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地獄たる独ソ戦の悲惨な歴史を学ぶのにおすすめの本18選


はじめに

前回の記事「『夜と霧』などナチスのホロコーストのおすすめ解説本をご紹介」ではナチスによるホロコーストの歴史を学ぶためのおすすめ本をご紹介しました。

今回の記事ではそのホロコーストをさらに学ぶために、その背景となった独ソ戦についてのおすすめ参考書をご紹介していきます。

ナチスのホロコーストを学ぶ上でソ連やスターリン、独ソ戦は避けては通れません。これらとの関係性の上でホロコーストは行われました。

とは言え、恥ずかしながら私自身2019年にアウシュヴィッツなどを巡る旅から帰国してスターリンを学ぶまで独ソ戦のことはほとんど知りませんでした。いや、そもそも第二次世界大戦におけるヨーロッパ戦線のことすらほとんどわかっていなかったのです。

第二次世界大戦というと、私は無意識に太平洋戦争を連想してしまいます。どうしても日本が戦った戦争ばかり頭に浮かんできます。アジアでの悲惨な戦闘や太平洋での玉砕、本土空襲や沖縄戦、そして原爆投下、ソ連の侵攻・・・

しかし「第二次世界大戦」という名の示す通り、この戦争は世界規模の戦争でした。そしてその主戦場はやはりヨーロッパだったのです。ですがそのことがあまり意識には上ってこない。スターリンやソ連史を学ぶ流れで独ソ戦を学んだ私は改めてそのことに驚きました。これほど巨大な戦争について知っているようでほとんど何も知らなかったという事実・・・

ヒトラーがポーランドに侵攻し、その後ホロコーストを行い、最後には連合軍に負けヒトラーが自殺して戦争が終結した。

中学高校の教科書ではこの歴史について詳しくは書かれません。私は高校の時に日本史を選択したので高校世界史の教科書でどこまで書かれているかはわかりませんが、少なくとも日本史の教科書では第二次世界大戦のヨーロッパ戦線についてはほとんど記述はありませんでした。

つまり、私のような日本史選択の人間には第二次世界大戦の詳しい流れを知る機会がなかなかないのです。知ろうと思えば自分で調べなければなりません。大学時代は勉強する時間があるかもしれませんが、社会人になってから改めて第二次世界大戦を学ぶとなると時間的にも体力的にもやはり厳しいですよね。

日本が戦った太平洋戦争については様々なドラマや映画、ドキュメンタリーが作られているのでメディアを通じて私たちはその流れをなんとなく知っています。

ですがこの「なんとなく知っている」というのが厄介で、これがあるが故に第二次世界大戦全体への関心が薄れてしまうのではないかと思います。もし日本が戦った太平洋戦争についてほとんど知らなかったのなら「あの戦争とは何だったのだろう」という関心が生まれてくるだろうからです。そしてその流れで第二次世界大戦全体の流れも知らざるをえなくなってきます。

ですが「なんとなく知っているが故に」、学びがそこで止まってしまうのです。ドラマや映画、ドキュメンタリーで見た太平洋戦争のイメージで止まってしまうということが起ってしまうのです。

被害者としての日本。玉砕し、原爆を投下された日本。戦争に苦しむ日本人。平和を奪われた生活・・・

私たちはどうしても自分達日本に感情移入してしまいます。日本側の目線に立ってしまいます。どんなに気を付けても日本に対して中立ではいられません。好悪何かしらの感情から逃れることができません。

だからこそ独ソ戦を学ぶ意義があるのです。

想像を絶するほどの規模の戦いとなった独ソ戦は戦争の本質をこれ以上ないほど私たちの目の前に突き付けます。そしてその戦争に対して第三者的な目線からその歴史を学ぶことができるのです。もちろん、完全に中立な眼で見ることは不可能です。しかし当事国であった日本の戦争よりもはるかに距離を保った視点で戦争を学ぶことができます。

なぜ戦争は起きたのか。戦争は人間をどう変えてしまうのか。虐殺はなぜ起こるのかということを学ぶのに独ソ戦は驚くべき示唆を与えてくれます。私自身、独ソ戦を学び非常に驚かされましたし、戦争に対する恐怖を感じました。これは今まで感じていた恐怖とはまた違った恐怖です。ドラマや映画、ドキュメンタリーで見た「被害者的な恐怖」ではなく、「戦争そのものへの恐怖」です。

