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友だちでもなく、仲間でもなく相棒
相棒といえば、右京さんだけど。
右京さんと歴代の相棒たちは友だちでも仲間でもなく、事件を解決するための手段としての相手だ。それは、好きだとか嫌いだとか関係なく。
むしろ嫌いでも、敵であっても、主義主張が違っても、ひとつの共通の目的のためなら相棒として、命を共にするお話しです。
相棒 五十嵐貴久
坂本龍馬と土方歳三が、相棒というありえない設定がすごい。彼らは徳川慶喜暗殺未遂事件の犯人探索の為コンビを組みます。
おれぁな、坂本、おめえが嫌いだ。
嫌いというのは、もう相手を認めているような気がします。相手の主義主張がわかっていて、だから嫌いと。それでも今だけ同じ立場だから仕方なくいると。
一本気な江戸弁の土方に対して、人をくったような愛嬌のある土佐弁「ほにほに」攻撃の竜馬。気が抜けるし、笑えます。土方と竜馬。両極端なふたりの対比が好き。
何度も読んでいるのに、声を出して笑っちゃいます。竜馬キャラ、おもしろい。
司馬遼太郎が確立した幕末の志士たちの個性が五十嵐版としてパワーが加わっています。
生意気な陸奥宗光、僕、君という桂小五郎、飄々とした沖田総司、寡黙な斎藤一。幕末豪華キャストも楽しめます。
大政奉還の表明が、1867年、10月13日。坂本竜馬暗殺が同年、11月15日、伊東甲子太郎暗殺の油小路の変は11月18日だ。このあたりにねらいをつけているのも面白い。
司馬遼太郎の『竜馬がゆく』では、同門である北辰一刀流の伊東甲子太郎、藤堂平助が近江屋にいた竜馬に気をつけるよう忠告にきている。同門という絆のありようは司馬遼太郎さんの定説だけど。
「てめえが殺したのは坂本じゃねぇ。この国の明日だ。てめえが斬ったのは、そういう男だったんだよ」
土方、格好良いなぁ。ふたりの間の奇妙な信頼。男と男。熱いし、切なくほろりとくる。
嫌いな人には近づかない、という術があるけど嫌いでも近づいたら、違う見方ができるのかもしれません。
なんの未練もなげに、その霊は天にむかって駆けのぼった。(中略)若者はその歴史の扉をその手で押し、そして未来へ押しあけた。
司馬遼太郎先生の大好きな最後の数行だけど、これもそのまま引き継ぐような、未来に続く明るさが五十嵐版にもあります。
笑って泣ける幕末アイドルミステリーエンターテインメント。ありえないからこそおもしろい!