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【短編】『転生できたけど、しませんでした。』
転生できたけど、しませんでした。
僕は学校の授業をサボって独りゲーセンで暇をつぶしていた。後にゲームすら退屈になってしまった僕は、屋上のベンチに寝そべりながらふと自分の人生のことを考えた。そしてそのまま眠ってしまった。すると、何者かが私に向かって何かを問いかけるのである。その声は、まるで天から聞こえてくるように宙で反響し、私の耳ではなく、どちらかと言うと頭の方に吸収されていった。
「もしもし」「はい。」「なんでしょうか?」「私をお呼びでしょうか?」「そうですか。それでは今からそちらに向かいます。」
目を覚ますと、小人が逆さになって僕の顎の辺りを見つめていた。僕は起き上がって小人の額のあたりを見つめた。すると、その小人は呟いた。
「君、転生術を知っておるか?」
しばらく無言でいると、再び小人は呟いた。
「なあ君、転生術を知っておるか?」
僕は、小人が現れたという不可思議な現象を一旦忘れ、彼の質問に答えた。
「聞いたことあります。」
「いいや、君が考えているのは天に星と書く天星術のことだろう。」
「あ、はい、それです。」
「私が言っているのは、転んで生きると書く転生術の方だ。」
「聞いたことないですね。」
「そうか。まあ、言うならば一度死んでまた別の世界で生まれ変わるということだ。」
「聞いたことあります。」
「いいや、君の考えていることは・・・」
「輪廻転生のことですよね。」
「なんだ、知ってるではないか。だが転生と聞いてすぐに理解できないとは。君、漫画やアニメは興味ないだろ?」
「まあ、ないですね。どうしてですか?」
「いや、なんでもない。それより、なぜ私はここにいると思う?」
「わかりません。」
「教えてやろう。」
と小人が話し出すタイミングで僕も同時に呟いた。
「君が、僕が、」「私を、あなたを」「呼んだから。」
「なんだ、知っているではないか。」
「なんとなく想像できます。」
「そうか。私が現れる理由は二つある。一つは、誰かが退屈な人生を終わりにしたいと願うとき。そして二つ目は、誰かが人生に失敗してもう一度やり直したいと願うとき。さて君が願ったのはどちらだね?」
「どちらでもないです。」
「そんなことはない。この私が聞き間違いをするはずがない。まさか隣で同じくすやすや寝ている老人が願ったとでも言いたいのかね?」
「そうかも知れませんね。」
「話を逸らそうとするな。自分に正直になれ。いいや、私に正直になれ。」
「実は・・・人生に失敗してやり直したいと思ってました。」
「いいや、嘘だ。」
「そうかも知れませんね。」
「本当のことを言え。いいや、言う必要もない。私は君の心をすでに知っている。」
「そうですか。すると、なぜ聞いたのですか?」
「なんてことを言うんだ。親切にも君の意思で私を呼んだことを悟らせようとしたのに。君は論外だ。」
「そうかも知れないですね。」
「さて、私が現れたということは、君は新たに人生を迎える覚悟ができているということだね。」
「・・・」
「そして君の場合、人生を終わらせたいということだから、次の人生に進んでもらうことにしよう。」
「それはつまり、一度死ぬということですか?」
「まあ、そういうことだな。」
「それなら僕、自分で死にますけど。」
「またまたなんてことを言うんだ。人は簡単には死ねないんだ。そして死ぬ時には大半が痛い思いをして死ぬ。だが、親切にも私はその痛みを伴わない方法で君を次の人生に送ろうとしていることがわからないのかね?」
「・・・」
「まあ、よかろう。君みたいなクズでも心は持っているということでその態度を許してやろう。それで、君が次に送る人生だが、何か希望はあるかね?」
「特にないです。そのまま次の人生も終わらせもらえれば結構です。」
「なんだって?それは、次の人生で生きているときに言ってくれ。今私に言われたって困る。」
「そしたら、僕は人生をやり直したいです。」
「またまた君はなぜこう嘘をつきたがるんだ。君みたいな人間と出会ったのは初めてだよ。次が最後のチャンスだ。君は次の人生で何か希望することあるかね?」
「そうですね。死んでもまた次の人生があるのなら、そして次の人生も終わらせられないと言うのなら・・・」
僕は少しばかり思いを巡らせてから、ふと開き直ったような顔で小人に答えた。
「気が変わりました。」
「気が変わったとはどういうことかね?」
「文字通り気が変わったということです。私は生き続けようと思います。」
「なんと、これまた君みたいな人間と出会うのは初めてだ。そうすると、私をわざわざ呼んでおいて、そのまま私を帰すということかね?」
「はい。僕はこのまま生き続けます。いつか人生に失敗してやり直したいと願った時にまたお声かけします。その時はどうぞよろしくお願いします。」
と言って、屋上を出て学校へ向かった。
「丁寧なのか失礼なのかわからんやつだ。まあ、また会おう。」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
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