戦争がいかに人間性を破壊するか。

いかにして加害者へと人間は変わっていくのか。

人々を戦争へと駆り立てていくシステムに組み込まれてしまえばもはや抗うことができないという恐怖。

平時の倫理観がまったく崩壊してしまう極限状態。

独ソ戦の凄まじい戦禍はそれらをまざまざと私たちに見せつけます。

こうした意味からも私は独ソ戦を学ぼうと思ったのでした。

前置きが長くなってしまいましたが、では早速本紹介を始めていきましょう。

1 大木毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』

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この本では独ソ戦がなぜ始まったのか、そしてどのように進んで行ったかがわかりやすく解説されています。

そしてこの戦争における巨大な戦闘、モスクワ攻防戦、レニングラード包囲戦、スターリングラード攻囲戦についても解説していきます。独ソ戦の勝敗を決定づけるこれらの巨大な戦いとは一体どんなものだったのか。信じられないほどの犠牲者を出した圧倒的な戦いを私たちは知ることになります。

「独ソ戦の全体像を知る」

「なぜ独ソ戦はこんなにも犠牲者を出すことになったのか」

という二本の柱ががっちりとこの本を支えています。

わかりやすく、そして読みやすい!そして新書サイズの本で巨大な独ソ戦がコンパクトにまとめられているのもありがたいです。これはすごいことだと思います。

独ソ戦を学ぶ入り口として最適な本です。この戦争の全体像をざっくりと把握することができます。とてもおすすめな1冊です。


2 神野正史『世界史劇場 第二次世界大戦 熾烈なるヨーロッパ戦線』

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第二次世界大戦とは実際にどのような戦争だったのか。ナチスはどのように動いたのか。スターリン率いるソ連はそれにどのように対抗したのか。イギリス、フランス、アメリカは?

複雑怪奇な国際情勢をこの本では学べます。そして単に出来事の羅列ではなくなぜ歴史がそのように動いたのかという「なぜ」を神野氏は強調していきます。ここが『世界史劇場』シリーズの素晴らしいところだと思います。単なる暗記ではなく、「なぜ」を考える思考力を鍛えてくれるところにこの本の特徴があると私は思っております。非常におすすめな一冊です。

3 神野正史『世界史劇場 ナチスはこうして政権を奪取した』

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第二次世界大戦を知るにはヒトラー台頭の歴史を知ることが不可欠です。

ヒトラーはどのような人物だったのか。どのように権力を掌握していったのか。ヒトラーのナチスは何を考え、何をしようとしていたのか。

これらのことを学ぶ上でこの本は非常にわかりやすく面白い参考書となっています。

この本のありがたいのはヒトラーのことだけではなく、ヒトラーが出てくる前の世界情勢もしっかり解説してくれるところです。

第一次世界大戦後のヨーロッパがいかに歪んでいたか、そしてドイツ国民がどのような状況に置かれていたかを知ることができます。

ヒトラーが台頭していったのは、彼の主張が通りやすい状況にあったからというのがよくわかります。神野氏の解説によって歴史の流れがすっと入ってきます。

ヒトラーはヒトラーだけにあらず。国際社会やドイツ国内の複雑な背景が絡み合ってヒトラーが生まれてきたことを学べます。

4 A・ナゴルスキ『モスクワ攻防戦ー20世紀を決した史上最大の戦闘』

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筆者のアンドリュー・ナゴルスキはアメリカのジャーナリスト・作家で1973年に『ニューズウィーク』誌の記者となり、モスクワ、ローマ、ボン、ワルシャワ、ベルリンの支局長を歴任した人物です。

上で紹介した大木毅著『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』では、第二次大戦における独ソ戦の全体像が語られていました。その本の巻末にある文献解題でも本著『モスクワ攻防戦ー20世紀を決した史上最大の戦闘』は紹介されており、独ソ戦をもっと知りたい方にはとてもおすすめな本となっています。

写真や図も豊富で当時の様子をイメージしやすくなっています。

そして何より、読み物としてとても面白いです。著者の語り口が素晴らしく戦争という難しい内容ながらぐいぐい引き込まれてしまいます。なぜモスクワ攻防戦は世界最大規模の戦闘となったのか。なぜ兵士たちは無駄死にしなければならなかったのか。無敵と思われたドイツ軍がなぜ敗北したのかということがドラマチックに語られていきます。


