マガジンのカバー画像

小説のようなもの

36
運営しているクリエイター

#文学

「あそこ!イルカ!」
「どこどこ!?あ、あいつか!」
「え、マジでおるん?」
「インスタあげよ」
都会の海と空気の濁りから解放されて数時間の後たどり着くこの地にて、潮風を満喫していた。

いくら海が綺麗であってもイルカは場違いである。
ここは砂浜だ。
サーフィンをして、ビーチバレーをして、砂の山をつくるところだ。

私たちが泳ぐために海があるのではない。
彼らが優雅に泳ぎ暮らすための海である。

もっとみる

砂糖Sugar

砂糖入れる?

お願い

何個?

何個って、1つでいいよ。角砂糖じゃないんだし。

そう?味覚って人それぞれだから聞いてみたの。私は入れない派かなぁ〜、コーヒーでもお茶でもそのままを味わいたいんだよね。

へぇ〜。
甘いもの好きなのに意外。ご飯とおかずみたいな感じか。

ご飯とは違うよぉ。ご飯は一緒に味わうけど、コーヒーは別。コーヒーで口直しして、ケーキを味わう手助けをしてくれるの。そこに砂糖入

もっとみる

観覧車

観覧車

かんらんしゃ、ってさ可愛らしい名前のくせに漢字にすると和菓子の見た目みたいにダサいよな。

回るだけだもんな。

コーヒーカップもね。

コーヒーカップは、コーヒーがついてる時点であの匂いと大人っぽさが演出されるから良いんだよ。

その割にはファンシーさのカケラもないおこちゃまな見た目とハンドルを回してぐるぐるするというむしろ下品な感じだね。

コーヒーカップはコーヒーカップの中のコーヒ

もっとみる

雨の日

雨の日

しとしと。
雨の割には曇りのようでいて、曇りのようでいて確かな雨足。

急に暗くなる一歩手前の夕方前。

母親が迎えにきたのか一緒に帰路につく小学校低学年の男の子がひとり。

1ピースだけ透明の黄色い傘に黄色いかっぱ。
足も黄色の長靴の徹底ぶり。

そんな親の心配を他所に棒付き飴玉を咥えながらルンルンと雨の中をズイズイと進む。

ちょっと親から離れて水たまりに飛び込む。

きっと楽しくな

もっとみる

はにかみのつもりがニヤニヤ

はにかみのつもりがニヤニヤ

100m走。
屈伸しておいてコースに立つ。
これから始まるという高揚感や不安で固まった空気。
グラウンドの白線の間に立っているだけなのに、クラスメイトの歓声から分離しているような空気。
意識が既に走り終わっている。

パンッ!

ゾワゾワと血流が急なゲリラ豪雨で増水した河川のようにゴウゴウと音を立てて、一歩目の地面の感触と体に跳ね返る衝撃を煙と共に世界から切り取る。

もっとみる

ジェットコースター

カタカタカタカタカタカタカタ。

「見て!今のコユキちゃんの顔みたいな雪化粧した富士山だよ!」

「ありがとう。褒め言葉として受け取るね。真っ青な空みたいな顔だと訂正したい気分だよ」

「空もキレイだね〜コユキちゃんの心みたいに澄んでるね!」

「ありがとう。真っ白で空っぽになりたい気分だよ。富士山になりたい。」

「富士山になったらどんな気分だろうね?寒いとか思うのかな」

「どうだろう。きっと

もっとみる

煙たい

煙たい

あと10分くらいで職場に戻る。
荷物を置いて、まずは一服。

煙は肺の中を踊り、頭の中でも踊る。
張り付いた顔で煙に浸る。

気だるげに片足に体重をかける。
腰ではなく、胸に片手を組んで、そこに右手の肘を乗っけて一緒にタバコを支えてやる。

タバコの癖に重い。
座りたいと思いながら壁に背中を預ける。
崩れ落ちたいのだけれど僅かの理性を使って我慢する。

何回タバコを弾いただろうか。
どう

もっとみる

いや、別に。特には。

ソファの皮が擦れる音。
疲れていることを思い出した。
0時から傾いている針に気づくと瞬く間に全身で明日のことを気にし始めてそわそわする。

役員会でプレゼンをするとか、そんな大それたことはない。
むしろ、今日したことを同じようにするだけだ。
何も気にすることはない。

走り去る車が間をつくる。
どうやら眠いようなので横になる。
暖色を発する天井は、横になる私の心を目覚めさせる。

デートを週末にひ

もっとみる

勇敢

あの人すごい。
自分の鞄置き去りにして。

私の夕刊に載ったな、これ。
ナイスガイ。
何も轢かれた猫ちゃんのことばっか新聞に載せなくてもいいじゃんか。
つまらん人ばっかり。
哀れんで、憐れんで、哀れな人ばっか。
哀れだわ。
私まで哀れみたいだ。
みんな、哀れが好きなんだ。
あわれ。あれれ。あられ。あるら。あぶらかたぶらじゃー。

私はもしかして、少し勇敢なんじゃなかろうか。
あわれなあれれな人たち

もっとみる

怖いもの知らず

すっごいわかる。
怖いんやろ?
わかるわー
あれやろ、なんかこう、ぼんやりと
そこに幽霊でもいそうな感じやろ?
そうそう。そのまんまや。
お化け屋敷と一緒や。
あんな。わかるぅ言うてるのきっとオレだけじゃないで。
ほぼみんな思っとる。
なんでって、そりゃあ、怖いもの知らずなんて言葉があるってことはさ、大体の人怖がってるってことやん。
怖いもの知らずがレアってことやん。激レア。
全然おらんのよ、きっ

もっとみる

呉服

50%Offに騙された。
私の心が騙された。
高いけど在庫切れのあっちが欲しかったんだけど、こっちのほうがオシャレな感じするし絶対いいと思った。
いや、思わされた。
いや、わかってる。私の心が弱いのだ。ちょっと欲張ってしまった。
あっちの半分で買えるんだもの。
いや、これはケチか。
私はケチなのか。
いや、でも1つでいいのに2つ買ったから欲張りなんだ。
最近お団子ばかり買ってるから。そうに違いない

もっとみる

オモチロイ

オモチロイはオモチロイのです。
ちいさいのとキレイなのと一緒になってキレイなのです。

ぼくだってヨウチだけど、オモチロイのです。

オモチロイのはいいことです。

ぼくもおおきくなったらオモチロイ人になりたいです。

朝が来た

「んん...」
朝かなんだかよくわからないけれど、どうやら朝のようで。

目を開けたいと思ったのか思ってないのか、1秒かけて目が開く。

スズメが隣の家の松ではない華奢な木に5羽か10羽かそこらで団らん。

あぁ、音が聞こえる。これは鳥だ。いつもの、ちゅんちゅんだ。うん。んん...

んん...

スマホを持ってしまったから寝返りするのも億劫で、目線だけ天井の角に寝返りしておく。

「さぁ、朝だよ

もっとみる