メコン川流域の子どもたちに、教育と医療を。「チャイルドドリーム」創設者インタビュー
こんにちは! 西川コミュニケーションズ(NICO)SDGs広報チーム“つつつ”のハッシーです。
今回は、タイに拠点を持つ慈善団体「Child's Dream Foundation(チャイルドドリーム財団 以下、チャイルドドリーム)」についてご紹介します。
NICOはこのチャイルドドリームに、2019年から継続的な寄付を行っています。しかし、海外の団体であり、日本語の資料などが少ないこともあって、社内への周知はいまひとつ進まず……。SDGs広報としては気がかりな点のひとつでした。
そんな中、財団の創設者のお二人が来日されるとの情報が。
これはインタビューして記事にするチャンス!
はりきってお話を伺ってきました。
チャイルドドリームって、どんな活動をしている団体なの?
なぜNICOはそこに寄付をしているの?
今までしっかりお伝えする機会のなかった、寄付のお話についてお届けします。
なお、本記事には英語版もご用意しました! こちらからどうぞ。
チャイルドドリームとNICOについて
まずはチャイルドドリームさんの概要についてご紹介。
ミャンマー、カンボジア、ラオス、タイといったメコン川流域の4か国に住む貧しい子どもたちへの支援活動を行っている、非営利の慈善団体です。拠点があるのはタイのチェンマイ。設立は2003年とのことなので昨年(23年)で20周年を迎えました。
これらの国々では、経済的な不平等や内戦、政情不安といった複雑な問題が絡み合い、人々は困難な状況に置かれています。特に弱い立場にある子どもへの影響は大きく、小学校へ通うことすら難しい子どもも多いのが現状。そうしてきちんとした教育を受けられなかった子どもたちは、まともな収入を得られる仕事に就くことも難しく、貧困から抜け出せなくなっていくのです。
この負のサイクルから子どもたちが抜け出すことが、チャイルドドリームさんの目指すところ。「学校やその他の教育インフラの構築」「雇用適性を高めるためのスキル研修の提供」「基本的かつ必須のヘルスケアのサポート」などの教育や雇用、医療に関する8つの基本的な戦略をもとに、1000以上の支援プロジェクトが実行されています。
それらの戦略は、SDGsが設定する各種の目標にも合致しています。
チャイルドドリームさんの活動と直接的に関連する目標
3.すべての人に健康と福祉を
4.質の高い教育をみんなに
10.人や国の不平等をなくそう
間接的な目標
5.ジェンダー平等を実現しよう
6.安全な水とトイレを世界中に
8.働きがいも経済成長も
13.気候変動に具体的な対策を
16.平和と公正をすべての人に
17.パートナーシップで目標を達成しよう
活動資金の源は基本的に寄付。その多くはスイスやドイツ、シンガポールからで、日本からの寄付は寄付額全体の5%(2022年)と、決して多くはありません。
そんなチャイルドドリームさんをNICOが知ることになったのは、NICOのシンガポール拠点がきっかけ。お付き合いが始まった2019年以来、継続的に寄付をしています。
Child’s Dreamへ「とっておきの音楽祭」の売上金を寄付しました | 西川コミュニケーションズ株式会社
金銭的な支援だけではなく、2019年にはNICOの従業員がカンボジアの学校に訪問して子どもたちと交流を持ったことも。
コロナ禍で訪問などの機会はしばらく持てていませんが、今後も継続して幅広い支援を続けて行く予定です。
なぜメコン川流域の支援を? チャイルドドリーム設立の経緯
今回、お話を伺ったのは、チャイルドドリーム創設者のマーク・トーマス・イェンニさんと、ダニエル・マルコ・ジークフリードさん。
―――まずはお二人が普段どんなことをされているのかを教えてください。
マークさん: 二人でしっかりと役割を分担しているんですよ。私は主に運営面を担当しています。資金調達やマーケティング、コミュニケーション、人事、IT、法務、経理やその監査といった、組織の骨組みを作る活動をしています。
ダニエルさん: 子どもたちをサポートする役割は私の担当です。4カ国のチームのディレクターたちとコミュニケーションをとりながら、実施されている1000以上のプロジェクトがチャイルドドリームのビジョンやミッション、戦略に合っているかどうかを確認しながら、プロジェクトを評価しています。
―――お二人はどのように知り合ったんですか?
マークさん: 僕らはスイス出身で、同じ銀行に勤めていたんです。二人とも香港やシンガポールに駐在していたことがあり、アジアでの支援活動を始めたのもそこでの経験がきっかけです。
―――安定した職である銀行を辞めて慈善団体を立ち上げるというのは、大きな決断だったのではと思うのですが、葛藤や悩みなどはありましたか?