5 M・ジョーンズ『レニングラード封鎖 飢餓と非情の都市1941-1944』

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独ソ戦の中でも特に悲惨な戦いの一つとして有名で、レニングラード(現サンクトペテルブルク)というロシアの旧首都を舞台にした壮絶な包囲戦がこの本で語られます。

この本はあまりにショッキングです。かなり強烈な描写が続きます。地獄のような世界でレニングラード市民は生きていかなければなりませんでした。市民が飢えていき、どんどん死んでいく様子がこの本では語られていきます。生き残るために人々はどんなことをしていたのか。そこで何が起きていたのか。その凄まじさにただただ呆然とするしかありません。80万人以上の餓死者を出したというその惨状に戦慄します・・・

独ソ戦の悲惨さを学ぶのにレニングラード包囲戦は必読です。弾丸飛び交う戦場だけが戦争ではありません。一般市民を餓死させるという戦略的包囲も戦争のひとつの大きなあり方です。

この本はそうしたことを学ぶ上でも最適な1冊です。読むのに覚悟がいる本ではありますがぜひおすすめしたい作品です。


6 A・ビーヴァー『スターリングラードー運命の攻囲戦1942-1943』

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スターリングラードの攻囲戦は独ソ戦の勝敗に大きな影響を与えた最大級の戦闘の一つです。

モスクワ攻防戦が郊外での防衛戦であり、レニングラードの戦いは包囲戦でした。それに対しこの戦闘はスターリングラード周辺地域だけでなく大規模な市街戦となったのが特徴です。空爆と砲撃で廃墟となった街の中で互いに隠れ、騙し合い、壮絶な戦闘を繰り広げたのがこの戦いでした。スターリングラードの死者はソ連側だけで80万人を超えると言われています。

訳者解説でも絶賛されていた本書ですが、この本はたしかに面白かったです。一気に読み込んでしまいました。

独ソ戦の流れを決したスターリングラードの戦いをこの本では余すことなく知ることができます。

この戦いを境にナチスドイツ軍は敗北への道を一気に転げ落ちていくことになります。

モスクワ攻防戦では郊外での巨大な戦闘と冬将軍の到来を。

レニングラード包囲戦では信じられないほどの餓死者を出した惨劇を。

スターリングラードの戦いでは史上最大規模の市街戦を目撃することになります。

独ソ戦ではそれぞれの戦いでそれぞれの戦闘がありました。しかもそのどれもが常軌を逸した巨大な戦いです。

独ソ戦のあまりの規模に衝撃を受けることになった最近の読書でした。

この本も非常におすすめです。たった数メートルの陣地をめぐり死闘が繰り広げられた市街戦の恐ろしさを知ることになります。ぜひ手に取って頂けたらなと思います。


7 A・ビーヴァー『ベルリン陥落 1945』

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この本はベルリン陥落に向けての第二次世界大戦の最終局面を描いています。

戦争開始時の恐るべき強さを誇ったナチス軍はもはや見る影もありません。

ロシアの奥深くまで侵入したナチス軍でしたが冬将軍に襲われ、ぬかるみだらけの悪路にも苦しめられました。そしてソ連軍の人海戦術と圧倒的な物量に徐々に戦力を削がれ、ついには兵站も崩壊。軍事物資や食料もままならなくなってしまいました。

そんなナチス軍に一気に逆襲を仕掛けるソ連軍。驚くべき速度でベルリンへと突き進んでいきます。

ヒトラーの無謀な作戦指示によって混乱する現場。現場を指揮する無能な将校。物資もなく連携も取れない兵士たち。敗北を続けていくナチス軍のあり様をこの本では知ることができます。

ですがそんなナチス軍を追撃するソ連軍も稚拙な攻撃や敵戦力の過小評価などで甚大な被害を出します。勝ち戦のはずなのに死傷者数はナチス軍より圧倒的に多いという状況が続きます。

ナチス、ソ連両軍ともに地獄のような極限状態の中、ベルリンでの最終決戦へと向かって行きます。

こうした極限状態に置かれた兵士たちによって行われた住民への無数の暴虐についての描写は目を背けたくなるほどのものでした。

略奪や破壊、性暴力を繰り返したソ連兵を責めるのは簡単です。しかしこの暴虐は独ソ戦という敵殲滅プロパガンダによって教育された兵士たちの所業でした。しかも地獄のような極限状態にあっては、平和時の通常の倫理観はとっくにどこかへ吹き飛んでしまった状態であったのではないでしょうか。もちろん、一人一人の兵士が行った暴虐は許されるものではありません。しかし「ソ連兵は悪魔的な所業を行った」、「ナチスは人を人とも思わぬような残虐行為をした」。「だから彼らは恐ろしい人間たちなのだ」で簡単に一括りにしてしまっては戦争の本質を見失ってしまうことになりかねません。

