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別れの思い出

以前
別のnoteでも
書いたが……

僕にはかつて、

凶悪殺人事件に
巻き込まれ、

亡くなった仲間がいた。

……今回は、

彼が
亡くなった後のことに
ついて語ろうと思う。

その子の死が
分かった後、

リビングで
僕は泣いた。

そのあとに
トイレに行って、

現実を
受け止めきれないと
思った。

そのトイレの風景を、
今でも覚えている。

……その後のことは、
あまり覚えていない。

ただ、
その子の葬式に
来ていく服がなく、

それを直前に
親に伝えて

慌てて
買いに行った……

というのは
鮮明に覚えている。

……彼は 
僕の知り合いや
友人の中で、

もっとも早く
亡くなった子だった。

だから、
僕は喪服など
持っていなかったのだ。

……当時、
事件についての
報道もされていたが、

僕はそれを見る気には
なれなかった。

ただただ、
そっとしておいてほしい、
と思った。

……それから
しばらくしたあと、

行ったこともない
ところへの
葬儀へ向かった。

慣れない電車を
乗り継ぎ、

集合場所の駅に
ひとりで向かった。

たしか、
寒い日のことだった。

分厚く重いコートを
着ていたことを、
覚えている。

集合場所の駅に着き、
仲間たちと合流した。

そのあと、
みんなで歩いて
バス停に行き、

バスに乗り、
葬儀場へ向かった。

仲間たちと
どういう話をしたのかすら、
覚えていない。

ただ、
行きか帰りの
バスの中から
見えた駅の風景が、

どこか見覚えのある
物だったのが、

夢で見たことの
あるような
デジャヴを起こしたのが、

胸糞悪かった。

こんなことで、

デジャヴが
おこってほしくは
なかった。

葬儀場へ着き、
席に座り、
お経が始まった。

そして、
焼香を終え、

棺の中の彼と
対面した。

「誰だよ」

それが、
彼を見た、
僕の最初の感想だった。

彼は目を閉じていて、
穏やかな顔をしていたが……

変に
顔にシワがあって、

それをむりやり
伸ばしたような……

なんだか、
急に老けた人のように
見えた。

僕の記憶にあった
仲間のようで、

その面影はあるようで、

違う人を
見ているようだった。

……殺される時、
彼はひどいことをされたと、
あとで調べて分かった。

……きっと、
さぞ、苦しかったろう。

それが、
もう誰ともわからぬ顔として
現れていたのだろう。

悔しいし、
とにかく悲しい。

犯人は絶対に許せない。

……その犯人が
死刑判決を
受けているのが、

唯一の救いだと思った。

……もう、
僕の仲間は、友人は、

苦しくも楽しい時を
共にしてきた
優しい彼は、

戻ってはこないけど……。

……葬儀を終え、
集合場所の駅に
戻った。

仲間たちが
解散する前に、

ある人が
言っていたことを、

今でもハッキリと
思い出せる。

……それを書くと、
事件を特定
できてしまうから、

僕の胸の中に
しまっておこう。

ただ、
その人が言っていたことは
もっともだと思った。

……その後の僕は、
その人が言っていた
まさにそのことに、

何年も
苦しむことになるのだが……

まあ、
それは置いておこう。

あまり詳しく書くと
本当に事件が
バレてしまう。

……その後、
ふらふらと
外を歩いている時などに、

「ひょっこり彼が
現れたりしないだろうか」

「どこかで
生きているのではないか」

などと、
しばらくの間は
思っていた。

彼が
亡くなった事件に
影響を受けたかのような
就職先に

つく子もいた。

その子は、
亡くなった彼と
特に仲の良い子だった。

その子が
とある就職先を
選んだのも、
納得できた。

詳しく
そのことについて
話したこともないし、

話すべきではないと
その時の僕は思った。

それくらい、
僕たちにとっては
壮絶な事件だった。

……それ以外の、
亡くなった彼に
関する記憶はない。

いつ、
心の整理が
ついたのかも
覚えていない。

いや、今でも、

整理はできていない
のかもしれない。

「どこかで
生きてくれている
んじゃないか」

そんな気もする。

……でも、
それでも良いような
気がする。

……今年初めて、

命日に彼を悼みに
行こうと思う。

……僕は、
彼の墓の場所は
知らない。

だから、

その事件が
あった場所に
花をそえ、

静かに
手を合わせに
行こうと思う。

優しい君のことを、
僕は一生忘れない。

読んでくれてありがとう。

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