ミニトマト・イズ・マイブーム
この夏、最も熱中しているのはミニトマトの栽培。
これまで「あなたの趣味は何ですか?」と聞かれた時に自信を持って答えられるものがなく、趣味がないって居心地が悪いなぁと思っていた。
ところが今「趣味は見つからないけれど、熱中しているものはあります。」そう言えるものができた。
マイブームはミニトマトの栽培、そう言い切る夏となった。
この3ヶ月、脳のかなりのスペースを占めているトマト栽培について書いておこうと思う。【ミニトマト】に関する文字でいっぱいになっている脳内メーカーの横顔があったらアイコンにしたい。
ミニトマトを植えたい
チューリップが散り、パンジー、ビオラの花のピークが終わる頃、プランターに植える次の花を考えていた。YouTubeで園芸専門店の店長さんが季節に応じて店先に並ぶ苗などを紹介している「カーメン君ガーデンチャンネル」を見ながら夏の寄せ植えのための花の名前をメモしていた。
目的の動画のあと目にしたおすすめのトマト栽培の回を観る。ミニトマトの品種がいくつか紹介されていて、「アイコ」しか知らなかった私は、背丈や甘さ、酸味、皮の薄さなど特徴の違う品種があると知った。家庭園芸用にも販売されているという。番組では食べ比べもしていて、薄皮のミニトマトはさくらんぼのような食感だという。デリケートで傷みやすいから輸送しづらく実の市販は難しいらしい。
薄皮ってどんなだろう、真っ赤に完熟させてみたいな、酸味の違いは品種の違いなの?育て方?
好奇心がくすぐられ、少なくとも二種類の苗を買えばうちでも食べ比べができるななんて思い始める。花苗とミニトマト、両方買って来るかな。
こうして夏花壇の候補にミニトマトが加わった。
①苗を買って土をつくる
ホームセンターを訪れたのは5月初めの午後。メインの花苗を選ぶのに時間をかけミニトマトを選ぶのが最後になってしまった。元気なものから売れて行くため、野菜苗は特に残り物感が否めない。仕方がない、ましそうな苗を選ぶ。大玉トマトは栽培が難しそうなので避け、ミニトマトの「あまたんⓇ」「ぷるるんⓇ」「天使のほっぺ」と中玉トマトの「うす肌Ⓡトマト」の4種類を1つずつをカゴに加えた。
翌日、植え付けのための土づくりをする。2週間前に用意しておけば良かったけれどそれがなかなかできない。『泥棒捕えて縄をなう』経験はないけれど、『苗を買って土をつくる』のは毎度のこと。
植え替えで出た古い土をふるいにかけて根や微塵を取り除き、広げて天日干しをする。出てきたコガネムシの幼虫はゴミ袋へ。ネキリムシはスコップで捕殺。ナメクジはゴミ袋。
買ってきた培養土、赤玉土、腐葉土、土壌改良用土と、去年の残りの骨粉入り油かすを混ぜて今回の土が出来上がる。
プランターに鉢底石を敷き、作った土を入れる。花苗より先にミニトマトを植え付ける。ヤシガラ素材の軽量化されたカゴメ軽いトマト培養土を1袋だけ買ったので4つのトマト苗の周りにだけその培養土を使う。深めのプランター2つが少し軽く出来上がった。
トマト培養土の袋に紹介されていたトマト栽培アプリに登録。ここでは苗に名前をつけて管理するようになっている。つけたのは品種名から「あまたんたん」「ぷるるんるん」「天使のほっぺっぺ」「うす肌トマトット」。安易だ。
あまりに弱っちい苗だったので購入した翌日の定植。理想はポット苗のまましばらく管理して、蕾が出た頃。根が十分張ることと、花房の向きが分かった状態だとその後の管理がしやすいという。
日向に出すと萎れてしまいそうなので、根付くまではカーポートの屋根の下で見守ることにした。
②脇芽かき、脇芽育て