戦争は平時の人間性を吹き飛ばします。戦争という極限状態で人間はどのようになってしまうのかをこの本では見せつけられることになります。

ただ単に「戦争はいけない」、「平和が大切だ」で済む話ではないのです。なぜ戦争はいけないのか。いけないとわかっていても戦争に突き進むのはなぜか。戦争は人間をどう変えてしまうのか。巻き込まれた人間に何が起こるのか。

こうしたことまで考えさせられる一冊でした。戦争の恐ろしさは平時の倫理観、人間性を吹き飛ばしてしまうところにあることを強く感じました。

これは独ソ戦に限らず、あらゆる戦争においてもそうなのではないかと思います。もちろん、日本における第二次世界大戦についてもこのことは決して忘れてはいけないと思います。美談で終わらせたり、逆に過剰に貶めるのも慎重にならなければなりません。戦争という極限状況で何が行われたのか、あるいは何が行われうるかは慎重に判断しなければならないことを感じました。非常に示唆に富む本であったと思います。


8 C・メリデール『イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45』

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この本は、私が独ソ戦の歴史を学び始めてからずっと疑問に思っていたことに答えてくれた本でした。

その疑問とは、「なぜソ連の兵士は死ぬとわかっていても戦い続けたのか」という疑問でした。

独ソ戦においてソ連は人海戦術と言えば聞こえがいいですが、信じられないほど大量の兵士をナチス軍に突撃させています。そして無残にも彼らは圧倒的な戦力差で蹂躙されたのでありました。

Youtubeに何の映画かはわかりませんが、おそらく独ソ戦の戦闘と思われるシーンでまさしく「ウラー!」の叫び声と共に突撃する映像がありましたのでこちらに引用します。かなりショッキングな映像なのでご注意ください。

冒頭の突撃シーンから寒気がしました。これは迎え撃つドイツ兵もとてつもない恐怖だったと思います。

殺しても殺しても次から次へ死を恐れずに突撃してくる。これほどの恐怖はありません。

そして案の定無謀な突撃によって壊滅的な被害を出しソ連兵は撤退するのですが、驚くべきことに、撤退する兵士を今度はソ連司令部が殺戮するのです。

ソ連軍において撤退は許されません。死ぬまで戦えという指令が鉄の掟として存在していたのです。だから撤退して戻ってきた兵士を軍規違反として殺すのです。

ソ連兵はナチス兵に蹂躙され、逃げればソ連軍にも殺されるのです。

こうして最前線に立たされる無数の兵士の死体が累々と積み重ねられていきました。

しかしこの人海戦術は結果としてナチス軍を撃退することになります。

スターリンの命令により兵士として戦闘を強制されたことはわかります。逃げたり捕虜となってしまえば身内共々殺すという規則が兵士を動かしていたこともこれまで別の本でも学んできました。(「独ソ戦中のスターリンと反撃するソ連軍の地獄絵図のごとき復讐 「スターリンに学ぶ」⑸」の記事を参照下さい)

しかしそれでもなおなぜ彼らがあそこまで悲惨な戦いを続けられたのかということが私にはどうしてもわからなかったのです。

そのことをこの『イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45』では当時の戦争経験者への聞き取りやソ連崩壊に伴う新資料を駆使して分析していきます。

この本では一人一人の兵士がどんな状況に置かれ、なぜ戦い続けたかが明らかにされます。

彼ら一人一人は私たちと変わらぬ普通の人間です。

しかし彼らが育った環境、ソ連のプロパガンダ、ナチスの侵略、悲惨を極めた暴力の現場、やらねばやられてしまう戦争という極限状況が彼らを変えてしまいます。

人は何にでもなりうる可能性がある。置かれた状況によってはいとも簡単に残虐な行為をすることができる。自分が善人だと思っていても、何をしでかすかわからない。そのことをこの本で考えさせられます。

