書評「結局、どうして面白いのか ──「水曜どうでしょう」のしくみ」(佐々木玲仁)
2002年に放送が終了してから10年以上が経過しても、「水曜どうでしょう」の人気は衰えません。むしろその人気は加速しているとも言えます。2012年度はDVDのバラエティ部門の売上ランキングの1位、2位を水曜どうでしょうが占めたそうです。「すべらない話」や「アメトーーク!」より、10年前に終了した番組のDVDの方が売れるというのは、驚異的です。
では、「水曜どうでしょう」の何が面白いのか。これは僕も人に説明しようとしたことがあるのですが、どうもうまく説明できません。あのセリフが面白い、このシーンが面白い、と説明しようとしても、どうにもうまく説明できずとりあえずDVDを渡す、ということがありました。
そんな「水曜どうでしょう」の何が面白いのか。それを臨床心理士である著者が研究者の観点から物語の「構造」について説明しながら、「水曜どうでしょうはなぜ面白いのか」「水曜どうでしょうのおもしろさはなぜ説明しにくいのか」について書かれたのが、本書です。この記事では、本書に書かれていたことだけでなく、僕が普段考えている「水曜どうでしょう」のおもしろさについて、書いてみたいと思います。
カメラワークでみせる嬉野雅道のディレクション
「水曜どうでしょう」の魅力の1つに、大泉洋とディレクターの藤村さんのトークがあります。藤村さんは番組の編集も手がけており、テンポの良い番組構成にも大きな役割を果たしています。
もう一人のディレクターである嬉野さんは撮影を担当しているのですが、藤村さんの個性が強いため、僕には嬉野さんの役割がいまいち分かりづらくなっていました。しかし、本書を読んで嬉野さんが「水曜どうでしょう」の番組構成に大きな役割を果たしていることが、よくわかりました。
では、嬉野さんはどんな役割を果たしているのか。嬉野さんは藤村さんほど目立たないのですが、番組のディレクションもしています。嬉野さんがディレクションしているのは、「水曜どうでしょう」の画面構成です。
「水曜どうでしょう」の画面構成は独特です。出演者の顔が歪むほどのアップで映したかと思えば、全く出演者が映らなかったり、背中だけが映っていたり、あるいは出演者にはよらずに遠巻きに映っていたりという、普段のテレビではあまり使われない画面構成で番組が進行していきます。
現場で番組全体の演出を行う藤村さんのディレクションと、独特の画面構成をその場にあわせて使い分ける嬉野さんのディレクションが加わって、「水曜どうでしょう」の面白みが生み出されているのです。
いつも同じ
「水曜どうでしょう」という番組の基本構成は、どんな企画も一緒です。平岸高台公園で撮影された前枠、後枠や、HTBの駐車場で発表される企画、番組中では、ぼやき、喧嘩し、最後には疲れ果てて終わります。どこに行こうが、何をしようが、同じです。何も変わりません。しかし、これが「水曜どうでしょう」の魅力なのです。
なぜ、「いつも同じ」が魅力なのか。「いつも同じ」が良い所は、ストーリーを視聴者がわかっているところです。ストーリーがわかっているから、出演者の行動や言葉に強く注力することが出来るのです。
昔の日本映画がそうだったのですが、寅さんや高倉健が出演していた任侠映画のストーリーはいつも同じでした。寅さんは、いつも寅さんがその場その場の問題に顔を出して、女性に恋をして、問題は解決するけれど、寅さんはフラレて次の街へ行く。そういう話です。任侠映画も、ある問題に直面した主人公が悪者を退治し、去っていくという話です。
でも、観ている人はストーリーはほぼ分かっていても観ます。観ている人は、寅さんがフラれる場面で、「寅次郎頑張れ!」と映画館で掛け声がかかったり、高倉健さんが「死んでもらうぜ!」というセリフにあわせて、「健さん!待ってました!」と掛け声がある。わかっているオチが、どう展開するのか。落語や狂言など古くから伝わる日本のエンターテイメントの特徴が、「水曜どうでしょう」にも受け継がれているのです。
新しいことをしないから、古くならない
水曜どうでしょうの面白さを表現する上で、印象に残っている言葉があります。それは、嬉野さんがインタビューで話していた「新しいことをしないから、古くならない」という言葉です。
「水曜どうでしょう」はCGや3Dなど新しい技術を使って作られている番組ではありませんが、新しいことをやらないから、時代背景や映像の古さに番組の面白さが左右されずに、ずっと観続けることができるのです。それは、寅さんや任侠映画も同じです。「水曜どうでしょう」を何回も楽しむのは、名作映画を楽しむのと同じだと思うのです。
「新しいことをしないから、古くならない」
「水曜どうでしょう」の魅力は、この一言に集約されているのでしょうか。
その事を本書を読んで、実感した次第です。
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