ナスやピーマン、シシトウ、ゴーヤ、これまで何度か野菜苗を栽培したことがあるけれど、しっかり世話をしたことがなかった。支柱を立てたり誘引したことはあっても、脇芽をかいた記憶がない。
せっかく出た芽を取ってしまうことに抵抗があり、思い切るまでに時間がかかる。主茎に栄養を集めて苗を元気にして実を美味しく沢山作ってもらうために脇芽を早くかくことは大切。遅くなればなるほど脇芽に送ってしまった栄養が無駄になる。
うじうじしていたせいで、いくつかの脇芽は大きく育っていた。取った脇芽を未練がましくコップの水に挿しておいた。調べてみると水を換えながら世話をすると根が出ることがあるらしい。それを定植して大きく育て実を収穫している人もいるという。またも好奇心がくすぐられて脇芽も育ることにした。
③花粉あれど蜜なし
16日目。それぞれに花芽も見え始め、力強く育ってきたので日当たりの良い場所に移動した。
19日目。黄色い花が咲きはじめる。朝夕、指で花を揺らして受粉を助ける。花が多くなってくると電動歯ブラシを使って振動させた。
時々花に小さな虫が来ていた。てっきりミツバチだと思っていた。
トマトの花粉には蜜がないので蜜を集めるミツバチは来ないと後で知った。花粉を集める蜂そっくりのアブの仲間っぽい。
やってみたいことだらけ
①支柱、誘引、行燈仕立て
カーメン君チャンネルでトマト栽培の動画を見た時から、行燈仕立てには興味を持っていた。3~4本円形に立てた支柱にトマトの茎をらせん状に巻いて、まるで行燈のように仕立てる誘引方法。
始めの4苗もらせんに誘引するつもりでいたが、残留除草剤の影響からか茎が異常に太く硬くなってきたので無理に誘引することができなかった。
脇芽から育てた苗にはその影響なく茎もほどほどの太さだったため、これらはらせんに誘引しはじめた。あり合わせの支柱だったため高さも抑えたかった。
実際にやってみると思ったより難しく、コツをつかむまではいくつか失敗をした。咲き始めていた花房を折ったり、主茎を折ったりした。皮一枚で繋がっている主茎はマスキングテープを巻いて処置。
幸いそのあと繋がって成長を続けてくれたが一本折ったことで臆病になり、行燈仕立てに成功したのは最初に誘引した丸鉢の「てんちゃん」だけになった。
②グラデーションの果房
一番の喜びは最初に出来たぷるるんるんのグラデーション果房。土に付きそうに伸びて緑色の実を付け、茎近くから色付き始めるとそれが先の方へみるみる伝わっていく。光沢が美しく、絵にかいたような出来。
全てが真っ赤になって「房取り」をする方法もあったが、カメムシと鳥による被害が怖くて、赤くなったものから収穫した。
③味比べ
比べるために買った4苗だったが収穫できる喜びが大きく、比較することはそれほど大きな目標ではなくなる。
ぷるるんは薄皮がはじけ、さくらんぼのような食感。切らずに丸ごと食べるとよく分かる。
あまたんは一番甘い。いっぱい収穫していっぱい食べたい。
うす肌トマトットは良く実をつけてくれた。冷麺に使うのに丁度よい大きさ。酸味と甘みのバランスが取れていたし皮も薄め。
天使のほっぺっぺは色がかわいい。うまく撮影できたらその色を留めておけるのに。土の障害にも関わらず、沢山実を付けてくれた。
蝶よ花よと
マイブームになるほど栽培に熱中したのは数々のトラブルに見舞われたせいもある。順風満帆に生育していればこれほど気にかけて構ったりしなかったかな。過保護か?と思うほど大切に育ててる。
初めてのことだらけで、アプリからリンクしたコミュニティサイトで同時期に栽培しているメンバーに教えてもらったり、webで検索をしながら対策を取っていく。
①葉の異常→残留除草剤の影響(?)