ダニエルさん: もちろん悩みも心配事もいろいろありましたよ。けれど、それ以上に人を助けたい、人の役に立ちたいという思いが強かったんです。
10年ほど銀行員として働きながら社会活動に参加してきましたが、将来の心配よりも人を助けたいという思いの方が強くなって、銀行を辞めました。
マークさん: 私の場合はちょっとダニエルとは違うんですよ。銀行には20年ほど勤めていて、決して嫌なことはなかったし、収入も十分だし、いい仕事だと思っていました。
ただ、毎日が同じことの繰り返しで、退屈を感じていたんです。何か新しいことをしたくなって、銀行を辞めました。そこでダニエルから声がかかったんです。
ダニエルさん: マークが辞める1ヶ月前に私は銀行を辞めていて、チェンマイでボランティアをしていました。自分の組織を立ち上げようと考えていたところにマークが辞めたと聞いたので、じゃあチェンマイに来て助けてくれないか、と。
マークさん: 最初に組織を立ち上げたいと聞いた時、「ダニエル、それはクレイジーじゃないか?」と思ったんですよ(笑)。二人とも銀行界でそこそこの地位にいて、経済面でも成功していたのに。しかもお互い子どももいないのに、なんで子どもの支援なんだ? ってね。
でも私もそれらの国々に課題があることはよく知っていましたから、じっくりと話をするうちにやってみようと決めました。
ダニエルさん: 組織の名前を決めたり、ロゴやWebサイトを作ったりと、スタートから二人でやってきました。
この20年間を振り返っても、多くを達成できたと自負できます。120万人の子どもたちに手を差し伸べて、教育や医療などをサポートして。もちろんこれは私たち二人だけではなく、チームで達成してきたことですが。
始まりはそれこそドリームのような話だったけれど、今は現実に近づいていると感じています。
東南アジアの中でも、特に貧しいメコン川流域
―――広いアジアの中でも、なぜ特にメコン川流域を支援地域に選ばれたのでしょうか。
マークさん: 香港やシンガポールに駐在している間、ミャンマーやカンボジア、ラオスによく行っていました。食べ物はおいしいし、気候もいいし、いい人たちばかりで、すごく好きな場所なんです。
ただ、行く先々で人の生活を見ているうちに、貧しい子どもたちが学校に行けていないことを知りました。現在でもそうですが、ストリートチルドレンがいて、道行く人からお金や食べ物をもらって生きているんです。
ダニエルさん: 私も同じくです。ミャンマー、カンボジア、ラオスは、国連が認定する「後発開発途上国」に分類されていて、発展途上国の中でも特に経済発展が遅れている国とされているんです。各地を旅する中で、そこに一番、サポートが必要だと感じました。
もうひとつ理由として大きいのは、地域が固まっていることです。例えばハイチやアフガニスタンといった国も後発開発途上国に指定されているのですが、それぞれ離れているので、同時に支援するにはロジスティクスの面で難しい。
そこへいくとメコン川流域はタイが真ん中にあり、その周辺にミャンマー、カンボジア、ラオスがあります。我々はタイにいて、そこから3カ国に支援をするのは非常に効率的なんです。またこれらの国は「メコン広域経済圏」と呼ばれる同じ経済圏の中にあり、抱えている課題に共通のものが多いということもあります。
教育と医療を組み合わせた、全体的な支援
―――教育や医療の支援に力を入れていると伺っています。子どもが貧困から抜け出すために、このふたつが重要ということですね。
ダニエルさん: やはり教育は基本です。学校から遠いところに住んでいるとか、言葉が違う人種的にマイノリティーな子どもたちは、教育を受けられないことがまだまだ多いです。まずは小学校、できれば中学校、さらに高校まで終えてくれたら、子どもたちが貧困のサイクルから脱却できると思うんです。
それから、健康面での支援も欠かせません。栄養失調の子どもたちが数多くいます。ちゃんとした歯磨きの仕方を知らなかったり、手洗いもしなかったり、トイレの使い方もわかってない子たちもいます。そうすると病気になりがちで、病気になると学校に行けないという悪循環に陥ってしまうので、ここは組み合わせて支援することが重要です。
―――たとえば医療支援においても、子どもに治療を受けさせるだけではなく、それに付き添う保護者の宿泊なども手厚くフォローされていますよね。
ダニエルさん: ひょっとしたら支援団体によっては病院を建てるだけ、学校を建てるだけのところもあるのかもしれませんね。
けれど入院するとなれば、保護者が近くにいて子どもをサポートする必要があります。学校にしても、建物をつくるだけではなく、きちんとした教育を受けた先生が必要です。さらには水がちゃんと来ているか、学校に必要なものが揃っているか……。全体的に見ていく必要があると私たちは思うんです。
寄付金がどう使われたのか?よくわかる詳細なレポート
さて、ここでNICOの寄付内容についての紹介を挟みます。
数あるチャイルドドリームさんの支援内容のうち、NICOが寄付をしているのはCMF(CHILDREN’S MEDICAL FUND:小児医療基金)という医療支援のプロジェクト。
これは高額な治療費を必要とする心臓疾患などの先天性疾患の治療を支援するものです。NICOではやはり健康が何より大事だという考えから、このプロジェクトを選んでいます。
寄付をすると、そのお金でどういう支援が行われたのかというレポートが送られてきます。もちろん慈善団体が活動レポートを出すことは当たり前ですが、チャイルドドリームさんの独自性はその詳しさにあります。
どこに住んでいるどんな子どもが、どんな病気で、どんな治療を受けたのか。そして治療を受けたあとどう回復していったのかまで、写真や図解を盛り込んだ詳しいレポートがもらえるのです。
NICOとしては本来なら会社の売り上げになる利益を寄付するわけですから、それが有効に使われているのかはしっかりと確認したいところ。この詳細なレポートこそが、NICOが数ある慈善団体の中からチャイルドドリームさんへ寄付をしている理由なんです。
―――とても詳細なレポートをいただいているのですが、これはチャイルドドリームさんならではのものですね。
マークさん: はい。ここには本当に誇りを持っています。今現在、我々は1,000万ドル以上の巨額の資金を扱っています。これは寄付してくださった方々からの信頼を預かっているということであり、どのように使って何を達成したのかきちんと説明する責任があると思っています。
また、その結果として信頼を高め、繰り返し寄付をしてくださるということも願っているんです。
―――財務の報告書もとても詳細ですね。組織の管理コストが他の団体と比べて低いようですが、どうやってコストを抑えているのでしょう?
