園葉凌

此処では禍話のリライトや創作ホラーなどを置いています。

園葉凌

此処では禍話のリライトや創作ホラーなどを置いています。

最近の記事

禍話リライト:甘味さん譚【肉のメモ】

 廃墟を巡ったり、そこで宿泊するのを趣味とする『甘味さん』と呼ばれる女性がいる。スリルを味わいたい肝の据わった人物だが女性であることも踏まえて、廃墟探索に関して怖いと感じている部分がある。 『人がそこにいること』らしい。  廃墟に人の存在を感じたとき、おおよそ男性だという。何故女性がいないのか。女性も住めばいいと、変わった男女平等を謳う甘味さんの感性もどうなのか。不衛生で立地条件もよくない生活起点を選ぶ女性がいるのか、真偽はさだかではない。予想できる状態以上の何かを背負ってい

    • 禍話リライト:書き物の先生

       昭和と言うのは、塾以外の様々な習い事にステータスとして価値があった時代でもあった。習字。ピアノ。絵。その他などなど。  現在は趣味だもと言えるが、当時は一家の財産や子どもの教育が反映され、他者からは評価基準のひとつと捉えられていた。  その兄弟も、弟が習い事をしていたらしい。毎週日曜日の九時頃、朝食を食べ終わったあとで「習い事に行く」と家を出るのだそうだ。  兄は、両親が弟だけに行かせているんだなと思い、関心はあったが深くは追求しなかった。彼も高校生であり、弟も中学生であ

      • 禍話リライト:なんでの家/なんでの夢

         語り手は言った。  この話は、夢を見たくなければ聞かない方がいいかもしれない――と。   ◇  ◆  ◇ 【なんでの家】  昭和の頃にとある繁華街があった。  人の集まりは開発や年代によって流行りに差がある。無情だが、あれだけ賑わいを見せていた場所も時が経つにつれ寂れていった。近くの駅が改築され、周辺にできたものが人気を集め始めたのだ。  店は客足を求めて次々に移転し、徐々にシャッターが降りたままの店舗や廃墟が増えていった。古くからの酒屋やたばこ屋は転々と残っているが

        • 禍話リライト:甘味さん譚【布の下】

           ツイスターという海外発祥のパーティーゲームを知っているだろうか。  前提として、四色の丸が並んだシートの上で複数人が行う。ルールは簡単だ。ルーレットで指定された手足を、同じく指定された色に置く。それぞれの四肢が必然的に交差する、軽い下心も見え隠れするようなゲームだった。 「アメリカのあれですよ、パーティーで男と女が引っ付きたがるヤツ」  そう称したのは、廃墟巡りを趣味とする『甘味さん』と呼ばれる女性である。  酷い言い草だが的確な表現をした彼女が教えてくれた話は、結論から

          禍話リライト:たんすのいちばんうえのなか

           彼は幼い頃から同じ夢を何度か見ていた。初めて見たのは幼稚園児か小学生のときだろうか。目覚めたあとは一時間程度は覚えており、「またあの夢か、なんだったんだろうな」と反芻するのも珍しくなかった。  しかし、人間とは忘れる生き物だ。口に出して誰かに話す内容でもなく、彼も時間が経過すれば忘れていった。  これは彼がいつもの夢の中身を覚えてしまった話である。  よく見る夢には大きな木製の箪笥が出てきた。十も二十もある引き出しが重なり、とにかく現実離れした高さがあった。バランスも当然

          禍話リライト:たんすのいちばんうえのなか

          禍話リライト:松下がり

           昔から禍話のDMに投稿してくれる方がいる。  常連と呼べるほどに随分と経験談を出した。もう無いかなと思っていた矢先、思い出したのが以下の話だという。  投稿者がまだ小学生のとき、毎年夏になるとリゾートホテルへ旅行するのが家族行事だった。父親の仕事付き合いで安く泊まれるなら、行かないわけがない。  往復に使う海岸線沿いの国道はシーズン真っ直中ということもあって、常に渋滞に巻き込まれた。子どもならあまりの退屈さに寝てしまうだろう。当時の投稿者も類に漏れず、手持ちぶさたの車内で

          禍話リライト:松下がり

          禍話リライト:忌魅恐【借りたものを返しに行く話】

           一種の、病院の怖い話になる。  ある会社に勤めていたAさんが急に来なくなった。心配した後輩が上司に訊ねると、彼は深刻な病気で入院しているらしい。会社の健康診断で発覚し、そのまま病院へという運びになったそうだ。  内臓系の疾患を患ったAさんはわざわざ山奥にある病院で治療を受けていた。上司も詳細はわからないが、どうやら難しい病でそこにしか専門科がないという。余程重篤だったのか、一週間か一ヶ月で終わると思いきや、三ヶ月も休職していた。聞いた周囲の心配は日ごとに募るばかりだ。  