最初の異変は葉に訪れる。
第3花房が咲く頃、葉が縮んで内へ巻き、明らかに異常な成育であることに気付く。撮っていた写真を後で見ると、最初の花が咲いた栽培20日目には既に生長点の葉が丸まっていた。
強い日差しのせいで乾燥したためかも知れないと思い、日光を遮るためにオーガンジーの布を掛ける。
雨のせいで潅水が過剰になり、根からの吸水が上手くいかなくなっているかも知れないと思い、雨を防ぐブルーシートの屋根をかぶせる。
夕方に水遣りをしていたことも悪いのだと思い、朝、水を遣るように変えてみる。(実際、水やりは朝にした方が良いらしく、これは継続。)
追肥にプランターの外周に埋めた固形の油粕が多すぎて肥料過多となった可能性を考えて、周りの土をどけて肥料分のない土と入れ替える。
どの方法でも症状はおさまらず様子をみていたところ、メンバーの方から有益な情報をもらう。クロピラリドの影響では?初めて聞く名前。除草剤の一種という。
画像検索すると明らかに症状が当てはまる。日本では使用が許可されていないが海外では牧草や穀物の生産に使われており、その除草剤が残留した飼料を与えた家畜の糞尿に含まれるらしい。
日本ではその糞尿を材料にした堆肥に含まれる農薬として注意が払われているという。他の農薬類は大抵が堆肥化する際に分解されるが、このクロピラリドは分解されずに残留するらしい。影響を受ける度合いは作物により異なっており、感受性が強く生育障害が出やすい野菜の中にトマトが含まれていた。
元肥には牛糞堆肥は使っておらず骨粉入り油粕だけ。けれど古い土を再利用するために使った土壌改良材に堆肥成分が使用されていることが分かる。土壌改良材は微生物が多いだけの土だと思っていた。多量に含まれていたのかそれとも微量だったが、それを私が沢山混ぜすぎたのかも知れない。
購入店にこの商品にクロピラリドが入っている可能性はないか、メーカーに他からの異常の報告は寄せられていないかメールで問い合わせてみた。返事は他には同じような症状の報告は入っていないとのこと。断定するわけにはいかないか。
原因をその残留農薬だとしても、幸い食べた人や家畜への健康被害はないという。ただこのままだと葉が育たず、上方の花が咲かず実もできない。苗の生育障害を正常に戻すための対策を考えた。
ここまで育った苗の土を入れ替えることもできそうにないので、植えたまま取れる方法を探す。クロピラリドは水に溶けやすいらしいので多量の灌水で流してみることにした。なみなみと水をやり、側面の水抜き穴に向けてプランターを傾ける。
この方法を試した時、初めて「あまたんたん」と「ぷるるんるん」の方の側面の蓋が付いたままになっていることに気付く。
この蓋が閉じていたせいでウォータースペースに農薬を含んだ水が溜まり、根が底まで伸びた頃からその水を吸収していたらしい。
4つの苗のうち影響を最も強く受けたのが「あまたんたん」だった。葉の巻きに加え、花が暴れたように咲く症状が現れ、その花芽は結実することなく落ちていく。
水遣りのたびプランターを傾けて下部の水を流す。葉物野菜が少しでも吸ってくれればと、菊菜をトマトの脇に植えたりもした。
正常な葉が現れて、しばらくするとその葉が巻く。花が咲くも結実せずに落ちる。
何度か繰り返すうち、次第に葉が巻かなくなり花芽に実が見えるようになってくる。
もとから蓋が外れていた「天使のほっぺっぺ」と「うす肌トマトット」が先に回復。そのあとに「ぷるるんるん」と「あまたんたん」が続く。4本の苗が正常に戻るまで2か月ほどかかった。
②鳥のお残し
上部の葉に異常がある中でも、第三果房までは結実して緑の果房ができている。赤く色づくまで約50日。日光に当てれば赤くなるものでもなく、実が付いてからの積算温度で決まる。鈴なりの果房がグラデーションを呈し、いつ収穫するか考えを巡らしていた時に鳥による被害にあう。
玄関前に転がる食べかけのミニトマト。ポロリと落ちた様子を見て、けものではなく鳥だと思った。
森や川が近いので鳥の鳴き声でにぎやかな日もある。カラスかヒヨかスズメか分からないがあまり大きな鳥ではなさそう。
すでに鳥対策として防鳥糸は張ってある。黄色に銀色の糸が混じっていてところどころキラキラ光る。鳥は羽根を大事にするので羽根を痛めることを嫌がり、引っかかることがあるとそこへは寄り付かないようになるらしい。一度は被害に合う覚悟が必要ってこと?