マークさん: 特に変わったことはしていませんよ。ただ、給与レベルの違いはあるかもしれませんね。
22年の実績では管理コストは寄付総額の6.4%。その主なものは、スタッフの給与です。資金は富める国から来ます。対してスタッフの給与は、先進国に比べれば高くはないカンボジア、ラオス、ミャンマー、タイの給与レベルで算出していますから、結果的に管理コストが抑えられるというわけです。
ダニエルさん: マーケティングの予算が低いこともいえますね。他の団体ではマーケティングやファンドレイジング(資金調達)の宣伝のために多くのお金を使っていると思いますが、我々はすべて紹介で広がってきていますから。
なので、NICOさんが我々を気に入ってくださったのなら、それを他の方に伝えていただきたいんです。そこで興味を持った方が新たに寄付をしていただけると嬉しいです。
身近なところから、できる支援を
―――日本からも寄付は可能なんでしょうか。
マークさん: 我々のWebサイトから、クレジットカードで寄付をいただくことができます。ただ日本の銀行に口座がないので、多額の寄付となると日本から送金するのは複雑な手続きを踏んでいただかなければなりません。
現在、日本の支援者が日本でNPO登録しようと活動してくださっています。このNPOができれば、もう少し寄付しやすくなると思います。
―――今後の支援について何か大きな予定などはありますか?
ダニエルさん: 我々が支援する地域は、ますます状況が悪化しています。例えば、ラオスでは政府が破綻しており、大人は仕事がなく、子どもの教育費もどんどんカットされています。ミャンマーでは内戦が続いており、日々たくさんの人が亡くなっている。今年の末には、人口の半分が食糧不足で苦しむことが予想されているような状況です。
我々としてもますます支援のための資金が必要になってきます。さらにファンドレイジングをステップアップさせていく予定です。
―――最後に、西川コミュニケーションズの従業員、もしくは日本の皆さんに何かメッセージをお願いします。
ダニエルさん: まずはNICOの皆様にお礼を申し上げます。多大な支援をいただき、本当に感謝しております。
それから日本の方々にお願いしたいのは、今後、ミャンマー、ラオス、カンボジアから多くの人が労働力として入ってくるでしょう。その多くの方は製造業に携わると思います。外国人技能実習生の制度には非常に厳しい状況もあったと聞いていますけれど、できるだけ共感を持って親切に接してあげてほしいと思います。
マークさん: 共感は大事ですね。自分がいかに恵まれているか、富める国に住んでいるかということを少し振り返ってみてください。
もちろん自分自身の困難な問題というのもたくさんあると思います。しかし、常に食べ物があり、スイッチを入れたら明かりがともる。日々安全で、教育や医療を当たり前に受けられるということは、とても恵まれているんです。
大きなことをする必要はありません。例えば、近くに独り暮らしのお年寄りがいたら何かできないことはないかなと手を差し伸べる。それだけでも十分です。
さらに踏み込んでみようと思われる方は、富める国がいかにして貧しい国を助けられるかを考えてみる。そして貧しい人たちに共感を持って接するということが大事かなと思います。
―――ありがとうございました!
開発途上国の貧困を解決するには……なんて考えていくとハードルが高く感じてしまいますが、そういう支援の形もあるのかと気づかされる最後のメッセージでした。
もちろん日本国内でも、震災の被災者をはじめ支援を必要としている人たちが多くいます。こちらの支援もやはり同じように、お金や物資といった直接的な支援はもちろん、身近なところからできる間接的な支援もあるはずです。できることから少しずつ、チャレンジしていきたいですね。
もちろん、NICOとしても引き続き何らかの形で支援を続けていく予定です。また新たな動きがあればお知らせしていきます!