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色彩が未来を導いてくれる

スコットランドのグラスゴーのサッカーチーム、『セルティック』は中村俊輔選手が所属していたこともあり現在も古橋亨梧選手ら日本人選手が多く活躍していますがカトリック教徒が多い、というのは知らなかったです。プロテスタント教徒が多いのが、『レンジャーズ』でこの2つのチームのファンの間では対立が激しいようです。

グラスゴー大学は、『ハリー・ポッター』のホグワーツのモデルといわれていて、ニッカウヰスキーの竹鶴政孝さんが留学していたところでもあります。

グラスゴー効果(Glasgow effect)という言葉もあり、他のヨーロッパやイギリスの都市と比べて、グラスゴーの平均寿命が異常に短い現象のことで、考えられる原因として、飲酒習慣、人口過密、過剰な都市化、貧困などといわれています。

グラスゴーが舞台の小説なので調べてみました。この物語でもサッカーチームと、カトリックとプロテスタントの対立も描かれていて宗教、社会問題等スコットランドの特異性も描かれています。

シャギー・ベイン  ダグラス・スチュアート

1980年代、英国グラスゴー。“男らしさ"を求める時代に馴染めない少年シャギーにとって、自分を認めてくれる母アグネスの存在は彼の全てだった。アグネスは、エリザベス・テイラー似の美女。誇り高く、いつも周囲を魅了していた。貧しさが国全体を覆っていくなか、彼女は家族をまとめようと必死だった。しかし、浮気性の夫がアグネスを捨ててから、彼女は酒に溺れていき、唯一の収入である給付金さえも酒代に費やしてしまう。共に住む姉兄は、母を見限って家を離れていくが、まだ幼いシャギーはひとり必死にアグネスに寄り添い──。
けして生きる誇りを忘れなかった母子の絆を描く、デビュー作にして、英米の文学界を座巻したブッカー賞受賞作。

早川書房

アルコール依存症と貧困、ヤングケアラーと憂鬱で重たいのに凛とした美しさがある不思議な物語だ。どろどろとした汚れた場所で、もがき生きている姿が迫ってくる。彼らのいく方向がどうかこれ以上ひどくならないように、明るい光がさすようにと祈るような気持ちで入り込んでいく。

この陰湿な物語の中の美しさのひとつが色彩だ。色の描写がぽつり、ぽつりと効果的に現れる。

口に血の赤/青い錠剤/黒いハイヒール /マニキュアを塗った長い爪/ウールのスカート/ピンクのアンゴラセーターから抜けてぶらさがっている毛

p129

美しいのに不吉で惨めだ。不吉で惨めなのに美しい。

もうひとつの美しさは、愛だ。彼らの中には家族の愛が残っている。アグネスは子どもたちに愛情があり、アルコールの入っていないときはアイロンをかけたり、アイスクリームを買ってくれたりするし、シャギーも母親が好きだし、兄のリークと姉のキャサリン、シャギーの異父兄弟の仲でも愛情や共感がある。

「ぎりぎりのところで母親失格でない、毒親ではない(訳者あとがきより)」

算数の宿題を手伝うとなるとアグネスは無力だ。アグネスの料理を食べるなら飢えたほうがましだという日もある。だが今、アグネスを見たシャギーは、これが自分の母親の得意なことだと理解した。毎日、アグネスは化粧をし髪を整えて、墓から起きあがって頭を高くあげる。酒で不名誉なことをしてしまっても翌朝は起きて、お洒落なコートを身にまとい、世間と向き合う。自分や子供たちのおなかが空っぽのときも、髪をセットして、世間にはちがった風に思わせる。

p377

ここも愛と強さを感じて好き。アグネスの男と酒に対する執着は愛なのか、とも思うけど、それはシャギーも同じかも。どちらにしても美しさがあるけど。

作者の自伝的小説というならば、シャギーはデザイナーとして活躍しブッカー賞を受賞し、「すばらしく生きている」ということでそれがうれしい。この小説にはきっと希望がひろがっていると思える。

色が未来を導いてくれる。

はじめての企画#本代サポートします に参加してくださったMrs.chocolateさんが購入された本です。チョコさんからこの本を譲っていただきました。

わたしにもブルーハーツの『リンダリンダ』が聴こえてきました。
ありがとうございました。