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自作小説

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自作小説です。 近未来SFやディストピアものが好きみたいです。 好きな作家さんはたくさんいますが、20代の頃に読んだ池澤夏樹さんへの気持ちが小説好きの基礎になっています。 感想を…
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#小説

【小説・エッセイ】都会暮らし

【小説・エッセイ】都会暮らし

【小説・エッセイ】都会暮らし

 休日には昼、近くのコンビニで鶏そぼろ丼を買って食べてから、大阪万博記念公園へ行くのが習慣になっていた。はじめは子供一人育てるのに特段切り詰める必要はなく、むしろ共働き世帯で休日まで家事に追われたくは無いと鷹揚に構えていたが、そうも言ってられなくなるほど、今日日、食品価格は高騰していっている。気候変動により常となる不作、近隣諸国に購買力で負ける日本。と言うと差し迫っ

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【小説】ニゲルと非顕在ディストピア-1

【小説】ニゲルと非顕在ディストピア-1

あけましておめでとうございます。
身内の体調不良で、しっとりとした気分ですが、本年も頑張っていこうと思います。
中編小説を途中まで公開しようという企画です。本年もよろしくお願いいたします

何年か経てみると、ニゲルはその時、本当に姉と遊んでいたのか、それともただ見ていただけか、はたまた、侍女から聞いた話を夢想し、まるでそれを見ていたかのように錯覚しているだけか、分からなくなった。

 ともかく彼は

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【小説エッセイ】世の中がまとうゲル状の雰囲気

【小説エッセイ】世の中がまとうゲル状の雰囲気

【小説エッセイ】世の中がまとうゲル状の雰囲気

 男性の精子を見たことがある?

 女性にとっての精子の役割を考えると、それが体にとんでもなく有害で無ければ、どんな形でも良い。畢竟性行為の最中でも、精子の姿形やテクスチャなぞ、どうでも良いこと。

 私が精子と聞いて、まず思い浮かべるのは、旦那のナニじゃない。旦那を愛していないわけじゃないけど、旦那のイメージに「精子」の要素は無い。

 ある作家の

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短編小説(エッセイ)・私の犬 発達障害と無理心中 前編

短編小説(エッセイ)・私の犬 発達障害と無理心中 前編

短編小説(エッセイ)・私の犬 発達障害と無理心中  前編

 先頃食道がんの手術を乗り越えた義父は、無事、喜寿を迎えた。その御祝いを、思い出深いS県のホテルで豪華にやりたいと言う。薬剤師の資格を取るのに必要なのが四年間だった頃の義父は、T県で終戦を迎えた頃小学生だった。会社に請われて世間に浸透しきらない定年延長制度に従い、同じくT県で生まれ育った祖母は、良い意味でも悪い意味でも、糟糠の妻、良妻賢母

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【小説】昭和に次男として産まれた私

【小説】昭和に次男として産まれた私



前書き

 母は九州大牟田家に繋がる血筋、父は学習院大学を卒業し、上場企業の社長まで上り詰めたエリート。父方の祖父は生前警視総監でしたが、還暦を迎えず早逝しました。祖父が売り込んだのか編集者からお声がかかったのか知りませんが、警察のドキュメンタリー本を一冊出版しています。署と署の仲が悪く、組織としての統制が取れず、引退までに暴力団壊滅には至らなかったというエピソード。

 仰々しく書き出してみ

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体の中に耀る月 エピローグ

体の中に耀る月 エピローグ

秋が深まってまいりました。

ここまで読んでいただけた方は、ありがとうございます。まだの方は、一話から読んでいただけると嬉しいです。

※この話を書いた頃、息子はまだ産まれていなかったので、発達

体の中に耀る月 第6話「胸中」

体の中に耀る月 第6話「胸中」

 今より昔、当時、なんとなく書いていた部分が、今では意味が変わっていることもあります。
 そういうとき、単純な拙さとは別の読みづらさがありますが、やっぱり小説を書くことを、まだやめたくないですね。

第6話「胸中」

睦は電車を飛び出してから、途方にくれて佇んでいたが、まず敦子に返事をすることにした。

「大丈夫?」

と。それに対する返答はなかった。何コール待っても、電話への応答もない。5分・1

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体の中に耀る月 第五話「睡余」

体の中に耀る月 第五話「睡余」

第5話 睡余

 情はどこから沸いてくるんだろう。源泉はどこにあるんだろう。知らず知らずに溢れ出るものであれば、枯渇を自覚できないのも然り。満たされた時間は一瞬で、それに気づくのは過ぎたとき。振り返って懐かしく思う。虚しいものだ。

 楓は家族を愛していた。両親を、娘を、そして、もちろん妹を。彼女の良いところは、家族を恨み妬んでも、彼らの愛によって育まれ、満たされた日々の全てを嘘だと思わなかった事

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体の中に耀る 第4話「腔」

体の中に耀る 第4話「腔」

第4話 腔

 

それから夏休みまでは、穏やかに過ぎていった。校内で、睦と南戸、春は、一緒にいる時間が増えた。睦の退院後、春は、病院で敦子と何を話したか、聞き出そうとしたが、「秘密だ」と言って答えてくれない。実は、敦子と睦はほとんど何も話していない。春が出ていってから、敦子の気分は幾分和らいだようだが、睦に「大丈夫?」聞き、睦が「大丈夫」と答えたあとは、しばらく沈黙が続いた。敦子の頬にキスした後

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体の中に耀る月 第三話「肚の中」

体の中に耀る月 第三話「肚の中」

第3話 「肚の中」

斑で不均一の粒から、白く柔い生物が体節をくねらせてモソモソと這い出してきた。明朝。眩しそうに身をこごめた幼体だが、慌ただしく塀を登り始める。背中に暖かい朝日を浴びて微睡み始める。彼は、その一生を歓喜の唄だけで終えらせる。

 夏がきた。晴天の下、体育の授業だった。暑気は爽やかと感じられる程度だが、生徒は不満たらたらである。マラソンの授業で校舎の周りを三周走らなければならない。

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体の中に耀る月 第二話「脣」

体の中に耀る月 第二話「脣」

※このnoteは、所事情により予告なく削除する可能性があります。詳しくは第一話の但し書きをご覧ください。
 楽しんでいただけると嬉しいです。

第2話「脣」

 

暗がりの中に、音が響いていた。モーターと、冷却ファンの音。無機物の出す音には、秩序がある。途切れなく続いていたかと思って安心していると、ある日突然弱々しくなりこと切れる。苦しみも足掻きもない。

 春(ハル)は、モニターをぼんやり眺め

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体の中に耀る月 第一話「腕」

体の中に耀る月 第一話「腕」

※約一週間に渡り、拙作全部を公開してみる試みです。(前回はぶつ切りの上にnote用のコラムめいたものの間に挟んで公開していたので、わけが分からなくなりました。ごめんなさい)
※素人につき、賞応募や管理優先のため、予告なく削除することがあります。

第1話「腕」

 

誰より、僕が傷だらけであることを、誰に知ってもらえば良いだろう。

睦(あつし)は、教師に指定されたページを正しく開いて、テキスト

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