鳥はかなり視力が良いという。遠くからも張り巡らせた糸が見えて、近づくことを諦めるように何重にも糸を巻いた。実が見えにくいようにオーガンジーの布も掛けてある。
けれど雨の翌日は風通しのために布を上げておくこともあった。その日に被害にあってしまった。
鳥の止まり木にならないようプランターの縁ぎりぎりに防鳥糸を追加して張り、ひらひらするリボンも加えてみた。カラスの死骸のオブジェやヘビのおもちゃを吊るすことはしなかった。
栽培後半は布を掛けずに無防備になっているが、鳥による被害はこの一個で止まっている。
つついた時に食べ残しが土に落ちていたらしい。2週間後、根元から沢山の芽が出ているのに気付く。品種改良した株はその実から取った種を植えても同じ特徴の実が付く訳ではないが、もし育つようならどんな苗になるか見てみようと思う。
虫から守る
①ちゅうちゅうカメムシ
防虫剤を使わずにいても目の届くプランター苗なら虫も付かないんじゃないかなと思っていた。実際そう都合良くいかず、いくつかの虫に遭遇する。
最初にみたのはカメムシ。寄せ植えのエンジェルスイアリングの花の汁を吸っていた。凍結するジェットで凍らせて退治。
収穫したトマトの実に吸汁あとを見たのはその少しあと。色づくまで見守ってようやく収穫したミニトマトに点々と針で刺したあとがありその周りが白くなっている。
食味は落ちるが食べられるらしいので熱をかけて食べることにする。トマト入り親子丼。トマトの味は分からなくなったが一つも無駄にしたくなかった。
もうこれ以上カメムシに吸われたくない。吸汁防止のために果房にネットを掛けていくことにした。
ネットは効果的だった。緑のうちに吸われてしまっていたであろう実のいくつかを除いて、この後はカメムシによる被害を見なくなった。
②はらぺこタバコガ
暑くなるとの予報に苗の上方から水遣りして葉水を与える。実にかけていたネットが水浸しになってしまった。蒸れてカビないようしばらく乾かすことにした。
一つのネットの中の、緑の実にタバコガによる被害を見つけた。掛ける前に卵を産み付けられていたのか、実に穴をあけて成長している。この果房だけの被害で済んだことを良しとしよう。房ごと除去。
エリックカールのあおむしは蝶でこれは蛾だ。
③絵を描く、字を書く、ハモグリバエ
エカキムシ、ジカキムシの別名があるハモグリバエ。葉の中を食べながら進んでいく。気が付いた当初は放置していたが、数が増えると生長にも影響が出るらしいので、葉ごと取って行く。ハエの退治は住み着いていた蜘蛛に任せることにする。
いつの間にか蜘蛛の姿が見えなくなり、ハエも見なくなった。パトロールでたまに絵を描かれた葉を見つけて取っている。
夏の名残り
収穫は続いているが、支柱を越えたしそろそろ仕舞う時期となった。今咲いている花が結実したとして収穫するのは10月末。積算温度が稼げずに、もっと遅くなるかも知れない。
苗が終わってしまうのが寂しくて、なかなか摘芯できずにいる。
そしてまた新たに脇芽を育てている。花火が終わってもその楽しい時間をずっと続けたくて、燃えがらと花火の箱や袋を燃やして遊んでいた子供の頃と変わっていない。
燃やすものが無くなる代わりに、気温が次第に下がっていく。温室もない我が家では越冬はもちろん、秋の収穫は厳しそう。
トマトとの思い出をノートに。
惜別の日が来ても思い出せるように。