          禍話リライト:忌魅恐【借りたものを返しに行く話】

          禍話リライト:溝の老人

           酒好きの男が体験した話。  その夜は下戸の友人との酒の席だった。羽目を外して飲み過ぎるわけにも行かず、珍しくも当人としては限りなく素面に近い酔いで帰路に付いた。  一旦家に荷物でも置いてコンビニでも行って、飲み直すか。酒好きの見本のようなことを考えながら、男は自宅までの道を歩いていた。いま彼が歩いている、住んでいるアパートに通じる道路は夜の9時以降にもなると極端に人が減る。今夜も歩いているのは男ぐらいなものだった。  だが、そんな道に人影がいた。見かけたことのない初老の、

          禍話リライト:溝の老人

          案山子

           Aさんの思う案山子は少し違うそうだ。 「すぐ思いつくのって、生首なんですよね。マネキンの」 【案山子】  山の裾野に広がる町で育ったAさん。家から小学校までの通学路は山の麓に沿っており、いつも徒歩で通っていた。道すがらにはいくつもの果樹園があり、中でも小学生たちに有名な柿畑があった。通学路より高い位置にある果樹園を見上げると害鳥除けの多数の案山子と目があうのだ。  竹の先に固定されたマネキンの生首たちと。  黄色の目玉模様のバルーンは他の畑にもあるが、ここの主はどこで

          禍話リライト:なんにもない家

           仮に八区とする団地には大層な門構えの屋敷があった。  一目で財を持つ人間が住んでいるのがわかるほど、豪勢な一軒家だった。だが、ある時を境にして住人が失踪した。いつからいないのか、はっきりとした時期はわかっていない。  家のある一角は交通の便もよい立地で人気があった。すぐにでも取り壊して売りに出されそうなものだが、何故か一向に着工されない。門から家までまるごと、そのままの状態で残されていた。  かといって特段管理されてもいない。荒れ放題の庭から隣家に草木が伸びてくれば、

          禍話リライト:なんにもない家

          禍話リライト:人呼びこっくりさん

             ――馬鹿な人間がいるものだ。  ポケベルの全盛期、携帯電話が大きかった90年代の話である。  エンジェル様やキューピッド様など、こっくりさんの類いが思うように『来なくなった』クラスがあった。当初は十円玉が動いていたのだが、回数を重ねるにつれて反応がなくなってしまったのだ。 「不特定多数を呼ぶから来ないんじゃないの?」  言い出したのはクラスの中心人物でもあるAちゃんだった。区内の団地でも有名なお金持ちで、人を見下しがちな態度を取る女の子だった。  当時、団地で悲

          禍話リライト:人呼びこっくりさん

          禍話リライト:お迎えコンビニ

           その土地には以前、何があったのか。  元号は平成、四国地方の大学生の話だ。  彼は一年生のときに頑張って単位を取得したぶん、二年生になるとバイトをしようと思い立った。求人雑誌を適当に見渡し、全国展開もしているコンビニでのバイトを決めた。  就業時間は融通が利くらしく、店長から「週に1~2回でもいいよ」と話された。口約束は後々無視されることが多いものの、この店は店長の言うとおりにシフトが組めた。  いいところだと彼はありがたく思いながら勤め始めたが、ひとつ気になるところがあ

          禍話リライト:お迎えコンビニ

          禍話リライト:エレベーターの花

           エレベーターは、よくない。  恋人同士ながら同棲まで踏み切らずにいた男女がいた。お互い気ままに独身を謳歌して、それぞれの部屋に行き来する距離感を測って詰めているような間柄だった。  このご時世、珍しいことに彼氏よりも彼女のほうが少し古びたマンションに住んでいた。セキュリティーも甘く、入り口はオートロックではない。昔から住んでいる住民にも問題がないとも言えない。だが元来の悪さが新規の人間を排除しているらしく、逆に治安がよいとも言える変わった土地柄だった。  マンションは古

          禍話リライト:エレベーターの花

          蚊柱

           Sさんが普段から通い慣れている駅は二階建て構造だ。一階に当たる部分がホーム、二階に改札や売店などがある。階段を昇って改札に入ると、駅の反対側の改札まで一直線に通り抜けられる。歩いていく間に売店や、各路線のホームに降りる階段とエスカレーターなどが左右にあった。  駅前の階段はバス停やロータリーまで続く通路に繋がり、通路を歩くとほぼ全てのホームが遠目から眺められた。もう電車が来ているかどうか目で確認することもできる。学生達が慌てて改札へと走っていく姿はよく目撃されており、Sさん

          禍話リライト:首のない家

           語られたのはよく怪談の話題にされるような、団地にある誰も寄りつかない一角についてだった。 「首がない話なんですけど」  団地の一角にある綺麗な二階建ての家は「夜叉が出る」と噂されていた。周囲からは『夜叉の家』とも呼ばれていたほどだ。「行くと不幸になる」と近所の人は皆、口を揃えて言った。  実際、立ち入った後にバイクで事故を起こした人がいる。友人の友人くらいの遠縁ではあるが、話によると左手の指を全て失ったらしい。絶対にしてはならないのにアスファルトに手を触れさせ、ずりずり

          禍話リライト:首のない家