クスノキの番人は生きることへの番人
熱海の来宮神社の大楠を1周すると寿命が1年延命する、という言い伝えがあり元気な頃の母とぐるりと1周したことがあった。熱海は母のランニングコースで、わたしはその頃は走ることに興味もなくましてや母の命がそれからすぐなくなるとは思ってなかった。
危機感や真剣さ切実さがなかった。この本の主人公直井玲斗と同じぐらいの年齢だった。
クスノキの番人 東野圭吾
玲斗の若さと明るさがいい。
シングルマザーの母親は玲斗が小学生低学年のとき亡くなり祖母に育てられ、孤独でも真面目に働くけど、理不尽なことや不当なことを経験し逮捕されてしまう。
こんな経歴だと卑屈になりがちだけど、会話や文体が明るく前へ前へと進んでいき小気味よい。
玲斗はしっかりとした芯を持ち、頭もよい。誰に対しても自分の言葉で話すことができる。物事を受け止め吸収していく若さと知恵と明るさがある。
クスノキに祈念にくる人々は、なにかしら抱えている。その中でわたしが好きだったのは、有名和菓子屋の金髪跡取り息子。とても正直で人間らしく好感が持てる。祈念ということだけに頼らず自らの意志と力がある。それもクスノキと番人のパワーかもしれないけど。
人と出会い、関わっていくことって成長につながっていき、ファンタジーでもありミステリーでもあって楽しめる。
東野圭吾さんの人が死なないシリーズ。
生きる、という想いが伝わってきます。