日建グループオープン社内報|デザイン人生相談オレに訊け!⑤
水出 喜太郎
日建設計 執行役員
エンジニアリング部門 設備設計グループ プリンシパル
冷房がなくても快適に暮らせる住宅のアイデア
40代女性からお悩み相談
今年の夏も連日の酷暑となりました。気温が体温に近い猛暑日に冷房なし、とまではいかなくても、普通の夏の日の日中にエアコンを使わずに快適に暮らすためのアイデアを考えてみました。暑さを和らげるヒントは快適要素である着衣量、代謝量(活動量)、放射温度、気流を上手にコントロールすることにありそうです。
まず、真夏の自宅では、Tシャツに短パンなどでゆったりと過ごされることをお薦めします。これにより着衣量と活動量を抑えることができます。さらに放射温度と気流をうまく調整して快適に過ごす工夫について考えてみます。
表面温度を抑え、森の木陰の涼しさを
上の図をご覧ください。ここで外気温は32℃と想定します。外からの日射は、ミルフィーユのように幾重にも重ねた断熱効果のある屋根や壁によって防ぎます。古くから蔵などで用いられる二重屋根を採用し、外側には太陽光パネル、その下に風の通る空気層、そして内側屋根面に水を滴り流すことで蒸発を促して熱を奪います。屋根の下には断熱を充分に施すことで、太陽光パネルの表面が60℃に達する日中も、室内側の表面温度を30℃に抑えることができます。
室内ではシーリングファンで肌に感じられる0.3m/s程度の緩やかな風を起こし、トップライトからは熱気を排出します。そして床に埋め込んだパイプに水道水(夏に20℃~25℃)を通過させることで床表面温度は室温32℃よりも低い29℃に保つことができます。
この室温32℃の住宅は28℃で冷房するオフィスよりも快適性が高く、エアコンなしでも充分に暮らせる環境になります。
図のオフィスではコピー機やプリンタ、窓や照明といった内部発熱が大きく、冷房によって室温を28℃に保っている状態です。多くの輻射熱を冷風で抑え込んでいるわけです。
五感でゆたかに涼を感じる工夫
一方で、“エアコンなしで暮らす家”は周囲の表面温度(=放射温度)を抑えて、風をうまく使うことで暑さを和らげ、エアコンの冷風のように体に負担を掛けることなく暮らすことができそうです。
ここで紹介した工夫はどれも日本古来の夏をしのぐ手法の応用といえます。さらに、かき氷や風鈴といった涼しげなアイテムも取り入れて、五感でゆたかに涼を感じたいものです。
※この記事は、2020年10月に日建グループの社内報に掲載したものです。
水出 喜太郎
日建設計 執行役員
エンジニアリング部門 設備設計グループ プリンシパル
1994年、東京都立大学大学院建築学専攻を経て、日建設計に入社。YKK80ビル、YANMAR FLYING Y BUILDING、日本生命東館、阿南市庁舎、ニッセイ新大阪ビル、福山市まなびの館ローズコム、堺ガスビルや、ゼロエナジー・クールツリーなど、建築と共にあるエンジニアリングを目指し、建築環境デザインを手掛ける。アジア初となるASHRAE Technology Award First Place(YKK80ビル)の他、JIA環境建築賞、サステナブル建築賞大臣賞、空気調和・衛生工学会技術賞などを受賞。大阪大学、東京都立大学非常勤講師。博士(工学)、技術士(衛生工学)、設備設計一級建築士、空気調和・衛生工学会技術フェロー。
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