この本もあまりに衝撃的でしたので当ブログでは「『イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45』を読む」という連載記事を掲載しています。ぜひご参照ください。

この本は恐るべき一冊です。今だからこそ強くおすすめしたい名著です。


9 スチュアート・D・ゴールドマン 『ノモンハン1939 第二次世界大戦の知られざる始点』


この本もものすごいです。

ノモンハン事件という、私たちも名前だけは知っている歴史上の出来事が想像もつかないほど巨大な影響を世界に与えていたということがこの本で明らかにされています。

日本はなぜ第二次世界大戦で悲惨な敗北を繰り返したのか、なぜ軍部が暴走し無謀な戦闘を繰り返したのかもこの本では分析されています。読むとかなりショックを受けると思います。私もこの本を読んでいて何度も「嘘でしょ・・・」と唖然としてしまいました。それほどショッキングな内容となっています。

日本がなぜ戦争に突入していったのか、そしてなぜ敗北を繰り返したのかということがこの本ではとても明確に分析されています。海外の研究者だからこそ見れる日本像というものが描かれています。

またこの出来事がスターリンとヒトラーにとってどのような意味があったのかということも明らかになります。

第二次世界大戦を局地的に見るのではなく、全世界のつながりとして見ていく視点をこの本では学べます。第二次世界大戦を捉え直す素晴らしい機会となります。

この本は今の日本を見ていく上でも非常に重要な問題提起を与えてくれます。これからの日本のためにもぜひ手に取ってほしい1冊です。非常におすすめな1冊となっています。


10 アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』

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この本は著者のアレクシエーヴィチが独ソ戦に従軍、あるいは戦禍を被った女性にインタビューし、その記録を文章化したものになります。独ソ戦という巨大な歴史の中では個々の人間の声はかき消されてしまいます。特に、女性はその傾向が顕著でした。戦争は男のものだから女は何も語るべきではない。そんな空気が厳然として存在していました。

そんな中アレクシエーヴィチがその暗黙のタブーを破り、立ち上がります。アレクシエーヴィチはひとりひとりに当時のことをインタビューし、歴史の闇からその記憶をすくいあげていきます。

この本は衝撃的です。かなり生々しい物語が語られます。そして本のタイトルにありますように独ソ戦を女性の目線から見ていきます。これまで語られた「男らしい」戦争のイメージをひっくり返すような話がたくさん出てきます。読んでいると胸が締め付けられるような語りが次々と出てきます。戦争の実態をこれ以上なく私たちの前に突きつけます。

そして今この本は漫画化もされているそうです。

以下の記事で原作を含め、漫画の内容も詳しく解説していますのでぜひご覧ください。


11 ザスラフスキー『カチンの森 ポーランド指導階級の抹殺』

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アウシュヴィッツのホロコーストに比べて日本ではあまり知られていないカチンの森事件ですが、この事件は戦争や歴史の問題を考える上で非常に重要な出来事だと私は感じました。

歴史が隠蔽され続け、連合国側もそれに加担していたというのは無視できない問題だと思います。無条件に連合国あるいは国連を信じる危険性を感じました。国際情勢においてはこうしたことが実際に起きているということを忘れてはいけないと改めて思ったのでありました。歴史の怖さを感じる一冊です。

日本ではあまり知られていない事件ですが、これを学ぶ意義は非常に大きいものと思われます。

国の指導者、知識人層を根絶やしにする。

これが国を暴力的に支配する時の定石であるということを学びました。非常に恐ろしい内容の本です。ぜひ手に取って頂ければなと思います。


12 A・ビーヴァー/L・ヴィノグラードヴァ『赤軍記者グロースマン 独ソ戦取材ノート1941-45』

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この本はユダヤ人であるグロースマンが実際に独ソ戦の戦地に赴き、従軍記者として取材した記事やノートを時系列に沿ってまとめたものになります。

最前線で戦う兵士たち、そして戦争に巻き込まれた人々の姿を従軍記者の目線でグロースマンは描いていきます。

グロースマンは元々愛国的な思想を持って戦争に従軍していました。侵略してきた凶悪なナチス軍を迎え撃つロシアの兵士たちを、ソ連こそが正しいという信念を持って取材していきます。

