【怒りたくなったときに読む童話】お侍さんを黙らす方法
童話でHappy♪(新)その4
むかしむかし、表町の隠居と横町の隠居がいました。
二人は、自分たちの店を息子に任せ、朝から、表町の隠居の家の前で長椅子に座り、大好きな将棋を打っていました。
すると、どこからともなく歩いて来たお侍さんが立ち止まり、地面にしゃがんで、二人の対局をのぞきこみました。
そのお侍さんは、しばらくは黙って見ていましたが、やがて隠居たちが一手打つたびに、
「あ~ぁ、その手は、ダメだろう!」
「いやっ、そこは銀を動かさなきゃ!」
「お、それはいい手だ、それでは、飛車を動かすしかねぇ」
と、やかましく口を出してきました。
隠居たちは、しばらくはがまんしていたのですが、気の短い表町の隠居が耐えられなくなり、
「コレ、少しは黙っておれ!」
と、お侍さんの頭を、もっていた扇子(せんす)でポンと叩きました。
お侍さんは、びっくりしたように目をまん丸に開けて、叩かれたところを手で抑えました。
そして、なにも言わず、その場から立ち去りました。
「これで集中して対局できる」
と、表町の隠居は言いましたが、人の良い横町の隠居は、
「対局は静かでやりやすくなったけど、お侍さんの頭を叩いたのは、まずかったんじゃねぇか?」
「あ、そうか、相手はお侍だったか、カッとなって、つい手を出しちまった」
この時代、お侍さんは、隠居たちのような商人よりもエライ身分でした。
怒らせたら大変なことになります。
「あやまった方がいいかなぁ」
「そうだな、すぐにあやまったほうがいい」
「よし、あ、でも、あの人の住まいはどこかいのぉ」
「それはわしも知らんわい」
と、隠居たちがのんきに話していると、先ほどのお侍さんが帰って来ました。
“どかっ!”
と、地面に腰を下したお侍さんの姿を見て、隠居たちは目を丸くしました。
お侍さんは、頭に兜をかぶって来たのです。
表町の隠居は、お侍さんをしばらく見てから、横町の隠居のほうを見ました。
横町の隠居も驚いた表情をしていましたが、アゴを前にだして、ホレ、とあやまるように指図しました。
表町の隠居は、
「先ほどは、ついかっとなり、手を出してしまい申し訳ございませんでした」
と、丁寧に言って、頭を下げました。
すると、お侍さんは大声で笑い、
「気にするな、こうして叩かれてもいいように、兜をかぶってきた、ほれ、将棋を始めろ」
と、手を、パン、とならしました。
隠居たちは、目を合わせながら首をひねりましたが、気を取り直して、将棋を打ち始めました。
すると、お侍さんは、
「ほら、そこは桂馬での方がよかった」
「いわんこっちゃない、最初に取っておけばよかったんだ」
「なんでその手を打つかなぁ、金を下げれば逃げられてしまうじゃないか」
と、また口を出してきました。
隠居たちは、相手はお侍さんだからとがまんしていましたが、気の短い表町の隠居は、もっていた扇子を手にすると、
「黙っておれと言うとるに!」
と、無防備なお侍さんのお腹を突っつきました。
びっくりしたお侍さんは、突かれたお腹に手を当てて、
「くそー、今度は腹かーぁ」
と言いながら、その場を離れて行きました。
お侍さんがいなくなると、横町の隠居が慌てて言いました。
「こらこら、短気を起こしちゃいけねぇよ、相手はお侍さんだってのに」
「分かってんだけどな、分かってんだけど、つい……」
と、隠居たちが話していると、お侍さんがまたやって来ました。
“ドサッ!!!”
と地面に座るお侍さんを見て、隠居たちはビックリしました。
今度は全身、甲冑(かっちゅう=よろい)を着ているではないですか。
お侍さんはごきげんな口調で、
「将棋も戦(いくさ)じゃからなぁ、見る側もそれなりの格好で見ないとな」
と、兜を叩き、甲冑のお腹の辺りを触りました。
「さぁさぁ、始めなされ」
お侍さんは大声で言いました。
隠居たちは、やれやれ、という表情で、将棋を打ち始まました。
「ほら、下手くそ、そんな手があるか」
「うわぁ、そんな手を打つならやめちまえ」
「ダメだ、話にならん、下手な手だ」
と、お侍さんは言いたい放題、口を挟んできました。
しばらく耐えていた気の短い表町の隠居でしたが、カッ、となって、扇子を手にしました。
それを見て、横町の隠居が手を伸ばし、扇子を抑え「やめとけ」と言わんばかりに首を横に振っていました。
「どうした、対局が進まねぇなぁ、早よ打て」
と、隠居たちが次の手を打たないので、お侍さんはしびれを切らしてそう言いました。
そして、ニヤっと不敵な笑いを浮かべながら、
「それともなにか、また扇子で叩くのか? それとも突くのか? やれるもんならやってみろ」
と、兜と甲冑をこすりながら高笑いをしました。
その言葉で、カチン、ときた表町の長老は、扇子を振りかざしました。
しかし、完全武装のお侍さん、叩くところも突ける場所もありません。
「どうした、叩かんのかぁ」
と、お侍さんは、表町の隠居をバカにするように言いました。
表町の隠居は、扇子を高く上げたまま、苦虫を噛んだようにお侍さんを睨みつけました。
そのときです。
成り行きを見守っていた横町の隠居が立ち上がりました。
そして、素早い動きで、お侍さんに近づくと、サッ、と、お侍さんの脇の下に両手を入れました。
そこには甲冑がありません。
なんだ? と、呆気に取られているお侍さんに、横町の隠居は、
「お侍さん、うるさくすると、こうですよ!」
と、言って、
「コチョコチョコチョ」
と、お侍さんのわきの下をくすぐり始めました。
これにはお侍さんもかないません、
「こ、ハハハ、これ、ハハハ、な、ハハハなにをする」
お侍さんは文句を言いながら、くすぐったくて笑いが止まりませんでした。
横町の隠居は、さらにくすぐり続けました。
「ハハハ、これ、ハハハ、やめないか」
お侍さんは、体をクネクネさせて、笑い続けました。
そして、
「分かった、分かった、降参じゃ、わしの負けじゃ」
と、涙を流しながら言いました。
横町の隠居は手を脇の下から離しました。
「ふーっ」
と、お侍さんは息をついて、
「悪かった、もう口出しはせん、おとなしく観戦しよう」
と言って、座り直しました。
やがて、隠居たちは将棋を指し始めました。
それを、地面に座った甲冑姿のお侍さんは、静かに眺めていましたとさ。
おしまい。
<ちょこっとHappy♪>
今回の元の話はこちら
『福娘童話集』
将棋がたき(http://hukumusume.com/douwa/koe/kobanashi/11/09.htm)
黒が危ない(http://hukumusume.com/douwa/pc/kobanashi/11/18.htm)
いやなことされた時、怒りにかられて、ついつい文句を言ってしまいがちです。それを笑いに変えただけで、自分も相手も印象が変わります。
怒りではなく、ユーモアで切り替えられる人に、なりたいですね。
今日のHappy♪ポイント
『怒ったときこそ、笑いに変えてみよう』
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