自分以外の人のために
洞爺湖を泳ぐのは、2回目だ。9年前『アイアンマンジャパン北海道』のロングの大会で、3800mを2時間近くかけて泳いだ。
今回は、2000mで試泳のときは大丈夫だと思った。かなこが「ノブリンが泳ぐのみてからわたしも泳ぐから」というので「オッケー!」と応えて泳ぎ出した。
あれ?波がある。息継ぎで顔をあげると波がかぶり水を飲んでしまう。塩辛くないぶんいいけど。これ、泳げるかな。怖いな。無理かも。死んだらやだし。頑張って泳いでもたぶん、タイムアウトかも。ちょっと休みたい。第1ブイ、つかまるところあるかな。ないみたい。
ちょっと斜め後ろにライフセーバーのボードがあったので、そこまで行ってボードにつかまらせてもらった。先客の女性がそこで休んでいて。
「波が・・・」とふたりで言い訳などして。そこでサーフボードのおにいさんに、ここでスキップできるかどうか聞いてみた。
スキップとは、順位記録は残らないけど完泳しなくっても次のバイクとランにいける、というルールだ。
ボードに乗って岸まで戻ったらリタイヤとみなされて、スキップにはならない。ここから自力で泳いで帰ればスキップになるらしい。
「ここまで泳いできたんだから泳いで帰れるでしょ」
泳いで帰ってスキップの申告をした。
1周してきたかなこに、スキップしたと伝えたらびっくりしてた。
スイムスタートは7時で、スイムの制限時間が8時20分。バイクスタートは8時25分までにしなければならなく、スキップした人はその8時25分スタート
なので、時間がいっぱいあった。着替えてゆっくりバイク準備してたら、かなこがスイムアップしてきた。
かなこに日焼け止めクリームを借りていたので、かなこに塗るように渡した。かなこは元気そうだ。よかった。
8時25分のスタートに、スキップした人たちがいっぱいいてびっくり。30人ぐらいいたかも。やっぱり波、大変だったんだ。
バイクは91.7km。制限時間は13時30分。間に合うかな。スタートしてしばらくは、前に人がいたのでドラフティング(前の車両と12mあける)にならないようについて行ったのがよかった。
長い上り坂では、脚が攣り自転車から下りてサプリを飲んだけど坂の途中から乗るのは難しい。
9年前のアイアンマン北海道、180kmの自転車の143kmの関門で終わってしまった。今回のコースはそのときと同じところが多い。90kmだからあの時の激坂はないと思ってた。だけど、こんなに坂あったっけ?9年前は坂が大変だと思わなかった。67歳だった。若かった。今の僕は76歳だ。苦しい。きつい。
だけど、僕としては頑張った。
自転車に乗りながら考えていたのはかなこのことだ。
ずっとかなこのことがあった。
スイムスキップして、自転車も間に合わなかったらかなこががっかりする。バイクフィニッシュできれば、かなこが喜ぶから。
いつもは自分のことだけ考えるのに、今回はなぜかかなこのことがあった。年をとったのかな。
がんばった。
かなこのために。
バイクフィニッシュして、ランスタートしたのは13時15分だ。
間に合った。15分前だ。
17時が制限時間。ランは23.1km。
もう大丈夫。完走できる。
お世話になっているタロウさんチームの方とお話ししながら走っていたら、折り返してきたかなこに会った。
よかった。かなこは僕に会えたら安心したようだ。
よかった。かなこが喜んでくれた。
折り返す度、かなことの距離は縮まってきていたけど、かなこに追いつこう、という気力はなかった。後半は落ちてきた。練習不足だ。
フィニッシュしたら、かなこがいた。
よかった。
スイムスキップは、後悔してないしバイクとランができたことに満足している。
苦しくきつかったけど、満足だ。
トライアスロンはいい。
自分でなく、たったひとりの人のために身体と気持ちを使い切るという経験ができてよかった。
夫婦でトライアスロンができることはしあわせだ。
ありがとうございました。