兵士たちの勇敢さに心打たれるグロースマンでしたが、ソ連軍が優勢になりナチス占領地域に進攻していくとその思いが揺らいできます。

進軍先でナチス軍と変わらぬ蛮行をする兵士たちや戦争の悲惨な現実を目の当たりにし、スターリンの掲げる愛国神話に疑問を持ち始めます。

また、何より印象的なのが、ナチスのホロコーストの現場を取材した部分です。ホロコーストというと、私たちはアウシュヴィッツを想像してしまいますが、トレブリーンカという絶滅収容所についてこの本では述べられています。そこでは80万人以上の人が殺害されています。その凄惨な殺害の手法は読んでいて寒気がするほどです。それを現地で取材したグロースマンはどれほど衝撃を受けたのか想像することもできません。

理想を信じ、愛国心から従軍したグロースマン。

その彼が戦争の真実を知り、人間の残酷な側面におののくことになります。

やがてスターリンから反体制とみなされ粛清されかけるほど、彼の思想は変わってしまうのでした。

そうした彼の思想の変化がどのようにして起こったのかということをこの本では知ることができます。

独ソ戦という世界の歴史上未曽有の絶滅戦争を最前線で取材した彼の記録は必見です。とてもおすすめな1冊です。


13 ワシーリー・グロスマン『人生と運命』

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この小説は三部構成の大作です。大き目の単行本にして計1350ページ超の大ボリューム。

ロシア文学史上でも有数の傑作と知られる本書ですが、読むのも覚悟がいる作品です。

ソ連において体制批判はタブー中のタブーです。強制収容所送りや死刑を覚悟しなければなりません。グロスマンはこの作品を書き上げるもKGBの家宅捜索を受け没収されてしまいます。そして当局から危険書物扱いをされ「今後2~300年、発表は不可」と宣告されます。

「今後2~300年、発表は不可」という宣告のものすごさ。この小説がどれだけソ連当局にとって危険なものだったかがうかがえます。逆に言えば、それだけソ連にとって都合の悪い真実を映し出していたということができるかもしれません。

このような小説ではありましたが、奇跡的に原稿の写しが彼の死後に海外に渡り、この本が出版されることになりました。もしこの奇跡的な国外出版がなければ、世界の歴史上に燦然と輝くこの小説は誰にも知られることなくひっそりと葬り去られていたかもしれません。

独ソ戦という極限状況の中、グロスマンが描く人物達のなんとリアルなことか・・・読んでいて思わずため息が出るような、そして私たちを悩ますようなそんな描写がたくさん出てきます。もし自分がこんな状況に置かれたらどうするだろうか。すべてを犠牲にしても自分の信念を守れるだろうか。体制に「NO!」と言えるだろうか。誰かを裏切らずにいられるだろうか。グロスマンはものすごい迫力で私達に迫ってきます。

この小説を読んで改めて感じたのは、あの戦争において一人一人が想像もできぬような苦しみや恐怖を抱いて死んでいったということです。「100万人が殺されたという事実」は「想像を絶する苦しみや死が100万通りあった」ということなのだと思い知らされました。単純に「100万人が殺されたんだ」で終わらせてはいけないものがあるんだとグロスマンに言われているような気がしました。


14 ワシーリー・グロスマン『万物は流転する』

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この小説の前半部分では体制に迎合し、密告して自分の生活を守り安穏な生活をした人間と、自らの主張を守り、強制収容所送りになった主人公を対置し、スターリン死後の世界に生きる人々の心の断絶を描きます。

生きるためには仕方がなかったと自己弁護をする密告者。内心は人を貶めたという罪悪感を感じているものの、それに蓋をして安穏と生き続ける人たち。

はたして彼らは悪人なのか。それとも彼らにそれを強いた体制こそ悪なのか。これは誰のせいなのか。

スターリンという独裁者がすべて悪いという考え方がスターリンの死後喧伝されます。しかし本当にそうなのか。密告に加わった者は本当に何の罪もないのかとグロスマンは問います。

中盤ではスターリンが主導したウクライナの大飢饉について語られます。この飢饉は天災によるものではなく人為的に起こされたものでした。その冷酷無慈悲な収奪を厳しく批判します。

このスターリンによる大量虐殺は以前紹介した以下の本に詳しく書かれていますのでこちらの記事を参照して頂ければと思います。

そして後半ではレーニンが生み出し、スターリンが完成させたソ連の恐怖政治の成り立ちと構造を分析します。自由を奪うシステムがいかにして生まれ、機能しているかをグロスマンは語ります。

