーキだと心の中で自分に言い聞かせた。店内に広がるステーキのいい香りが空腹の心を刺激する。早く呼び出しボタンを押さないと、心変わりをしてしまう。他のメニューに目を通す前に店員さんを呼ばなければ。そうして呼び出しボタンを押し、店員さんがきた頃にメニューは、チキンのグリルを見ていた。
結局チキンのグリルと、オニオングラタンスープ、ライスにパンケーキを注文した。少し頼みすぎたなと、胃をさすった。カバンの中に胃薬があるかを確認しておいた。
最初にオニオングラタンスープが届いた。熱々の容器に入ったスープは、店員さんが蓋を開けてくれる。ファミリーレストランなのに、店員さんが蓋を開けてくれることで少し特別感が出るのが不思議だ。きっと今猫配膳ロボットが活躍している背景があるからかもしれない。
次にチキンのグリルとライスが届いた。熱されたばかりで、油が嬉しそうに跳ねていた。白い服ならすぐに汚れがついてしまうだろう油も、しっかりとしたロイヤルホスト紙ナプキンで防ぐ事ができる。
そして、とうとうパンケーキが届いた。まんまるで太陽の光を受けて輝いていた。それは、子供の頃に休日のお昼にお母さんが焼いてくれるような特別なパンケーキの姿だった。
パンケーキとホットケーキの違いは呼び方の違いであり、ホットケーキと呼ぶのは日本だけらしい。パンケーキブームが何年か前に流行った日本では、ロイヤルホストのパンケーキはホットケーキのように見える人もいるかもしれない。そんなロイヤルホストのパンケーキは、生地が薄く、さっくりとしたものが特徴である。
熱々のうちに、3枚重なったパンケーキをお皿全体に全て広げ、上に載っているホイップバターを3枚に塗っていく。そして最初はメープルシロップをかけずに一口切って、口に運んだ。
さっくりとしたと書いたが、パンケーキはふわっとしていた。口の中の水分がなくなることもなく、ほんのりとした甘さとバターの香りが口の中に広がる。美味しさで気がついたら、一口目が無くなっていた。
二口目からは、ついているメープルシロップを全てにかけ食べた。薄い生地のためメープルシロップが染み込みやすく、すぐにひたひたになった。口に運ぶとメープルと生地の相性が抜群で、噛むたびにメープルがジュワッと溢れてくる。メープルがある中に隠れていたバターがほんのり香り、何枚か重ねて食べてると噛みごたえが加わった。
オニオングラタンスープと交互に食べると、オニオンでメープルの甘みが抑えられ無限に食べれる組み合わせだった。
あんなに沢山頼んでいたのに、すぐにテーブルの上は空いた皿だけが広がっていた。
パンケーキ3枚が一瞬だった。
こんなにロイヤルホストのパンケーキは美味しいなんて。今まで食べてこなかったなんてと、後悔をした。パンケーキの常識が変わった瞬間だった。
まだまだ世の中、美味しい物に溢れているんだと常日頃思う。どうかロイヤルホストがなくなりませんようにと、祈りながら重い扉を押して外に出た。
月がパンケーキに見えてきて、お腹いっぱいのはずなのに、また来た道を引き返したかった。