ソ連政権下でそうした批判は絶対にタブーです。これを書き上げたグロスマンの勇気は信じられないほどです。これほどのものを粛清の恐怖に屈せずに書き上げたグロスマンには驚かざるをえません。それほど彼の中で「自由とは何か」という問題が強烈にあったことを感じます。

訳者は「多くの人に、とくに若い人たちにグロスマンの作品を読んでもらいたい」、「全体主義の問題は今日でも大きな問題ですし、いつの時代にも権力と個人の問題は誰も避けては通れません。そして、そうしたものに対するグロスマンの投げかけた問いは、今日でも色あせてはいないのです。」と述べます。

たしかに、この作品を読んでまさしくそのように感じました。正直、ものすごく重いです、この本は・・・

『人生と運命』もそうでしたがこの小説も読むのがつらかったです。ですがその分衝撃もものすごかったです。よくぞこんなにえげつないものが書けるものだなとため息しかありません。読んでいてその厳しさに何度も固まってしまいました。「じゃあいったいどうすればいいんだ・・・」と呻くしかなくなってしまいます・・・

そうした状況に実際に当時の人たちは置かれていたのかと思うと戦慄してしまいます。

かなりヘビーな一冊ですが、読んでみる価値は間違いなくあります。


15 ティモシー・スナイダー『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』

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この本はアウシュヴィッツに対する見方が変わってしまうほど衝撃的です。

訳者が「読むのはつらい」と言いたくなるほどこの本には衝撃的なことが書かれています。しかし、だからこそ歴史を学ぶためにもこの本を読む必要があるのではないかと思います。

そもそもこの本を読むきっかけとなったのはスターリンの大テロル(粛清)と第二次世界大戦における独ソ戦に興味を持ったからでした。

スターリンはなぜ自国民を大量に餓死させ、あるいは銃殺したのか。なぜ同じソビエト人なのに人間を人間と思わないような残虐な方法で殺すことができたのかということが私にとって非常に大きな謎でした。

その疑問に対してこの上ない回答をしてくれたのがこの『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』でした。

この本の衝撃は今でも忘れられません。私は自分の勉強のためにもこの本を題材に「『ブラッドランド ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実』を読む」という連載記事をブログで投稿しました。以下はその第1回目の記事です。全7回の記事ですが、参考にして頂けましたら幸いでございます。

全体主義と戦争のもたらす悲惨さを学ぶのにこの本は非常におすすめです。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。


16 逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』

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TwitterなどのSNSで話題になっていたこの作品でしたが、とにかく面白い!!とにかく読ませます!!

ストーリー展開や心理描写が非常に巧みで、どんどん物語に引き込まれます。没入感がすごいです。

450ページを超えてくる大作ですが、あっという間に読んでしまいました。さすがに一気読みは時間の都合上できませんでしたが、中断時は早く続きを読みたくてうずうずしてしまいました。それほど魅力的なストーリー展開です。

この本の巻末には著者が参考にした本が一覧で掲載されています。

この記事で紹介している本がずらりと並んでいますが、『同志少女よ、敵を撃て』ではその中でもアレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』やキャサリン・メリデールの『イワンの戦争 赤軍兵士の記録1939-45』の影響が感じられます。

上の二冊で語られる「どこまでも人間を悪魔化させていく戦争の現実」が『同志少女よ、敵を撃て』では深く落とし込まれています。それらをオリジナルのストーリーでここまで絶妙に語るこの作品には驚かされました。作者はこれがデビュー作だそうです。デビュー作にして自分が学んだことをここまで作品に落とし込みながら表現できる文才に羨望の思いです。

私はこの作品が独ソ戦を学ぶ入り口になってくれたらなと心から思います。


17 モンテフィオーリ『スターリン 赤い皇帝と廷臣たち』

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この作品の特徴は何と言っても人間スターリンの実像にこれでもかと迫ろうとする姿勢にあります。スターリンだけでなく彼の家族、周囲の廷臣に至るまで細かく描写されます。

スターリンとは何者だったのか、彼は何を考え、何をしようとしていたのか。そして彼がどのような方法で独裁者へと上り詰めたのかということが語られます。

この本は上下巻合わせて1200ページほどの大作です。ですが読んでいて全く飽きません。小説のような語り口によってどんどん引き込まれます。

スターリンとは何者なのか、スターリン率いるソ連とはどんな存在だったのか。

それはロシアの隣国である私たちにも無関係な問題ではありません。謎の国ロシアを知る上でもこの本は非常に大きな助けとなってくれます。もちろん、独ソ戦を考える上でも本書は実に貴重です。

読むにもなかなか骨が折れる大作ですがこれは読む価値ありです。面白いです!


18 ローラン・ビネ『HHhH』

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これはものすごい作品です・・・!

この小説のことはうっすらとタイトルだけは知っていましたがまさかこんなにも面白い作品だったとは!

もっと早くに出会っておきたかったと心から思います。

この作品の大筋とその背景については訳者あとがきに次のように述べられています。

ハイドリヒはナチス・ドイツの悪名高きゲシュタポ長官にして、〈第三帝国でもっとも危険な男〉〈死刑執行人〉〈金髪の野獣〉などと呼ばれ、「ユダヤ人間題」の「最終解決」の発案者にして実行責任者として知られている人物である。ナチスによって保護領化されたチェコ(スロヴァキアは分断されて、名目的な独立を保った)総督代理にまで上り詰めた。

しかし、そこで彼は暗殺される。しかも、皮肉なことにナチの高官で暗殺された人物はこのハイドリヒだけだった。その暗殺を決行したのは、ロンドンに亡命したチェコ政府によって本国に投下されたパラシュート部隊員のヤン・クビシュとヨゼフ・ガブチーク。この暗殺計画を〈類人猿作戦〉と呼ぶ。

この暗殺計画の結末は、悲惨なものだった。作戦を決行した隊員たちが教会の地下納骨堂に追いこまれ、そこで水責めにあって死ぬ場面は、この小説を締めくくるもっとも緊迫した場面であると同時に、読者の度肝を抜く画期的手法で描かれている。しかし、悲惨な最期を遂げたのは当事者だけではない。この暗殺計画に関わり、犯人を匿ったという濡れ衣を着せられたリディツェ村の住人は、男たちは全員銃殺、女子供は収容所に送られたばかりでなく、住居もことごとく焼き払われたのである。

ユダヤ人のすべてを殲滅してしまうという発想、ナチ高官暗殺の報復として、村をまるごとひとつ、この地上から消してしまうという発想、そして、その発想のままに実行していくナチスという狂った装置。

「狂った装置」という表現が適切かどうかはわからない。重要なことはむしろ、このすべてが事実=史実だということである。

東京創元社、ローラン・ビネ、高橋啓訳『HHhH』 P386-387

当時の状況がまるで目の前に現れてくるかのような豊かな筆致で作者は物語を描いていきます。驚くほど読みやすく、情景がイメージしやすいです。あっという間に引き込まれてページをめくる手が止まらなくなります。

作者の独特な叙述方法は好みが別れるかもしれませんが、私はかなりぐっときました。感情移入しやすく、著者のこだわりが感じられます。

チェコの苦難といえばソ連時代の1968年のプラハの春をイメージしてしまいがちですが、チェコはその前にもナチスによって苦しい時代を経ています。この作品を読んでそうした時代のチェコにも改めて思いを馳せることになりました。

特にハイドリヒ暗殺の報復として、何の罪もない村を文字通り消滅させてしまったナチスの所業。このインパクトはかなりのものです。これまでもいくつかの本によってそのことは知ってはいましたが、やはり物語として語られるとその重みが全く違ってきます。

私もナチスによって消滅させられたリディツェ村や最後の戦いが行われた教会を訪れています。小説を読んでからここに来るとその重さをさらに感じました。

リディツェ村跡
最後の戦いがあった聖ツィリル・メトデイ正教大聖堂

この作品も非常におすすめです。ものすごく面白いです。歴史を学ぶために手を取ったこの作品でしたが、そもそも小説としてのクオリティーが尋常ではありません。刺激的で面白い小説をお探しの方にもかなりぐっとくるものがあると思います。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。


おわりに

以上、独ソ戦についてのおすすめ参考書を紹介しました。

独ソ戦を学ぶことは正直、精神的にかなり辛いことです。ですがそこから目を背けるわけにはいきません。

今回の記事を含め、ホロコーストや独ソ戦の本を紹介するということは私自身の勉強という面もありましたが、皆さんにとっても「戦争とは何か」という問いを考えるきっかけとなってくれたならば嬉しく思います。

以上、「地獄たる独ソ戦の悲惨な歴史を学ぶのにおすすめの本17選」でした。

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